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西浜SLSCのサーフボート
3年ぶりに由比ヶ浜上陸を達成!
2013/08/31

鎌倉ライフガードが歓迎のお出迎え!

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8月もいよいよ終わりに近づいた8月29日——。

まだ日の出前の薄暗闇の中、「ソーレ、ソーレ」のかけ声とともに、1艇のボートが海へと漕ぎ出していった。船尾には「NISHIHAMA S.L.S.C.」の文字。

神奈川県藤沢市を活動拠点とする西浜サーフライフセービングクラブにとって、夏の大切な伝統行事である「サーフボートでの由比ヶ浜上陸」が決行された。




文・写真=LSweb編集室




西浜のアイコン、サーフボート


LSweb 昨年、創立50周年を迎えた西浜SLSCにとって、サーフボート(カッター)は特別な存在だ。それは、同クラブのアイコンとして、ロゴマークに使われていることでも分かるだろう。

 西浜SLSCが活動を始めた1960年代当時、日本にはまだレスキューボードもレスキューチューブもなく、手漕ぎボートが有効な救助機材だった。そんな歴史的な背景はもちろんあるのだが、それだけではない思い入れが、クラブメンバーにはある。

 カッター班に選ばれること、クルーとして練習すること、そしてそこから得たシーマンシップや仲間との絆は、ライフセービング活動の中でも、ひときわ印象深い思い出として心に残る。そういう記憶を持つメンバーが何代にもわたって所属し、またそのメンバーたちを尊敬と憧れの眼差しで見つめる多くの若手がいるのが、西浜SLSCなのである。

 そんな西浜SLSCにとって、サーフボートで由比ヶ浜に上陸するのは古くから続く夏の伝統行事だ。かつてはほぼ毎年行われていたが、2000年代に入ってからは天候不良やガード業務の多忙、また艇の老朽化に伴うメインテナンスの必要性などから、由比ヶ浜に上陸できない年も多くなっていた。しかし、今年は天候にも恵まれ、社会人メンバーによる艇の整備も万全。万を持して、由比ヶ浜を目指すことになった。

 藤沢市の片瀬西浜海岸から鎌倉市の由比ヶ浜海岸までは、海路約9キロ(約5海里)の航程。直近では2010年、その前は2005年に上陸した由比ヶ浜へ、今年、3年ぶりに向かうことになったメンバーは、カッター班長の榊原雅弘さん(東海大学清水校舎3年)以下、5人の大学生である。

いざ、鎌倉へ

LSweb 午前4時過ぎ。西浜警備本部に明かりが灯ると、まだ真っ暗な海岸に一人、また一人とメンバーたちが集まってきた。サーフボートの定員は、舵取りのスイープを筆頭に、船首側からバウ、セカンドバウ、セカンドストローク、ストロークという漕ぎ手4人の計5人。しかし、集まる人影は後を絶たず、30分もすると50人規模にふくれあがった。

 サーフボートの船出を見送り、海岸線を陸路で伴走し、由比ヶ浜で迎えようという西浜SLSCの仲間たちだ。

 その面々に向かい、スイムウエアにコンペキャップをかぶった5人が一列に整列した。榊原さん、坂入綾菜さん(流通経済大学2年)、棟方恭太郎さん(流通経済大学1年)、生見 亮さん(早稲田大学1年)、片岡潤吾さん(流通経済大学2年)だ。見送りメンバーを前に、榊原さんは息を大きく一つ吸い込むと「では、行ってきます」と挨拶した。

 時刻は5時10分前。日の出までまだ20分ほどある海へ、ソーレ、ソーレのかけ声とともにサーフボートが漕ぎ出していった。ほどなく、見送りメンバーからもソーレ、ソーレの声が上がる。海からのソーレと、浜からのソーレが合唱となった瞬間、急に空が白み始めたように感じた。
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 そこから、陸上班は慌ただしく移動を開始。自転車に飛び乗る人、バイクにまたがる人、走って駐車場へ向かい車に相乗りする人……。海沿いの国道134号線は、東へと向かう色黒の人々でにわかに騒がしくなった。

 七里ガ浜、稲村ヶ崎とポイント、ポイントに先回りしては、沖を眺めてサーフボートの姿を確認するメンバーたち。「もっと近づいてくれないと見えないよー」「漕ぎ方、だんだん揃ってきたな〜」「大丈夫かな、疲れてないかな?」そんな声とともに、自然発生的にソーレ、ソーレのかけ声が沖に向かってかけられた。
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 そして時たま「遥さ〜ん、がんばってー」の声が。実は、西浜SLSCからは、昨年のカッター班長である中村 遥さんがサーフスキーで伴走していたのだ。そして江の島を越えた鎌倉腰越海岸からは、鎌倉ライフガードの浦 健太さんがエスコート役として合流。快晴に恵まれた朝の海を順調に東進した。

