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東北3県で開催
第一三共ジュニアライフセービング教室
2012/10/25

Jr Lifesaving in Tohoku!

日本ライフセービング協会(JLA)が主催する
「第一三共ジュニアライフセービング教室」が、
今年9月、10月に東北地方で初めて開催された。

山形県、青森県、岩手県の3県3会場で行われたジュニア教室には、
県内、近県の子どもたち計115人が参加し、
友だちと一緒に命の大切さ考え、セルフレスキューの方法を学んだ。

文・写真=LSweb編集室






東北でジュニア教室を開催する意義


 LSweb第一三共株式会社の協賛を得て開催されたジュニアライフセービング教室が、9月16日に山形県の山形総合スポーツセンターで、9月29日に青森県の航空自衛隊車力分屯基地室内プールで、そして10月14日に岩手県の釜石市営プールで開催された。
 
 東北地方で海水浴が楽しめるのは、基本的に1年のうち1カ月しかないということで、今回は第一三共ジュニアライフセービング教室としては初めて、子どもたちにとって身近なプールでの講習となった。
 
 小学4年生から中学生を対象としたジュニア教室は、座学と心配蘇生法を体験する陸上プログラムの後、プールに移動し、セルフレスキューやドライレスキュー(水に入らずに救助する)を学ぶ水上プログラムの二部制で行われ、どの会場でも子どもたちの元気な声が響いたのだった。

LSweb LSweb編集室が取材に訪れた岩手県の釜石会場には、地元、釜石だけではなく、遠野や盛岡、宮城県の気仙沼からも多くの子どもたちが集まった。初対面の子どもたちも多く、まずは自己紹介を兼ねた座学からスタート。続いて、CPR・AED学習キット「ミニアン」を使った心肺蘇生法の練習に移行する。

 CPRの必要性や、やり方を学んだ後にキットで実践するのだが、小学生といえども手加減はなし。アンパンマンマーチが1曲終わるまで、全員がCPRを続けた。
「えー、まだ終わらないの〜」「手が痛くなった〜」と声を上げる子どもたちもいたが、心臓マッサージには力がいること、救急隊がかけつけるまで続けること、など命を救うことがいかに大変かを実感できたはずだ。

 続いて水着に着替えた子どもたちがプールに集合。体操、水慣れに続き、浮き身や立ち泳ぎの練習、ビート板やペットボトル、ライフジャケットを使ってのセルフレスキュー、ドライレスキューの方法を学んだ。
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 座学では少し硬い表情だった子どもたちも、プールに入れば元気はつらつ。インストラクターのお手本を見ながら、一生懸命、浮き身の練習をしたり、うまくいくまで何度も、友だちに向かってペットボトルを投げたり、ライフジャケットの正しい着用方法を教え合ったりしていた。
 
 ジュニア教室終了後、「練習したら浮き身ができるようになったのが嬉しかった」と笑顔を見せたのは、普段は遠野でスイミングスクールに通っているという熊谷航大くん(11歳)。同じスイミングスクールに通う、菊池龍仁くん(10歳)、鈴木未代子さん(10歳)も、口々に「僕もできた」「私もできた」と成果を報告してくれた。

 「ペットボトルでも浮くって分かって面白かった」と話してくれたのは、気仙沼からやってきた斉藤星也くん(10歳)。その横で、「準備、大変だったんだよ」とポツリともらしたのが、地元、釜石の子どもたちだ。
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 東北3県で開催された今回のジュニアライフセービング教室は、地元クラブの協力なくしてはできなかった。42人が参加した山形会場では山形LSCが、38人が参加した青森会場ではつがるLSCが、そして35人が参加した釜石会場では釜石LSCのメンバーが中心となり、事前の告知や準備、当日の運営、後片付けに尽力してくれた。
 
 ライフセービング活動の歴史も浅く、夏も短い東北地方。どのクラブも、どうやってライフセービングを広めていくかを模索している。さらに岩手、宮城両県は、震災からの復興もまだ始まったばかりだ。でもだからこそ、子ども時代から命について考え、人を助ける知識や技術を学ぶことは大いに意義にあることだと思う。

LSweb  「こういう時期だからこそ、東北で初めて開催されるJLA主催のジュニア教室に、弊社が再び協賛できることは嬉しいことです」と話すのは、2001年から継続的にサポートを行っている、第一三共株式会社 コーポレートコミュニケーション部 広報グループ長の田前雅也さん(2005年までは三共株式会社がサポート)。子どもたちの真剣な表情を目にし、「今後もできるかぎりのお手伝いをしたい」と付け加えてくれた。
 
 今回のジュニア教室は、東北初というだけでなく、プールで行われた初めてのプログラムだった。プールならば季節を問わず、また天候に左右されずに開催することができる。ライフセービングの普及、ひいては水の事故を少しでも減らすための、あらたな一歩となることを期待したい。


