2年に一度開催されるライフセービングの世界大会「Rescue 2012」のナショナルチーム部門が、5日間にわたる日程をすべて終了し閉幕した。
大会5日目となる最終日は、昨日に引き続きグレネルグビーチでオーシャン競技が行われ、最後の最後まで参加国による激しいバトルが繰り広げられた。
オーシャン競技2日目に行われたのは、男子サーフレース、男子ボードレース、女子サーフスキー、そして男女のビーチフラッグス、オーシャンマン/ウーマン、オーシャンマン/ウーマンリレー。
オーシャン競技初日で、プール競技終了時点から一つ順位を落としてしまった日本A代表は、挽回を目指して最終日に挑み、メダルラッシュの沸く日本B代表も、さらなる飛躍を求めて最後の力を出し切った。
日本期待のビーチフラッグスでは、オープンクラスにこの種目の第一人者である植木将人選手が登場した。実は今回の日本A代表は、ケガのため女子メンバーの入れ替わりがあり、ビーチ種目を得意とする選手は男女合わせて彼一人という構成。また、参加国の間でも「日本はビーチフラッグスが強い」という認識が共通しており、植木選手は大会開始前からマークされる存在だった。
さらに、今回は伏兵の存在があった。初参加のイランが、陸上選手を中心とした強力な布陣でビーチ種目にエントリーしてきたのだ。元々の情報が少ないということもあり、イランの選手に関しては日本だけでなく、オセアニア勢やヨーロッパ勢もノーマークだったと思う。しかし、オーシャン競技初日に行われたビーチスプリントの予選を目にして、誰もがイラン人たちのスピードに目を奪われた。
オープンクラス男子でビーチスプリント優勝、ビーチリレー優勝というセンセーショナルなデビューを飾ったイランチームの中心メンバー、Ghasemi Reza選手(ビーチスプリント優勝)は、ロンドン五輪の陸上100mで10秒31のタイムを出した選手だったのだ。
もちろんスプリントが速いからといって、必ずしもビーチフラッグスが強いとは限らない。ビーチフラッグスはテクニックも必要な競技だからだ。だが、スプリントが速い選手は、ビーチフラッグスで戦える下地があるということでもある。そして事実、オープンクラスの男子ビーチフラッグスでは、イラン人2人がB決勝まで勝ち上がり、女子は3位で表彰台に上がる活躍を見せた。
一方、男子A決勝に残ったのは、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカなど、ライフセービング先進国の選手たち。そしてもちろん、植木選手の姿もあった。
植木選手は相変わらず切れのあるスタートを見せ、次々とフラッグを手にしていく。しかし決勝レース3本目で一瞬、フラッグを見失い、ランオフ(再レース)となった。ベスト5となる1本は、植木選手が圧倒。そしてベスト4を決める次ぎのレースで、1コースに位置した植木選手は2コースのオーストラリア選手と同時にダイブした。舞い上がる砂煙が落ち着いた時、フラッグを握っていたのは植木選手ではなかった。
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3大会連続で世界大会に出場した植木選手だが、今大会にかける思いは、過去2大会に勝るとも劣らないものだったと思う。ドイツ大会、エジプト大会ともに銀メダル。2大会連続で金メダルを獲得した女子の分もがんばり、今度こそ自分が金メダルを獲ると心に誓っていたはずだ。
世界4位は称賛に値する成績で、植木選手には胸を張って帰国してほしい。だが同時に、そんな言葉では植木選手の無念さは晴れないだろうことも想像できる。この悔しさを払うことができるのは、結局、自分自身しかいないのだ。そのことは、今回、世界大会に出場したすべての日本代表選手が分かっているだろう。悔しいから、満足できないから、次を目指す。これで終わりではなく、これが始まりなのだ。
そして、ここからまさに始まるのが、ユースクラスに出場したU19のメンバーたちだ。大会最終日、女子ビーチフラッグスで利根川莉奈選手が見事に銀メダルを獲得。池谷(遊佐)雅美、藤原 梢と受け継がれてきたニッポン女子ビーチフラッグスの伝統は、新たな後継者を得ることができたようだ。 | |
