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第27回全日本ライフセービング・プール競技選手権大会 競技会レポート SERC編2014/05/20

The 27th Japan National Pool Lifesaving Pool Championships SERC Report

水難事故発生
安全・迅速・確実にレスキューせよ!


LSweb5月17〜18日、神奈川県横浜市の横浜国際プールで、46チーム、632人が参加した第27回全日本ライフセービング・プール競技選手権大会が開催された。

2日間にわたって行われた大会の中で、最もライフセービングらしい競技といわれるのが、会場に水難事故現場を再現し、選手の救助能力を採点するSERC(シミューレーテッド・エマージェンシー・レスポンス競技)だ。

今回の会場設定や内容をSERC担当委員の内田直人さんの解説を交えながら考察していこう。また、上位3チームの映像も載せてみたので、こちらも参照していただきたい。

文・写真=LSweb編集室





難しかった今年のSERC

LSweb 今年のSERCは、〝神奈川県内にある防波堤と岩場に囲まれた、とある海水浴場で複数の事故が発生した〟という状況で行われた。

 海水浴場は遊泳区域と遊泳区域外に分かれており、陸上には警護本部が置かれている。警護本部には連絡係のライフセーバーが待機しているが、救助業務などは行わない設定だ(資料1参照)。

 重溺者から連絡係のライフセーバーまで、対応しなければならない演技者(マネキン含む)は12人(資料2参照)。この12人に、90秒という限られた時間でどう対処するかが、採点の分かれ道となった。

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資料1


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資料2


 1チーム4人で行われるSERCには35チームがエントリーしたが、棄権が1チームあり、競技したのは34チームとなった。結果は以下のとおりだ。
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  • 1位:流通経済大学LSC     337pt    70.21%
  • 2位:東京消防庁LSC      313pt    65.21%
  • 3位:日本大学SLSC       307pt   63.96%
  • 4位:日本体育大学LSC     296pt    61.67%
  • 5位:大竹SLSC         281pt   58.54%
  • 6位:国士舘大学LSC       77pt    57.71%
  • 7位:銚子LSC          276pt    57.50%
  • 8位:東京女子体育大学LSC    268pt    55.83%

 この結果を踏まえて、SERCワーキンググループリーダーの内田直人さんに話しを伺った。

    
  ———今回の状況設定のポイントは?

LSweb 今回の特徴を一言でいえば、対処しなければならない案件が多かったということでしょう。率直に言って、難しかったと思います。

 海水浴場で起こるような事故を想定していったら、この数になったわけですが、ゴールデンウィークに新潟で4人が亡くなる事故が起こったことも踏まえ、遊泳区域外にも演技者を配置しました。

 新潟の例を出すまでもなく、事故は海水浴場以外の場所で発生することが多く、またライフセーバーなら誰しも、BBQをしている人たちに注意をするため遊泳区域外をパトロールしたり、岩場で足を切った人の手当てをしたことがあると思います。
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 また今年は世界大会の年。日本代表は過去にSERCでメダルを獲得していますから、そういう部分の強化にも繋がればと、日本代表コーチの佐藤文机子さんにワーキンググループへ参加してもらいました。

 彼女から、世界大会では障害者や外国人に対応する場面があったと聞き、視覚障害者(役者4)を配置するなどしていったらこの数になったということです。

 SERCは採点競技です。状況設定が簡単過ぎると優劣がつきづらくなります。今回はたくさん症例がある中で、優先順位をきちんと見定めて着手しているか、対応する時のクオリティーはどうかを見ることにしました。

———流通経済大学LSCが優勝したポイントは?

LSweb 今回のように対処しなければいけない救助者が多い場合、誰がどのレベルに合致しているのか、まず、その見極めができるかできないかが重要です。

 上位チームはどこもレベルが高いので、あのチームはできていて、このチームはできていない、ということは正直ないのです。ただ、ひとつひとつの案件について、どちらがより手厚く対応していたか、ということのポイント差になったと思います。

 公表されているように、レスキューには優先順位があります。最初に助けるべき人は「泳力の弱い人・自力で移動できる人」で、次が「危険の迫った人(泳げない人・ケガをした泳者)」、最後が「継続的なケアが必要な人(意識がない人・呼吸がない人・頸椎の損傷が疑われる人)」です。

 今回、点数が低かったチームは、その判断がきちんとできていたのか、まずはそこからチェックしてみてください。例えば、役者3と役者4、役者6と役者7はどういうレベルなのか、といった判断です。

———特に気になった点は?

