2015年12月13日。
神奈川県横浜市の白楽駅近くにある神奈川大学で、日本ライフセービング協会(JLA)学生室が主催する「高校生・中学生・小学生プールプログラム」が行われた。
プール開催では過去最多の参加者が集まった今回のプログラム。
当日の様子を、学生室広報部部長の吉岡琴美さんにレポートしてもらった。(LSweb編集室)
文・吉岡琴美(学生室広報部長/実践女子大学LSC)・写真=JLA学生室
経験者だけでなく
初心者も楽しめるプログラムを
学生室が主催する小学生・中学生・高校生プログラムは、「多くの子どもたちにライフセービングという活動を知ってもらいたい」「高校生、中学生、小学生がライフセービングを体験し、身近なものに感じてもらいたい」という思いや、「ライフセービングを知ってもらう」「ライフセービングに興味を持ってもらう」「ライフセービング競技を知ってもらう」といった目的で、体験型のライフセービングプログラムとして、年に2回、海とプールで行われている。今回はプールと室内でのプログラムだ。
この日集まった小中高校生は126人。ライフセービングの初心者から経験者まで、そして小学生から高校生まで幅広い年代が参加してくれた。ジュニア・ユースを対象としたプログラムは今回で高校生は19回目、中学生は10回目、小学生は3回目となる。
当初は高校生のみのプログラムだったが、次第に対象の幅を増やし、今年度は初めて小学1年生から募集をかけた。
今回のプログラムは、ライフセービング未経験者を中心に、地域ライフセービングクラブやスイミングスクール、都内でライフセービングを授業や実習に取り入れている学校を中心に呼びかけを行った。
その結果、小学生47人、中学生11人、高校生80人の合計138人という、プールプログラムでは過去最多の申し込みが集まった(当日の参加は全体で126人)。
ライフセービング未経験者を中心対象にした背景には、どのような思いがあったのだろうか。
「ライフセービングを普及させるためには、経験のある子どもたちだけではなく、未経験の子どもたちに目を向けたいと考えました。
経験のある子どもたちは、ライフセービングに触れる機会がある。それに対し、ライフセービングを知る機会のない子どもたちに、『きっかけ』を作れたらと思ったのです」と熱い思いを語ってくれたのは、今回のプログラム責任者で教育部部長を務める、大阪体育大学3年の小林 海だ。
彼とタッグを組み動いたのが、教育部副部長を務める、専修大学3年の岡村夏美である。
幅広い層の参加者を受け入れる中で、苦労したのはどのようなところなのだろうか。
「一つ目は、安全管理です。私たちが、リスクマネジメントをしっかりと理解した上で、子どもたちに安全で楽しいライフセービング教室に参加してもらうためには、スタッフである学生室同士の意思疎通が大切です。
何度も、何度も学生室の皆と話し合いの時間を重ねることで、ライフセービング教室を実現することができました。学生室一人一人が責任を持ってプログラムに臨んだことは、とてもプレッシャーがかかり、大変でした。
二つ目は、企画・運営です。
私たち学生室は、毎月1回ミーティングを行います。限られた時間の中で話し合いをしていく中で、自分たちがライフセービングを始めたころを思い出し、初心に返って計画を練ることを心がけました。そうすることで、参加者に何を体験してもらい、どのようなことを学び取ってもらいたいのかを考えたのです。
また、今回は小学生から高校生まで年齢層が幅広かったので、それぞれの指導方法で伝えなければ内容の理解が難しいため、学年ごとにコースを分けてプログラムを考えたことが大変でした」と小林は話す。
教育部の2人を中心に、今回のプログラムで参加者をサポートしたスタッフは、大学生ライフセーバー55人。JLA学生室に属している学生たちである。
学生室は、九州から東京までの大学クラブの大学2~4年生の総勢75人によって構成されている。
学生選手権(インカレ)や今回の小中高生プログラム、大学クラブのリーダーたちが集い、交流を深める学生リーダーズキャンプなど、年に5つほどの事業を企画・運営している。それらの事業を成功に導くため、毎月行われている定例会では、役割ごとに各課に分かれ、白熱した話し合いが行われている。
