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第41回全日本ライフセービング選手権大会レポート・Vol.1
白熱のビーチ競技編
2015/10/14

The 41st Japan National Lifesaving Championships 2015.10.10-11 神奈川県藤沢市・片瀬西浜海岸

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10月10〜11日の2日間、レスキューアスリートの頂点を決める「第41回全日本ライフセービング選手権大会」が、神奈川県藤沢市の片瀬西浜海岸で開催された。

大会初日は曇りで海はフラットだったが、2日目は南西の風が徐々に強くなり、午後には風速10m/sオーバーに。

沖には白波が立ち、波打ち際はジャンク、そしてビーチでは砂が猛烈に舞うコンディションとなった。

文・写真=LSweb編集室





海外から9選手がエントリー

LSweb 今年の全日本は、西・中・東日本の予選会から数えると、59クラブ、1285人が参加する過去最大規模の大会となった。

 その中には、常連のモーガン・フォスター(ニュージーランド)を筆頭に、オーストラリアから2人、そしてフランスから6人のオープン参加選手たちも含まれている。

 1990年代から全日本に出場しているフォスターは、日本式のビーチフラッグススタート(通称“サムライスタート”と呼ばれる体を軸足に引きつけて素早く回転するスタート)を習得するため、日本で修行をしたという経歴の持ち主だ。

 1995年に18歳でビーチフラッグスNZタイトルを初制覇して以来、NZタイトル10回、世界大会3連覇、2001年には全豪も制している大ベテラン。LSwebちなみに。全日本でも7回優勝しており、日本のベテランビーチフラッガーたちとは旧知の仲だ。

 オーストラリアから参加したのは、ゴールドコースト市でライフガードとして勤務する、オースティン・マットとチェイリィ・スティーブの2人のプロフェッショナル。

 2000年から行われている神奈川県ライフセービング連盟との交流プログラムのため来日中で、サーフスキーレースとサーフレースにエントリーした。
 
 競技結果は「予選敗退だったよ」と苦笑していたが、BLSアセスメント会場で見せてくれたデモンストレーションは、さすが本場プロの技だった。

LSweb 2012年と2014年の世界選手権総合3位、強豪のフランスからは代表クラスの選手が男女各3人ずつ参加した。
 3週間前に全仏大会が終わったばかり。メンバーの中にはエマニュエル・ベシュロン(オーシャンウーマン)、クリマン・ロングフォス(男子ビーチスプリント)、バチスト・ソション(男子ビーチフラッグス)という3人の現役チャンピオンも顔を揃えた。

 今回の遠征の目的を聞くと、「日本はオーシャン競技で手強い相手だったので、機会があれば全日本に参加したいと考えていました。やっとタイミング合い、参加することができたので、選りすぐりのメンバーで来ましたよ。特にビーチフラッグスは層が非常に厚いと聞いているので、楽しみですね」という答えだった。
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 41回の歴史を積み重ねてきた全日本だが、過去、これほど多くの外国人選手がエントリーしたことはなかった。全豪レベルにはまだほど遠いが、これも日本の競技レベルが上がっていること、そしてライフセーバーたちの交流が広がっていることの一つの証だと思う。

雨ニモ負ケズ、2kmビーチラン

LSweb フランスチームが特に楽しみにしている、というビーチ種目は2日目に決勝が集中した。

 まず、朝一番に行われたのが2kmビーチランだ。前夜からの雨が上がらない、ウェットなコンディションでのレースを制したのは、女子が大井麻生(波崎SLSC)、男子が須藤 凪(下田LSC)という大学生ライフセーバー。

