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第38回全日本ライフセービング選手権大会 競技会レポートVol.12012/10/10

2012.10.6-7 神奈川県・片瀬西浜海岸

全日本にかける
ライフセーバーたちへのオマージュ

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第38回全日本ライフセービング選手権大会が、
2012年10月6〜7日、神奈川県の片瀬西浜海岸で開催された。

東日本予選、中部・西日本予選を含めると、
59クラブ、1194人が参加した、今年最後にして最大の競技会。
誰もが特別な思いを胸に秘め、決戦の舞台に集合した。

熱戦が繰り広げられた大会2日間の模様を2回に渡って、じっくりと振り返ってみよう。
まずは、サーフスキーレースとビーチフラッグスから。

文・写真=LSweb編集室





社会人、激突!
サーススキー、西浜の陣


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 走る、泳ぐ、ボードやサーフスキーに乗る・・・。ライフセービング競技の幅は実に広い。個人種目もあれば団体種目もある。人によって得意な種目もあれば、苦手な種目もあるだろう。若手に有利と思われる競技もあれば、経験がものをいう競技もあるはずだ。その多様性がこのスポーツの魅力でもある。
 もちろん、新旧入り交じり接戦を繰り広げる種目も多いのだが、ライフセービングを始めて2〜3年目の選手では、ベテラン勢にとうてい太刀打ちできない種目がある。それがサーフスキーレースだ。

 大会初日に行われた女子のサーフスキーレース決勝で、スタートから飛び出し、終始レースをリードしたのは、結婚して名字が変わった元日本代表の篠 郁蘭(旧姓・鈴木、新島LSC)。2年間のブランクを感じさせない安定したパドルさばきで、2008年以来4年ぶりの優勝を飾った。
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 このレースで2位となったのが、昨年、日本体育大学を卒業した久保美沙代(和田浦LSC)だ。
 久保はレース後、
「3位、3位、3位ときて今年は2位。その間、1位は毎年変わっているのに私は……」
と、うつむき加減で話した。
 表彰台に登っても控えめな笑顔だったが、環境が変わった今年、順位を一つ上げることができたのは立派。サーフスキー競技には、お手本となる先輩たちがたくさんいる。頂点を狙うチャンスは、この先もあるはずだ。
 
 レースの後、実に楽しそうに談笑していたのが2000年の世界大会に出場した篠田敦子(館山SLSC)と、関西で精力的に活動する尾田依津子(神戸LSC)のアラフォー(失礼!)2人。入賞を逃した2人だが、
「この年代でも戦えるのがサーフスキーですね。がむしゃらに前を抜こうとするのではなく、落ち着いて視野を広くすると、自然と抜けるポイントが見えてくる、そういう競技でもあると思います」
 と尾田が言えば、
「もちろん、この歳でのトレーニングはきついですよ。でも全日本はやはり特別な大会です。それを目標に、そして『俺も苦しいのだから、お前も苦しめ』と一緒に練習してくれる同年代の仲間もいるので(笑)、がんばれています」
 と篠田が続ける。そして2人とも「とにかく楽しかった」と口を揃えた。
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 ところで、女子のサーフスキーレースは地方予選で16人に絞られ、本戦は一発決勝となる。スイムやボード種目に比べれば競技人口が少ないということもあるが、準決勝が行えるくらいの人数を本戦に送り込んでもいいのではと感じたのは記者だけではないはずだ。長く活躍できる種目だからこそ、参加枠を増やすことで、ライフセービング競技の底辺拡大に繋がると思うのだが、いかがだろうか。

 大会初日に準決勝、2日目に決勝レースが行われた男子のサーフスキーレースは、手に汗握る大混戦となった。本命は今年の種目別を制している松沢 斉(下田LSC)、対抗は昨年の全日本チャンピオンである落合慶二(東京消防庁LSC)だが、2人以外にも虎視眈々と頂点を狙う猛者たちが顔を揃えた。

 オーストラリアへ修行に出かけた西山 俊(湯河原LSC)、一昨年、昨年と2大会連続で3位に甘んじた篠田智哉(勝浦LSC)、過去にこの種目で表彰台に登ったことのある内田直人(勝浦LSC)や鈴木祐輔(湯河原LSC)、さらに入賞常連の出木谷啓太(九十九里LSC)などなど。
 
 彼らは皆、社会人だ。サーフスキーに限ったことではないが、全日本を目指す社会人たちは、早朝あるいは夜に眠い目をこすりながらトレーニングを続けている。一人で黙々と練習を積む日もあれば、ライバル同士、誘い合って練習する日もあるだろう。好きでやっていることとはいえ、練習時間がふんだんにある学生とは、全日本にかける意気込みが違う。だからサーフスキーレースのスタートは、独特の緊張感に包まれる。
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LSweb そんな雰囲気で行われた決勝レース。フォグホーンの合図で16人の選手たちが一斉にスキーの飛び乗り、猛然とパドルを回転させた。数秒後、船団から抜けだしたのは、薄紫、白、オレンジの3艇のスキー。それぞれ西山、松沢、落合が乗っていた。第1ブイを最初に回ったのは白、その後ろにオレンジが続く。最後の最後まで続いた2艇の接戦。ゴールライン上でガッツポーズを決めたのは白いスキーの松沢だ。落合は僅差の2位、3位は西山、4位は篠田という順位だった。
 
 実は初日の準決勝第1ヒート、松沢はスタートで大きく出遅れ、決勝に進出できるギリギリ最後の8番目でゴールに滑り込むというシーンがあった。「海底の貝殻に気を取られた」と松沢。決勝では見事なスタートダッシュで逃げ切った。

