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無事故の連鎖を全国へ!
広がるレスキューの協力体制
2013/07/30

Beach Safety with Neighbour Clubs

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日本のライフセービング活動先進地域である神奈川県で、近年、近隣のクラブ同士が協力して、レスキューにあたろうという機運が盛り上がっている。

いつ、誰が、どうやって協力すれば、より良い活動ができるのか?

ライフセーバーたちの新しい試みを、2つの実例で紹介しよう。




文・写真=LSweb編集室





11地域クラブが参加した
パトネット主催のヒューマンチェーン演習


LSweb 日本ライフセービング協会(JLA)の神奈川県支部でもある、神奈川県ライフセービング連盟(KLF)では、2010年より加盟の13地域クラブを対象とした「パトロールネットワーク(通称:パトネット)」を立ち上げ、各クラブ間の連携とパトロール品質の向上を目的とした活動を行っている。

 パトネット発足当時から現在にいたるまで、各クラブが抱える一番の課題がガード期間の人手不足だ。いかに人を集め、育て、継続してもらうかに頭を悩ませているのは、日本全国どのクラブでも同じだと思う。
 
 そこでパトネットでは、その共通の課題をお互いが競合するのではなく、助け合いながら解決しようと、例えばPR用パンフレットの共同製作や、他浜留学制度の推進などを実施。少しずつだが人材不足の問題を改善している。
 
 ちなみに他浜留学制度とは、所属クラブ以外のクラブでパトロールに参加し、レスキューの知識や技術の向上、さらにライフセーバー同士の交流を深めることを目的としたもの。同じ県内でも海水浴場の開設期間には違いがある。海開きが遅い浜を活動拠点するクラブにとっては、すでに海開きしている浜を手伝うことで自分たちのトレーニング兼レベルアップができ、海開きの早い浜は、ライフセービング経験のある助っ人を得ることができるというシステムなのだ。

 パトネット発足から4年目となった今年は、こうした協力体制をもう一歩進め、緊急時のクラブ間連携を模索することになった。
 
 緊急時にいかに助け会えるかは、以前からパトネットの議題に上っていたことだが、具体的な行動には結びついていなかった。しかし、昨年の引地川での事故を受け、西浜SLSCのパトロール委員長・石川修平さんの呼びかけで、今回初めてクラブ同士が協力する「ヒューマンチェーン演習」が行われることになったのだ。
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 開催日は6月30日。場所はこの日、海開きの式典が執り行われていた神奈川県平塚市の湘南ひらつかビーチパーク海水浴場。パトネット加盟の11地域クラブから、監視長レベルのライフセーバー約30人が集まり、とある浜で海水浴客が行方不明になったという想定の下、事故発生からヒューマンチェーンを行うまでの一連の動きを、ロールプレイングで確認した。
 
 参加者には事前に、地元のライフセーバー、他浜のライフセーバー、遊泳客、海の家のスタッフ、警察や消防、行方不明者の友人といった役割が振り分けられ、最後は地元のライフセーバー、応援に駆けつけたライフセーバー、遊泳客などが海に入り、実際にヒューマンチェーンを行うこところまでをこなして訓練終了。その後、全員での意見交換が行われた。

LSweb 事故のシナリオを全員で共有していたこと、また応援にかけつけるライフセーバーが実際よりも短時間で登場したことなどを差し引いても、今回の訓練でヒューマンチェーンに取りかかるまでの一連の流れはスムースだったように思う。現場(海に入るライフセーバー)と本部の意思疎通にタイムラグが見られる場面もあったが、初対面のメンバーも多い状況では、むしろ上手くできたほうではないだろうか。
 
 もちろん、課題もたくさん見つかった(下記参照)。しかし、何より海水浴シーズン直前の多忙な時期に、神奈川県内でパトロールするライフセーバー同士が同じ場所に集まり、互いの顔を見ながら訓練に望めたことは、いざという時に活きてくるはずだ。
 
 もちろん、いざという時がこないことを祈りつつ、パトネットの今後の活動に注目したい。

    
 
【訓練終了後の意見交換から】

・溺者の個人情報を他浜のライフセーバーとどこまで共有するべきか?
・事故の状況をどこまで詳しく説明すべきか? 迅速にヒューマンチェーンを開始することとの兼ね合いは?
・遊泳客など、一般人にヒューマンチェーンを手伝ってもらう場合は、厳重な安全確保が必要となる。どういう人なら手伝ってもらえるかという基準も決めておくべきではないか?
・一般人にとってヒューマンチェーンというのは遺体捜索と変わらない。協力をお願いする時には、そのあたりのこともきちんと説明するべきではないか?
・海底地形や潮流などは浜ごとに大きく違う。ライフセーバーの安全をいかに確保すべきかも大きな課題


 
    


鎌倉市・腰越、藤沢市・片瀬東浜
市境を挟んで隣り合う2浜の合同訓練


LSweb 遠くの親戚より近くの他人——ということわざがある。
いざという時に頼りになるのは、遠く離れて暮らす親類ではなく、赤の他人でも近くに住む人であるという意味だ。続いては、まさにこのことわざを体現する、2つの海水浴場で行われた水難救助訓練を取材した。