幅広い参加者が楽しめる
有意義なプログラムにするために
今回のプログラムでは、参加者を小学生のみのグループ1つと、中高生のグループ2つに分け、計3つのグループで行った。
参加者には、ライフセービングの初心者も経験者もいるという中で、メニューにはどのような工夫を加えたのだろうか。プールのメニューを考えたレスキュー課とウォーターセーフティー課、室内のプログラム内容を考えた室内課の課長に話を聞いた。
「小学生は、器材に触れて、楽しみながらライフセービングを知ってもらうことを心がけました。ライフセービング経験者もいましたが、ニッパーボードにたくさん乗ったりレースをしたり、チューブを使ったリレーをしたりと楽しみながらライフセービングに触れることができたと思います。
中高生は、ライフセービングの競技を知ってもらうために、マネキン、チューブ、ラインスローの3セクションに分けました。
マネキンでは、50mマネキンキャリーのキャリーの仕方を学び、フリースタイルに挑戦する姿が見られました。経験者が少なかったラインスローは、多くの参加者が楽しみながらも、コツを掴もうと一生懸命練習していました」そう話したのは、レスキュー課課長を務めた、東京女子体育大学3年の渡部優美だ。
学生室メンバーによる100mマネキンキャリー・ウィズフィンやマネキントウ・ウィズフィンのデモンストレーションも行ったので、参加者は現役ライフセーバーのレースを間近で見て、迫力を感じたのではないだろうか。
「初めに、『どうしたら助けられたかな…?』という題で、プールに落ちてしまった泳げない女の子を、男の子2人が身の回りの物を使って必死に助けようとする面白い劇を見せて参加者を惹きつけることで、後の内容に興味を持ちやすくしました」と話したのは、ウォーターセーフティー課課長を務めた、日本体育大学3年の石塚円香だ。
ここで実践した、ビニール袋やバケツ、ペットボトルなど身の回りにある物で浮力を保つ方法は、いざというときに活かせることなのではないのだろうか。
「小学生には、胸骨圧迫の際に押すテンポを歌に乗せることで、分かりやすく指導しました。また中高生には、BLSだけでなく熱中症勉強会など、身の回りで起こる可能性の高いものも内容に組み込みました」と話したのは、室内課課長を務めた、流通経済大学3年の黒江良之だ。
他にも小学生は、学生室メンバーと一緒に三角巾をお腹に巻いて結び方を学んでいて、楽しそうな様子が見て取れ、中高生は、実際のレスキューを想定したプログラムで、真剣な様子が見られた。充実したプログラムであったことが、参加者の表情から伺えたと言えよう。
プログラムから得たもの
これからに向けて
無事にすべてのプログラムが終了し、教育部部長の小林が挨拶に立つと、まずは参加者そして協力者への感謝を口にし、続いてこれからの思いを話してくれた。
「プログラムを通じ、苦労したこともあったと思いますが、苦労した分、大きく成長できたと私は思います。
学生室として、私たちが指導や企画・運営をすることの他に、学んだことがあります。それは、ライフセービングの普及率を肌で感じ、今後参加者に対してどのようなアプローチをしていけば良いのかなどを、指導する立場であった私たちが逆に、参加者の皆さんから学んだということです。
私の今後の思いは、より多くの子どもたちに、ライフセービングをもっと知ってもらいたいということ。そのために、私たちが企画・運営をしたプログラムの改善を重ねることはもちろんのこと、それに付随して今とは別の新しいプログラムなどを、これからの学生室のメンバーには企画してもらえたらと思います。
そして、いつか、プログラムに参加してくれた子どもたちが学生室に入り、ライフセービングの普及活動を行ってくれたら嬉しいですね。
今後もより良いライフセービング環境を整えていけるよう、この環境を活かして学生室一同頑張っていきますので、また学生室主催のプログラムにご参加いただけることを心よりお待ちしております。これからも学生室をよろしくお願いします」
最後に、学生代表を務める日本女子体育大学3年の田村 萌より閉会の挨拶があった。
「今日、知らない人とたくさん話せた人?」
その問いかけに、いくつも手が挙がった。
人と人との輪、ライフセービング普及の輪の広がりを感じたプログラムだった。