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第26回全日本ライフセービング・プール競技選手権大会
競技会レポート SERC編
2013/05/24

The 26th Japan National Pool Lifesaving Championships Report - SERC -

レスキュー技術を競うSERC
優勝は大学3、4年生で挑んだ大竹SLSC

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26回目を迎えた全日本LSプール競技選手権大会が、5月18〜19日の2日間、神奈川県の横浜国際プールで開催された。今大会には48クラブ、623人がエントリーし、各競技で熱い戦いが繰り広げられた。
 
室内プールで行われる白熱した戦いと応援合戦に、全日本の会場は熱気ムンムンとなるのだが、一つだけ会場が静まりかえる競技がある。架空の水難事故現場で救助力を評価されるSERCだ。唯一の採点競技であるSERCについて、振り返ってみよう。

2013.5-18-19 神奈川県・横浜国際プール

文・写真=LSweb編集室





SERC採点のポイント


 LSweb最もライフセービングらしい競技と言われる、SERC(シュミレーテッド・エマジェンシー・レスポンス競技)だが、0.01秒まで明確に表示され、順位が決定するほかの種目に比べ、勝敗のポイントが分かりにくい。それは、審査員が救助力のレベルを判断する採点競技だからだ。

 体操やフィギュアスケートなども採点競技で、例えば屈伸宙返りなら1点、伸身宙返りなら2点、あるいはトリプルサルコウなら2点、トリプルルッツなら3点という基準がある。
 SERCも基本的にはほかの採点競技同様、基準となる採点ルールが存在している。その大原則が、レスキューの基本である「安全・確実・迅速」であり、溺者や傷病者のレスキュー優先順位は、以下ように発表されている。

① 泳力の弱い人、自力で移動できる人
② 危険の迫った人(泳げない人、ケガをした泳者)
③ 継続的なケアが必要な人(意識がない人、呼吸がない人、頸椎の損傷が疑わしい人)
 
 
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資料1

ただし、体操やフィギュアスケートと違うのは、SERCには減点システムがないということだ。体操なら着地に失敗したら、フィギュアスケートなら転倒すれば減点される(もっと細かい減点基準もあるはずだ)。しかしSERCの場合は、例え優先順位の低い人に最初にアプローチしたとしても、減点されることはない。
 ではジャッジはどこを見て採点しているのだろうか。今大会の事故状況を例にとり見ていこう。

 今回は、神奈川県内にある水深1.2mのプールで、複数の事故が発生したという設定で行われた。競技者は1チーム4人、競技時間は90秒。状況設定(資料1参照)は、前日の代表者会議で各クラブに伝達されているが、どんな事故が起こっているかは競技がスタートするまで分からない。
 競技当日、競技者が隔離(ロックアップ)された後、事故を含む状況詳細が公表され、競技がスタートする。

 今大会で設定された事故の状況は資料2のとおり(資料2参照)。なお競技者はプールの三方向からアプローチが可能であり、監視タワーには救助用具(バックボード、AED、FAセット、リングブイ、携帯電話)がそろっている。

 ジャッジがまず採点するのは、要救助者役(今回の場合はA〜H)
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資料2

にアプローチしたか、しなかったか。また、どういうタイミングでアプローチしたか。アプローチ方法は適切だったか。そして、その後の対処は適切だったか。
 
 さらに、救助方法が適切、迅速であれば追加点が与えられる。例えば、優先順位が高い要救助者役に、競技開始後すぐにアプローチしていれば追加点が与えられる。あるいは、軽溺者にアプローチするときに道具を使えば加点される、といった具合だ。
 
 ところが、救助が早くても軽溺者に素手でアプローチした場合は、追加点がもらえないこともある。なぜなら、「ライフセーバーの個人的安全が常に最優先される」と競技規則にも書かれているからだ。

 SERCが採点競技である以上、その判定にはルールが必要だ。実際には道具を使わずに救助できたとしてもである。今回の状況設定は、水深1.2mのプールだった。大人ならば、楽に背の立つ深さである。事故など起こりそうにないと思うかもしれないが、実は大会の1週間前、神奈川県内のプールでアルバイトの監視員が溺れて亡くなる事故が起こっている。そのプールの水深は1.2mだった。

「状況設定を考えていた当初は、水深1.3mを想定していました。しかし実際の事故のニュースを聞き、1.2mに変更したのです。水難事故だけに限りませんが、事故というのは思わぬ状況で起こるものです。ライフセーバーにとって、プールという設定は馴染みが薄かったかもしれませんが、救助の基本は海でもプールでも変わりません。どんな状況でもそれを忘れずにいてほしいと思います。もちろん、採点の基準も海とプールで変わりません」(内田直人SERCワーキンググループリーダー)

「素早く救助するというのは大事なポイントです。でも早ければいい、というわけではなく、溺者がマネキンだからといって、粗雑に扱うようでは追加点は入らないでしょう。反対に、例えば重溺者を引き上げたときに、水没している場合はまず吹き込みをしてからCPRに移行すれば、加点につながります。高得点を得るためには、基本はしっかりおさえつつ、ハイレベルな救助技術を披露する必要があるでしょうね」(泉田昌美SERCジャッジ)

 競技終了後、ジャッジのポイントについて答える内田リーダーの映像があるので、参考にしてほしい。


☆競技終了後のSERC総評




大竹SLSCがSERC優勝


 要救助者に声かけをしながら、いかに情報を得るかというのも、追加点を得る大事なポイントだ。

LSweb 今回、チームによって大きな差があったのが要救助者:A2への声かけだった。トイレから戻ったら子どもがいなくなっていた、という設定のA2。しかし「子どもがいません」とは言わず、ただプールサイドをウロウロしているだけ。
 
