Andmore

-
LSweb
ライフセーバーのための気象予報講座②2015/07/07

Weather Information for Lifesavers②

LSweb7月は海開きのシーズン。

全国各地で順次、海水浴場がオープンする。こうなると気になるのがお天気だ。

しかし、梅雨明けした沖縄地方をのぞき、全国的に梅雨本番の天候が続いている。

今年の梅雨明けはいつ頃になるのかな?

ライフセーバーであり気象予報士でもある九十九里LSC所属の松永 祐さんによる好評連載、「ライフセーバーのための気象予報講座」の2回目は雨を降らせる雲について。
(LSweb編集室)

文・写真=松永 祐(九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC)




上を向いて歩こう

LSweb 今、この記事を読んでいるあなたは、パソコンのモニターやスマホの画面を眺めているはずだ。

 スマホの普及に先行き不透明な世の中が重なり、目線が下向きになりがちな昨今だが、少し意識をして顔を上げてみよう。

 ビルの間や窓の外に少しでも空が見えていないだろうか。そしてその空には、どのような雲があるだろうか。

 すがすがしい青空にクジラ、わたあめ……と楽しみながら雲の形を観察できる日はまだいい。

 しとしと雨が降る日、どんよりとした日、ジリジリと太陽が照りつけている日などは、気分も下向きかもしれないが、そんな日にも顔を上げて空を見てみよう。

 そのたびに違った形の雲ができているはずだ。

クジラさん、なぜそこに居るのかね?

 なぜ、空にクジラみたいな雲があるのか。そこにはしっかりとした理由がある。

 雲の材料は小さな水滴である。いろいろな条件によって、そこに小さな小さな水滴が集まり、地上から見ると白い雲に見えているのだ。weather02

 水滴の直径は大きいもので0.01ミリメートル程度といわれている。この小さな水滴の集まりの中に入ると、遠くが見えず自分の周りが真っ白になり、人間は「霧」として認識することになる。

 しかし、日常生活でこのような小さな水滴(霧)に取り囲まれたことは、そう頻繁にはないだろう。クジラやわたあめのような雲を頭の上に浮かべるためには、何も見えないところからこの小さな水滴を作らなければならない。

 ではどうやって小さな水滴を作るか?
 キーワードは、「空気を冷やす」だ。

温度と水の切っても切れない関係性

 まず、雲の材料である水の性質を見てみよう。LSweb

 小学校や中学校の時に「水」は固体・液体・気体の3種類に化けることを習っただろう。液体の水は皆さんが活動するメインフィールドにたくさんあるので簡単にイメージできるはずだ。

 では、気体の水はどのような状態なのだろうか? こんな視点で見てみよう。

「水」は水素(H)と酸素(O)から構成された水分子(H2O)というものからできている。

 水分子の大きさは0.00000038ミリメートル。んーーー小さいっ! 見えない!

 これが単独かつ高速で空気中を自由に飛び回っている。飛び回るスピードも速すぎて見えない! これが「気体の水」である。

 皆さんを取り囲んでいる「空気」と呼ばれているものも、同じように酸素や窒素の目に見えないくらい小さな分子が飛び回っているのだ。
 元気に飛び回っていられるのは、たくさんのエネルギーがある、つまり温度が高いためだ。

 この温度が高い(暖かい)空気を冷やすと、エネルギー不足により一部の水分子が飛び回れなくなり、くっつき始める。

 飛び回れない水分子がたくさんくっついて目に見えるようになったものが液体の水である。

 温度が低ければ低いほど、元気に飛び回れる水分子は減り、液体の水がたくさん現れる。こうしてできた液体の水がぷかぷかと空を漂っていると雲として見えるわけだ。

 つまり、温度が高いほど空気には“気体の水”が多く含まれ、低いほど少ない。LSweb

 そういえば、人間も同じかもしれない。

 10月頃まではたくさんのライフセーバーが元気に砂浜を走り回っていたが、気温が下がるにつれ寒がりの人から順に体の動きが鈍るとともに、元気に海に入る人数がどんどん減る。さらに寒くなるクリスマス頃には、誰かとくっつきたくなる。

 走り回るライフセーバーが気体で、動きが鈍くなりくっついてしまった人が水滴で、その水滴がクリスマス・イルミネーションの下にたくさん集まったのが雲……というわけだ。

空気は上下にも動く

080274a 空気を冷やせば、雲ができることはわかった。ではどうやって冷やそうか。

 地球は主に2つの方法で雲を作る。

 1つ目は、寒いところに暖かい空気を横移動させればよい。

 九州のジメジメ蒸し蒸しした空気を袋に入れて電車で運び、北海道最北端の稚内まで持って行けば、雲ができる(実際には袋の内側がびしょびしょになるだけだが)。

 冬、窓ガラスに向けて息を吹きかけると窓ガラスが曇るのも同じ原理だ。
 
 体温で36°Cに暖められた湿気の多い空気が、窓ガラスに触れた瞬間に0°C程度まで冷えて、液体の水(雲の水滴)が出てくる。しかし、これでは頭の上にクジラやわたあめを浮かべることはできない。

 2つ目の方法は、手元にある空気を高い所に持って行く方法だ。

 夏に山に登ると、風が涼しくて気持ちいいと感じる。標高が高い山の上は、皆さんが住んでいる平地よりも気温が低い。同じように、空も高いところほど気温が低いのだ(気温が低い理由はいくつかあるが、ここでは省略)。

LSweb 手元の空気を空高くに持って行く。そうすれば、さきほどの水の変化により頭の上にクジラを作ることができる。

 しかし空気を空高く持って行くためには、エレベーターもクレーンも使えない。そこで地球が使ったのは「熱」である。

 例えば、カップラーメンにアツアツのお湯を注ぐと、湯気がもくもくと上がるだろう。バーベキューをした時も、炎や火の粉が上へ上へと舞い上がっているのも見たことがあるはずだ。

 これは空気が暖められ、上昇する流れに火の粉が混じっているのだ。逆に、クーラーの冷気が足元から来るように、冷たい空気は下へ下へと向かおうとする。

 ライフセーバーの皆さんは、パトロールログに「南風」とか「西風」と書いていると思うが、これは横方向の空気の動き。

 これに加え、まわりより暖かい空気が空高くに上昇し、温度が下がり、水滴ができるという縦方向の動きよって雲が作られているのだ。


 空気はさまざまな動きをする。では、どこでどのように動くのか。さらにこの梅雨のどんよりした雲はいつまであるのか、台風はどれだけ強まっているのか。頭の上だけではなくもっと広い視点でこれを読み取ってみよう。

 これが読み取れるようになれば、おのずと天気の変化も分かるようになる。空気の動きを読み取る材料のひとつが「天気図」だ。次回はいよいよ天気図の出番である。

 その前に……もう一度空を見てみよう。この記事を読み始める前と何か変化はないだろうか?
LSwebLSweb


    
 
[プロフィール]

LSweb
松永 祐(まつなが・ゆう)

九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC所属のライフセーバー。

大学4年時の2005年に気象予報士資格(第5292号)を取得。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)に勤める海のエキスパートであり、競技会を支える安全課のメンバーの一人でもある。


 
    








And more 記事タイトル 一覧

年別アーカイブ



-