スタートもランも速い利根川選手。優勝を決めるレースでも最後まで僅かにリードしていたが、フラッグを掴む瞬間、オーストラリア選手に体を入れられ奪い獲られてしまった。ビーチフラッグスの醍醐味は、競った状態でいかにフラッグを手にするか。利根川選手には、まだまだ伸びしろがあるはずだ。
10代のうちに世界大会を経験できたことは、B代表すべての選手にとって大きな、大きな財産になったはずだ。飯沼誠司ユース監督が言うように、彼らには次の日本代表を目指す使命があると思う。楽しかった、あるいは悔しかっただけでなく、その先を目指して、良きチームメイトと共に世界の壁を乗り越えていってほしい。 | |
今大会の成績を見る限り、世界の壁がはやはり高かった。得意のオーシャン競技でも、日本A代表はB決勝に残れない種目があり、思うようにポイントを稼ぐことができなかった。それは、これまでオーシャン競技はあまり得意ではなかったヨーロッパ勢の躍進、そしてアジアや中近東勢の台頭など、ライフセービング界の勢力図に変化の兆しが見えたことと関係しているのだと思う。
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オーシャン競技の三強、オーストラリア、ニュージーランド、南アフリカは相変わらず強い。しかし、チーム力が試される団体種目のレスキューチューブレスキューではイタリアが1位に、オーシャンウーマンリレーではスペインが3位に、そしてビーチリレーではエジプトが1位になるなど、今までとは明らかに違ったレースが展開されるようになった。この変化に、日本はどこまで対応することができるのか、今後の課題の一つはそこではないだろうか。
変化は総合優勝にも現れた。常勝、オーストラリアを破り優勝したのが、7大会にわたって2位の苦渋をなめてきたニュージーランドだ。ニュージーランドチームは今回、「One」というロゴ入りユニフォームに身を包み、絶対勝つぞの意気込みで世界大会に乗り込んできた。 | |
大会直前レポート⑤でも既報のとおり、ナンバーワンになるため6年がかりでチーム作りを行ってきたというニュージーランドは、五輪選手4人をチームに加え(スイマー3人、カヤッカー1人)、プール競技でオーストラリアに180点近い差を付けて後半に突入。オーシャン競技でもほとんどの種目で必ずベスト3に入る安定した力を発揮し、2位のオーストラリアに80ポイント差の846ポイントで1998年以来の優勝を手にした。 | |
総合成績566ポイントで3位に浮上したのがフランスだ。ヨーロッパ勢の中では、むしろプール競技よりオーシャン競技が得意なフランスは、次の世界大会、レスキュー2014の開催国でもある。10年ぶりにヨーロッパで開催される世界大会に向け、弾みのつく結果となった。
日本はA代表がSERC:8位、プール競技:12位、オーシャン競技:8位、トータル216ポイントで総合10位。B代表はSERC:3位、プール競技:5位、オーシャン競技:4位、トータル604ポイント、総合4位で大会を終えた。
A代表は総合成績で9位のスペインに1点差、オーシャン競技でも7位のカナダに1点差という惜しい結果だった。
レスキュー2014は、2014年9月に地中海に面したフランスのモンパリエで開催される。次の大会まですでに2年を切った。それまでに日本代表はどこまで強くなれるのか、見守っていきたい。
文・写真=LSweb編集室
【レスキュー2012総合成績】
オープンクラス
1位:ニュージーランド(846ポイント)
2位:オーストラリア(766ポイント)
3位:フランス(566ポイント)
4位:イタリア(503ポイント)
5位:ドイツ(448ポイント)
6位:南アフリカ(418ポイント)
7位:オランダ(351ポイント)
8位:カナダ(303)ポイント
9位:スペイン(217)ポイント
10位:日本(216)ポイント
ユースクラス
1位:オーストラリア(1061ポイント)
2位:ニュージーランド(991ポイント)
3位:スペイン(800ポイント)
4位:日本(604ポイント)
5位:カナダ(582ポイント)
6位:アメリカ(306ポイント)
7位:香港(263ポイント)
8位:アイルランド(122ポイント)
9位:スリランカ(90ポイント)
10位:ノルウェー(59ポイント)
*大会最終日の日本代表の結果は、改めてお知らせします。