 ここで「事故が発生しました。座ってください」と声をかけると、A2は素直に座ってしまい情報は得られない(実際にはそんな母親はいないはずなので、改善の余地はあると思うが……)。しかし「どうしました?」と声をかけると、「子どもがいなくなって」と話してくれる。すると、子どもがどこかで溺れているのではないか? というヒントに結びつくわけだ。

 90秒という競技時間の中で、いかに迅速に問題を解決するか。あえていうなら、SERCは一種のロールプレイングゲームのようなものだ。子どもがいない→どこかで溺れているかもしれない→子どもなら浮き輪で遊んでいたかも→浮き輪はあるけど子どもがいない→じゃあ浮き輪の周辺を探してみよう、となればA1の早期発見に結びつく可能性が高まると思うのだがいかがだろう。

 ライフセービング活動に最も近い競技といわれるSERC。だからこそ、救助者は「しっかりやらなきゃ!」と緊張し、プレッシャーもかかるのだろう。でも、これは競技だと割り切れば、もっと柔軟で臨機応変な対処ができるのではないだろうか。
 
LSweb 今回、並み居る強豪を抑えて優勝した大竹SLSCの得点は183ポイントだったが、実は今回の状況設定では、最高で294点まで加点することが可能だった。「安全・確実」という普段通りのルールを守り、さらに迅速に、さらに加点をもらえるようにするには、まじめ一辺倒ではなく、頭を少し柔らかくする必要があるのかもしれない。ひいてはそれが、さまざまな状況を想定しなければならない、実際のパトロールにも役立つことになるはずだ。

 順位は24位だったが、事故現場というシミュレーションをよく分析し、競技に臨んでいたと感じたのが、草柳尚志、久保美沙代、そして2人の高校生、森野友也と永石哲朗で挑んだ和田浦LSCだ。
 
 LSweb競技開始とともに、草柳が「事故が起きました。皆さん、まずコースロープにつかまってください」と落ち着いた良く通る声で呼びかけ、それから救助に取りかかった。
 プールならばコースロープが張られているだろう→つかまれる人、つかまれない人で状況を把握することができる→それぞれに応じた救助をする、そんな合理性とストーリー性が見えるSERCだった。

 優勝した大竹SLSCはSERC上位入賞の常連チームで、2006年にはこの種目で優勝も経験している。今年チームを組んだのは筑波大学3、4年生の鶴薗宏海、赤田樹皇、森 大輝、浅岡紘季の4人だ。

「代表者会議で状況設定が伝達されたときにまず思ったのが、アクセスできる場所が多いプールなので、泳力に頼らなくてもいいから、競技の難易度はそれほど高くならないだろう、ということです。要救助者をすべてピックアップするチームも多いかもしれないと思いました。それならばなおさら、一つ一つを丁寧に、確実に、そして安全に、そこをきちんとやろうと話し合いました」
 と言う鶴薗だが、競技終了後は反省点が山積だったと、こう続けた。

 「競技が終わった時には、自分のせいで負けたと思いました。水没しているマネキンがいるのを分かっていながら、ほかの人への対処に手間取って、具体的には『携帯で119判通報してください』とまで指示してしまったため、マネキンをあげる時間がなくなってしまったのです」
 森もしきりに反省する。
「子どもが迷子になっている人から情報を引き出すような声かけができなかったこと、FAボックスを監視タワーの反対側まで持っていってしまい、本当に必要な人の手当てができなかったことが、悔やまれます」
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 「FAボックスを持っていかれたことで焦ってしまい、本当はもっと水の中でも手伝うことができたのではないかと落ち込みました」
 と言うのは赤田だ。
「反省点はもちろんあります。でも、事前に練習していたことは確実にできたと思います」
 と最後にきっぱりと答えてくれた浅岡は、
「実は昨晩も、2006年の優勝メンバーで、海外赴任している先輩にスカイプで電話し、アドバイスをもらったんです」
 と笑顔を見せた。
 基本に忠実に、そして丁寧にレスキューを行った大竹SLSCの4人。ジャッジはそこを高く評価したのだ。

 2位は長竹康介、荒井洋佑、荒井 閑、篠 郁蘭がチームを組んだ西浜SLSCだった。長竹、荒井洋佑、篠は現役の消防士。救命救急の現場で働くプロとして、また昨年優勝の実績もあり、安定感あるレスキューを見せてくれた。
 蛇足だが、荒井洋佑、荒井 閑(旧姓:勝俣)は結婚式を挙げたばかり。夫婦共演は四半世紀を超える全日本の歴史の中でも、初めてに違いない。結婚とSERCの優秀なる成績に、おめでとう!
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 3位は早稲田大学LSCが入った。このSERCのポイントが、総合2位の躍進に繋がったのは間違いないだろう。
 以下、東京消防庁LSC、愛知LSC、玉川大学LSC、銚子LSC、大阪体育大学LSCと続いた。

 残念だったのは、ロックアップの集合時間に間に合わず、6チームが失格、1チームが棄権となったことだ。SERCに参加しなければ、総合順位もつかない。これもまた、全日本LSプール競技選手権のルールである。

=敬称略


☆SERC成績
1位:大竹SLSC 183ポイント
2位:西浜SLSC 180ポイント
3位:早稲田大学LSC 172ポイント
4位:東京消防庁LSC 167ポイント
5位:愛知LSC 166ポイント
5位:玉川大学LSC 166ポイント
5位:銚子LSC 166ポイント
8位:大阪体育大学LSC 161ポイント








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