 全国のほとんどの地域で夏休み初日となった7月20日、遊泳時間の終わった神奈川県鎌倉市の腰越海岸に、同浜をパトロールする鎌倉ライフガードの面々が集まってきた。隣接する浜をガードする2つのライフセービングクラブが、合同訓練を行うことになっていたのだ。

 サザンオールスターズの歌でお馴染みの湘南・江の島。
島に向かって左手に伸びる約800mの海岸は、同じ浜でありながら鎌倉市と藤沢市の境界線があり、江の島側の藤沢市は片瀬東浜海岸、東側の鎌倉市は腰越海岸と区分されている。
 夏になるとそれぞれの浜に海水浴場が開設され、市境の海面には双方からブイとロープが設置される。名目上、そこは遊泳禁止エリアであり監視空白区域となるが、事故が起こった場合は当然、レスキューを行うことになる。

LSweb 片瀬東浜海水浴場をガードしているのは、西浜SLSC。腰越海水浴場をガードしているのは鎌倉LGだが、地理的に近いこともあり、通常は鎌倉LGが市境付近をパトロールしている。しかし、もしここで一度に複数の人が流されるなどマスレスキューが起こった場合、どう対処すればいいだろうか? というのが、鎌倉LGの長年の懸案事項だった。
 
 実は両クラブとも複数の浜をガードしており、ライフセーバーの数に余裕があるわけではない。クラブ内で応援を要請するにしても、鎌倉LGの場合、一番近い由比ガ浜海水浴場から腰越海水浴場までは陸上で約4キロの道のり。夏の休日ともなれば必ず道路が渋滞し、現場到着までどのくらい時間がかかるか分からない。

それならば、見える範囲で活動している西浜SLSCに協力してもらおう! と始まったのが、今年3回目を迎えた腰越・東浜合同訓練だ。
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 訓練の統括は鎌倉LG代表の多胡 誠さん。東浜のパトロールキャプテンである相澤庄太さんに協力を求め、市境で溺れる2人の海水浴客を鎌倉LGが発見した、という想定で訓練がスタートした。ファーストレスキューは鎌倉LGのレスキューボード。

 溺者の1人は意識ありだが、もう1人は意識なしの状態。東浜でPWCがパトロールしているのを目にした腰越の監視本部は、独自の判断で応援要請し、西浜SLSCのPWCとともにレスキューを行うというシナリオだ。

 実際の訓練では、手元の時計で溺者発見からPWC到着まで約5分30秒、そこから約30秒で意識ありの溺者を浜に上げ、現場に戻って意識なしの溺者を浜に上げるまで約2分30秒が経過した。
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 訓練終了後、両クラブのメンバーが集まり行われた振り返りでは、実にさまざまな意見が出された(下記参照)。中でも印象的だったのが、東浜でパトロールしていたメンバーの「溺者発見の長笛がはっきり聞こえたので、腰越の状況に注目した」という意見。
 
 訓練当日は穏やかな天候で風も弱かったため、笛の音が聞こえやすい条件だったことは確かだ。しかし、経験を積んだライフセーバーであれば、見える範囲で活動する隣り浜の異変は、このように経験的に察知することが多いのではないだろうか。そうであるならば実に心強いことであり、速やかに協力体制を築いたほうが、つまり重大事故の発生を知らせたほうが、お互いに気兼ねなく行動できるのではないかと感じた。

 近隣のライフセーバーと顔見知りであれば、連絡も取りやすい。これは普段の生活も同じで、日常的に近所の人と挨拶し、時に近況報告などをしていれば、異変に気づいたり、気軽に声をかけたりできるものだ。

 パトネットの今年のスローガンは「顔の見える関係」。ライフセーバー同士の交流が深まれば、協力の輪も広がり、より質の高い活動ができるようになるだろう。こうした取り組みが今後も続き、さらに他地域へも広がることに期待したい。

    
 
【訓練終了後の意見交換から】

・電話連絡やトランシーバーのやりとりに時間がかかり、PWC到着までの時間が想定より遅かった。一刻を争うならばレスキューボード2本でいったほうが速かったかもしれない。臨機応変に対応できるように考えたい
・PWCはクルーがいないと重溺が上げられないので、軽溺を先に上げた。応援にかけつける前に、クルーをピックアップして連れていったほうが良かったかもしれない
・訓練ということで試しに携帯の録音機能を利用してみた。電話連絡の様子やトランシーバーでのやりとりなど、それなりの音質で録音できたので、こうした記録はいざという時にも役に立つのではないか
・電話、トランシーバーを利用しながら、現場と本部、さらに隣り浜の本部と応援のPWCとの連絡を統括するのが難しかった
・レスキュアー同士でお見合いしてしまうことがあった。指揮系統をどう統括するか、現場で指示できる人は遠慮なく指示してもいいのではないか


 
    









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