活動の火を絶やさぬように

 LSweb 東北3県で行われた今回のジュニア教室。3会場の中には震災被害をまともに受け、復興途中にある岩手県の釜石市もあった。同地区でライフセービング活動を行い、ホストクラブとして釜石でのジュニア教室を支えた釜石LSC代表の佐々木 聡さんに、同地域でのライフセービング活動の見通しを伺った。

「活動拠点としていた海水浴場は、昨年の震災でどこも大きな被害を受けました。正直なところ、海辺の復興にはまだまだ時間がかかると思います。どのくらいかかるのか……それも暗中模索の状態です。
 以前のように海水浴が楽しめるようになるには、大きな被害は受けたけれども、やっぱり海という観光資源をもう一度活用しようよ、という地元の人たちの総意が必要です。
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 私たちにできることは、そういう声がもっと盛り上がるようにサポートすること。心に強く刻まれた“津波は怖い”という気持ちは致し方ないことですが、水と安全に接するための知識や方法があることを、もっと積極的にアピールしていったほうがいいのでしょうね。
 そのためにも今回のジュニア教室のような機会があれば、どんどん手を上げてやっていきたいと思います。
 
 それから、釜石のクラブだから釜石の浜で活動しなければダメ、ということはないと思うのです。そこは柔軟に、こういう時だからこそ、普段は行くことができない浜へ行って活動できればと、今年は宮城県で唯一海開きした気仙沼大島へお手伝いに行きましたし、秋田へも出かけました。
 とにかく、出来る範囲で続けていかなければ……。何らかの形で活動を継続していかなければいけませんからね」

 震災から1年7カ月。被災地のライフセーバーたちは、復興と同時に、その後を見すえた活動を続けている。


東北の新しい文化として

LSweb まもなく11月。東北地方はこれから、長く厳しい冬を迎える。しかし今回、初めて第一三共ジュニアライフセービング教室が開催され、大勢の子どもたちが参加してくれたように、東北地方でも確実に活動の輪は広まっている。そこで、この地でいくつものライフセービングクラブを立ち上げ、地道な普及を続けてきた盛岡LSC代表の松原浩一さんに、今後の展望をお聞きした。なお、松原さんはJLA東北支部設立準備委員会の事務局長でもある。

LSweb  「東北地方の場合、関東と同じようにはライフセービングを普及することができません。なにしろ若年人口がどんどん減っている地域ですから。大学に入ったら東京へ行ってしまう。そして帰ってこない……。だから必然的に社会人が活動の主体となっていたのですが、いつまでもそれではいけないということで、ジュニアを育てることに力を入れ始めた矢先に、昨年の震災が起こりました。
 
 それでもやはり、ジュニア育成に力を入れていることには変わりありません。子どもの時からライフセービングをやることで、例えば盛岡LSCの子どもたちには積極的に大会に出るように薦めていますが、競技でドンケツになってもいいから、全国に仲間がいることを知り、仲間との絆を感じてほしいと思っています。それが自分たちの誇りになり、町の誇りになり、復興の力になると信じているからです。
 
 自分が育った地域で活動することで町に魅力を感じてくれ、大学進学で東京に出たとしても帰ってきてくれるようになれば、人口流出にも歯止めがかかるでしょう。単にライフセービングを広めるだけではなく、それによって地域を活性化させたいという、大きな希望を持っています。

 はっきり言うと今、津波の被害にあった岩手県の海岸地域は、人口流出が深刻な問題です。一時避難で盛岡や花巻に住んだ人たちが『もう戻りたくない』と言うわけです。確かに内陸は便利だし、津波の心配もない。でもそれに拍車がかかれば、地域社会がどんどん衰退してしまうし、復興だった遅れてしまいます。
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 ライフセービングという新しい価値観を東北に根付かせ、子どもたちにもう一度海を見てもらいたい。そして震災を経験した子どもたちが、復興という過程の中で自分たちの町を愛し、他人のことに感心を持って手を差し伸べられるようになれば、万が一、次に災害があった時にも減災に繋がると思うのです。
 一人でも多くの人にライフセービングを理解してもらい、東北の中で理解者と参加者を増やしていくために、そして新しい文化としてライフセービングを東北に根付かせていくために、各クラブまたJLAの力を借りながら、支部化もしっかり進めていきたいです」

 東北地方では現在、つがるLSC(青森県)、秋田LSC(秋田県)、盛岡LSC(岩手県)、釜石LSC(岩手県)、山形LSC(山形県)、気仙沼LSC(宮城県)の6クラブが、ジュニアライフセーバーの受け入れを行っている。
 興味のある方は、盛岡LSCのウェブサイト内にある東北支部設立準備委員会情報局にアクセスしてほしい。

LSweb
盛岡LSCウェブサイト:http://www5a.biglobe.ne.jp/~north40/