 「昨日の準決勝で失敗してしまったので、今日は朝一番で海に入り、1本練習レースをしてから本番に臨みました。体も動いていたし、朝の感覚が良かったのでそのまま突っ込みましたが、案の定、落合くんが後ろに来ましたよね。勝負の行方は最後までどうなるか分かりませんでしたが、今日はそれほどうねりがなかったので、なんとか振り切ることができました」
 と、レースを振り返った。

LSweb 一方、落合は、
「昨年と同じ展開になってしまいました。松沢さんの後について最後で抜くという。昨年は最後に並んで抜くことができましたが、それでは本当に勝ったことにはならない。第1ブイをトップで通過しなければ、と今年は特にスタート練習に力を入れていたのですが、結局、松沢さんの後塵を拝してしましました。パドル力で勝負できる今日のようなコンディションは得意なのですけど」
 と、コメントした。
 
 5位以下は荒井洋佑(西浜SLSC)、出木谷、菊地 太(東京消防庁LSC)、内田という順位。全日本に向け、お互いに刺激し合いながらトレーニングを積んできた彼らは、息を切らせながらも、皆、一様にすがすがしい笑顔を見せていたのが印象的だった。そして大会翌日から、早くも来年に向けた練習を始めた好き者も!
 パドラーたちの熱いバトルは、終わることがなさそうである。


混戦の男子ビーチフラッグス、
学生チャンピオンが全日本も制す

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 日本人ライフセーバーが世界と互角に戦える競技、ビーチフラッグス。この種目では、いつもハイレベルな戦いが繰り広げられる。特に力が拮抗している男子は、予選といえども、スタートの出遅れや一瞬の判断ミスで、実力のある選手があっさり敗退することもあるシビアな競技だ。
 
 今年は、全日本優勝7回、現在3連覇中の植木将人(西浜SLSC)、その植木を破り6月の種目別で優勝した和田賢一(式根島SLSC)、今年の全豪選手権で3位に入賞した平松佑一(湯河原LSC)、4年ぶりの優勝を狙うベテランの本多辰也(東京消防庁LSC)、昨年のインカレチャンピオン岡田浩平(愛知LSC)、今年インカレを制した竹澤康輝(勝浦LSC)、入賞の常連組だが優勝経験のない佐々木啓允(相良SLSC)、ケガから復帰した池谷 薫(柏崎LSC)、そしてニュージーランド人ながら、過去7回全日本での優勝経験があるモーガン・フォスター(サウスブライトンSLSC、オープン参加)といった注目選手が顔を揃えた。
 
 しかし、和田をはじめ、予選から有力選手が次々と落ちる波乱の幕開けに、何かが起こりそうな予感もあった。決勝に勝ち上がったファイナリストは、中山樹一郎(勝浦LSC)、石橋拓土(湘南ひらつかLSC)、望月龍之介(九十九里LSC)、安達和也(新島LSC)、そして竹澤の学生メンバーと、小田切伸矢(西浜SLSC)、植木、佐々木、フォスターのベテラン組。
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 そして決勝レース5本目、予感が現実のものとなった。圧倒的な強さで2000年代のビーチフラッグスを牽引してきた植木が、安達に競り負け敗退。2位以上を決める一戦では、百戦錬磨のフォスターと競った竹澤がフラッグを手中に収めた。そして決勝の最終レース。佐々木と竹澤の一騎打ちは、竹澤に軍配が上がった。この瞬間、2001年の猪爪賢史(式根島LSC)以来の、インカレと全日本の二冠達成が実現した。
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 ヒーローインタビューで「最後のレースは良く覚えていません」と答えた竹澤。その姿を見つめながら、「モーガンに勝っての優勝はすごい」と植木が若手の快挙を称えた。植木とフォスターは共に全日本優勝7回を誇る。その植木をしても、インカレとの二冠は達成していない。高校までは新体操をやっていたという大学3年生、竹澤の今後の活躍が楽しみだ。

 絶好のチャンスを逃した佐々木は、ベスト3決定戦あたりから左太ももに違和感があったようだ。予選、二次予選、準決勝、そして決勝と戦う長丁場のビーチフラッグス。肉体的にも、そして精神的にもスタミナのいる、ハードな競技であることには違いない。
「条件は皆、同じですから」と話す佐々木は、その後「やっぱり歳のせいなのかなぁ」と続けた。今年、26歳になったと言う佐々木。その言葉を口にするのはまだまだ早いだろう。植木もフォスターも本多も、年男の36歳だ。そして女子にはあの人がいる。


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 女子のビーチフラッグスも若手の台頭が光ったが、しかしやっぱり、女王は強かった。結婚して名字が変わり、所属クラブが西浜SLSCから柏崎LSCに変わっても池谷雅美(旧姓・遊佐)は健在。予選から決勝まで、集中力を切らすことなく圧倒的な強さで19回目の全日本優勝を手にした。

 優勝インタビューでは、
「今年39歳になりました。皆さんもまだ10年、20年とライフセービングを続けてください」
 と朗らかにコメント。2位の但野安菜(勝浦LSC)は、そんな彼女に憧れてこの世界に飛び込んできた大学1年生だ。20歳という年齢差を超えて大学生と勝負する池谷。

 ライフセービングに引退はないと公言し、それを実践する彼女は、誰もが認めるライフセービング界のスーパースターだ。

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=敬称略。(「競技会レポートVol.2」へつづく……お待たせしました、Vol.2&成績表UP済みです。どうぞご覧下さい!!)










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