感謝の気持ちを「キア立て」に込めて

LSweb 午前6時過ぎ。三々五々、由比ヶ浜に到着した陸上部隊を出迎えてくれたのは、鎌倉ライフガードのメンバーたちだ。さらに彼らはレスキューボード、PWC、そして監視艇まで出し、沖で待機していてくれた。そこに、ソーレ、ソーレのかけ声とともにやってきたサーフボートは6時20分、穏やかな絶好の遠航日和の中、バウを静かに砂につけ、由比ヶ浜上陸を果たした。

「今の気持ちを表すなら、一言 “感動!”です」と声を震わせた榊原さん。

「ようこそ、由比ヶ浜へ。こういう交流ができるのはとても嬉しいことですし、西浜SLSCのカラーと伝統を改めて感じることができ、大いに刺激を受けました。私たちも鎌倉らしさを追求しながら、西浜に負けないようがんばります」と歓迎の挨拶をしたのは、鎌倉LG理事の佐藤雄太さんだ。

 由比ヶ浜には、西浜SLSC理事長の土志田 仁さんや、理事の風間隆宏さんも駆けつけ、感動を共有したのだった。
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 ライフセーバーたちの朝は忙しい。8時には監視業務が開始される。街が本格的に動き始める頃、すがすがしい朝日を背に海へ戻ったサーフボート。そして由比ヶ浜沖で一端、船足を止めると、スターボードサイド(右舷側)を浜に正対させ、ゆっくりと1本、1本、オール(櫂)を順番に空に向かって立てていった。これが、西浜SLSCのロゴマークともなっている「キア立て」だ。

 海軍などでは「櫂(かい)立て」と言われるこのポーズは、感謝の意や祝福を表す、敬礼や万歳を意味している。
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 迎えてくれた鎌倉LGに感謝。支えてくれた西浜SLSCのメンバーに感謝、そして一緒に漕いでくれたクルー仲間に感謝。万感の思いが詰まったキア立ては、実に見事だった。3年ぶりに達成されたサーフボートでの由比ヶ浜上陸。クライマックスは上陸の後に訪れたようだ。LSweb


無事帰着、そして……


LSweb この日、クルーたちは西浜へ無事帰着するまでにもう2回、キア立てをしている。片瀬東浜海岸の警備本部沖と、鵠沼海岸の詰所沖だ。そして無事、西浜の警備本部前に帰着した。笑顔でクルーを出迎えた一人が、3年前の由比ヶ浜上陸でカッター班長を務めた小川雅彦さんだ。

「カッターってライフセービングそのものだと思うのです。仲間がいないとできないし、息が合わないと真っ直ぐ進まない。誰かが疲れていると曲がってしまう、そんな船です。相手のことを気遣ったり、目標にむかって一致団結しなければダメ。それはまさに、無事故にむかってチームワークが必要な監視活動と同じだと思っています」(小川さん)

 すでに監視業務に戻っていた、西浜サブキャプテンの大下香奈恵さんは、3年前の由比ヶ浜上陸クルーの一人。

「今日はサブキャプテンとして彼らの行動を見守っていましたが、今朝、暗い浜に集合した時、砂の冷たい感触で3年前のことを思い出しました。あの日、私も今日の綾菜のようにセパレートの水着を着ていて、ちょっと肌寒く、そして緊張でお腹が痛くなったっけと。学生の班長で由比ヶ浜上陸が達成できて、伝統を繋げることができたとホッとしています」(大下さん)

LSweb 大下さんとともに由比ヶ浜上陸を果たし、昨年はカッター班長も務めた中村 遥さんは、後輩たちの遠航をサーフスキーで伴走しながらサポート。班長としては成し遂げられなかった、由比ヶ浜上陸を見届けた。

「彼らはきっと不安で一杯だったと思います。練習も十分ではなかったし、(班長以外の)由比ヶ浜行きのメンバーが発表されたのは昨日だし、何より誰も由比ヶ浜へ行ったことがなかったから、由比ヶ浜ってどこ? って感じだったのではないでしょうか。風が強くなるという予報だったので、無理だったら途中で引き返してもいいよとアドバイスしましたが、午前中は波も風もない完璧なコンディション。今年は行ける年だったと思うのです。
 すべてのコンディションが整ったからできた、そいういう巡り合わせだったと思います。ガードでもそうですが、新人が多いときには海が穏やかで、厳しい気象条件のときには、それなりに対処できるメンバーが揃っている。そういうことってありますよね。でもそれをラッキーとは思わずに、この経験をしっかり繋げていってほしい。それが西浜でサーフボートに乗り、由比ヶ浜に上陸できたクルーたちの役割だと思っています」(中村さん)

 帰着後、思わず涙をこぼした榊原班長は、ボートを水洗いしながら、こう話してくれた。

「班長に任命された時には、正直、僕には荷が重いと思いました。自信もありませんでした。でも先輩、仲間、そして何よりクルーのみんなの支えで由比ヶ浜に上陸することができました。まだ興奮していてうまく言えませんが、この経験を大事に今後も活動していきたいと思います」(榊原さん)
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 朝の穏やかな海から一転、昼前から風が吹き上がってきた片瀬西浜の片隅に、今夏の大役を終えたサーフボートがひっそりと片付けられていた。


サーフボート由比ヶ浜上陸の動画は近日中にアップの予定です。乞うご期待ください。










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