LSweb 全体的にまだまだだなと思ったのは、役者4の視覚障害者への対応です。
 視覚障害者に対する知識がないこともあると思いますが、白杖を引っ張るという一番やってほしくないことをやってしまったチームもありました。あるいは連れ回したり……。

 視覚障害者は傷病者ではありませんから、空間的な認識ができる場所、例えば防波堤に触らせて待たせる、座らせるといった対応が良かったと思います。

 また、白杖を奪っては困りますが、貸して下さいと断って使うのはOKです。その時にも、ただ「貸して下さい」ではなく「溺者がいるので」と状況を説明した上で借りると、相手も安心しますよね。

 同じことはシュノーケルをしていた役者Aと役者Bにも当てはまります。状況を説明して、ゴーグルを借りれば点数が上がりますが、半分奪い取るような形では追加点は得られないでしょうね。
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 もう一つは、本部にいるライフセーバーとのコニュニケーションです。本部にはトランシーバーがあり、それを持って岩場でケガをしている役者1のレスキューに向かうチームもありましたが、普段のガードを同じようにトランシーバーを活用し、本部とのやりとりができているチームは少なかったと感じました。

 ドライレスキューを実行するチームも、こちらの意図より少なかったですね。役者4などはチューブにつかまらせて、防波堤を歩きながら引っ張って波打ち際まで運ぶのがベストな対象方法ですから。

 ただ、救助者が多い中で、状況を把握し、優先順位をつけ、まんべんなく対応したという点では、上位入賞チームは本当に良くやったと思います。

———今後に向けてのアドバイスは?

LSweb 上位のチームは指示系統がしっかりしていました。声の大きい、小さい、高い、低いではなく、パトロールキャプテンが分かりやすい指示を出していたか、一つのポイントはそこだと思います。

 正直なことを言えば、泳ぎが得意でないメンバーがパトロールキャップを被っている、と見受けられるチームもありました。同じ事の繰り返しや、ただ大きな声を出しているだけ、というのは観客にも分かることですから。

 ただ、リーダーシップを発揮するだけではダメで、キャプテンでもある程度はプレーヤーにならないと、これだけ症例が多いと対処しきれません。LSweb
 全体を見ながら指示を出しつつ、例えばクラゲに刺された人(役者9)、足を攣った人(役者8)に対応する、そこができていたか、いなかったかも得点に結びつく要素だったでしょうね。

 今回初めて、得点だけでなく達成率という数字を出しました。満点だと480点というのが今回の設定ですが、上位入賞するためには、達成率70%が一つの目安になるということが示せたと思います。

 
    

 上位3チームの競技映像はこちら。内田さんの総評を踏まえて見てほしい。


*SERC上位3チーム競技映像(Shot&Edited by LIFESAVINGweb.com)






3月から準備を始めた流通経済大学LSC

LSweb 優勝した流通経済大学LSCは、4年生2人、3年生2人の体制で競技に望んだ。

 「基本に忠実に、全員発見、全員救助を目標にやりました。OBや先輩がアドバイス役を引き受けてくださり、作ってもらったシナリオを元に毎日練習しました」
 表彰台の一番高い場所でメダルをかけってもらった高橋源暉選手、池田知裕選手、尾内浩紀選手、具志陽介選手の4人は、上気した顔でこう話した。

 後輩のためにSERCアドバイザーを引き受けた一人が、今年3月に卒業した園田 俊選手だ。

 「流通経済大学LSCは初めてSERCに参加した年に優勝、その後も常に上位入賞を果たしていましたが、昨年は史上最低の順位に。その時、自分たちは4年生で、とても情けない思いをしました。SERCの流経! という伝統を築きたいと思いアドバイザーを引き受けました。
ただ、SERCのためだけの練習にしたくなかったので、ギリギリまでメンバーを決めず、全員参加でやりました。今回のメンバーは特にしっかりしていましたが、誰が出ても同じことができた自信はあります」

 「練習では毎日テーマを決めて、例えば、今日はとにかく優先順位だけば完璧に、今日はコニュニケーションをしっかり……というように、一つ一つ、確実にマスターしていけるようにしました。その結果が出たと思うので、優勝できて僕も本当に嬉しいです」
と、後輩たちの快挙に頰を緩めた。

 2位は東京消防庁LSC。
 「職業でレスキューに携わっている者としては、やはり2位は悔しいです」
と、チームを率いた本多辰也選手は口にしたが、救助スピードと手際の良さは、さすがプロだった。
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 3位には落ち着いて競技に臨んだ日本大学SLSCが入った。SERCの入賞が総合成績に反映されたことは間違いないだろう。

 模擬レスキューを競うSERCは、参加しないライフセーバーにとっても、自分ならどうするかと考えながら観戦する楽しみがある。もちろん観客や他のクラブの反応は素直で、上位入賞チームは大抵、競技終了後の拍手が多く、ライフセーバーの能力を“魅せる”競技でもあるのだ。









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