 2人とも先月行われたインカレで1km×3ビーチリレーに出場し、見事に優勝したメンバーだった。

 全日本二連覇を達成した大井は、「ハッキリ言って、昨年の方が調子良かったし、インカレからの気持ちの切り替えもしなければいけなくて。
 でも、今年はチームが総合優勝を狙える実力なので、この波崎の渦巻きのキャップでなんとしても貢献したいと思い夢中で走りました。体力的なことも考え、もう少し後でスパートするつもりだったのに、気が焦って予定より早く飛び出してしまいました。トップでゴールできて良かったです」と、喜びをあらわにした。
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 2位の小林果蓮(下田LSC)は、インカレを一緒に戦ったチームメイトでもある。

 「(大井)麻生さんはラストスパートが速いので、その前に離しておかなければいけなかったのですが……。追いつけませんでした」と、顔をしかめた。太ももにテーピングをしていた小林。実は疲労骨折していたのだとか。ゆっくり静養し、しっかり直して来年に備えてほしい。

LSweb 須藤も体調は万全ではなかった。

 「インカレの後に胃腸炎になってしまい、1週間まるまる練習できませんでした。だいぶ良くなったのですが、実は昨日のボードレース予選でやらかしてしまい準決勝に進めませんでした。それもあって、この種目はなんとしても勝ちたいと思っていたんです」と、ほっとした笑顔を見せた。

 2位には、「2013年以来の表彰台です。その時は高校生に負けてけっこうショックだったんですよ。社会人でも勝てるところを見せたいので、またがんばってトレーニングしてきます」と話す、浅見泰希(東京消防庁LSC)が入った。

学生強し、ビーチスプリント

LSweb 女子のビーチスプリントは、長野文音(日本体育大学LSC)が他の追従を許さない安定した走りで二連覇を達成した。2位は4度目の膝の手術から復帰した藤原 梢(館山SLSC)、3位には川崎汐美(新島LSC)が入った。

LSweb 3位の川崎は、「スタートは悪くなかったと思います。ただ(長野)文音が後半に強いのは分かっていたので、前半でどれだけ離せるかが勝負だと思いました。
 彼女が視界に入ってきたのは、たぶん60mぐらいのところです。来た! と思ったらサーッと行かれちゃいました。(藤原)梢さんが見えたのはその後で、最後にかわされてしました」と、くやしそうに話した。LSweb

 4位は高校1年生の田中 綾(昭和第一学園LSC)。中学までサッカーをやっていたという田中に、決勝に進んだ感想を聞くと、はにかんだ笑顔とともに「うれしいです」と一言。華奢な高校生の今後の成長が楽しみだ。

 男子は森 新太郎(銚子LC)が、全仏チャンピオンのクリマン・ロングフォスをゴール間際でかろうじて振り切り、昨年に続き優勝した。

 後半に加速する森だが、ロングフォスも後半に伸びるタイプ。日本では敵なしの感がある森には、非常に良い経験になったはずだ。

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 「僕も決して悪い状態ではなかったけれど、でも、彼は速かった。次に対戦したらどうかって? そうだな、彼のほうが若いからトレーニング次第でもっと伸びると思うな」と言うロングフォスは、森と握手をしながら「トレーニング! トレーニング! トレーニング!」と声を掛けていた。

LSweb 日本体育大学LSCがアベック優勝したのがビーチリレーだ。

 インカレもアベック優勝した同校だが、決勝のメンバーはそれぞれ1人ずつ入れ替わっていた。

 予選と決勝でメンバーを入れ替えた女子は、「5人で勝ち取った勝利です」と声を揃え、肩を抱き合った。

 男子は入れ替わった西山晃祐が、「プレッシャーはありましたけれど、セレクションで選ばれたのだからと、自信を持って走りました」と、力強くコメント。誰が選ばれても勝てる、層の厚さを見せつけた。
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4秒の攻防、ビーチフラッグスにかける思い

LSweb 全仏5連覇中のバチスト・ソションも出場したビーチフラッグスは、予想どおり予選から激戦が繰り広げられた。

 北海道から参加した長内瑠輝(小樽LSC)は、今夏、地元の小樽ドリームビーチに海水浴場が開設されなかったため、新潟県の海水浴場でガードを行い、柏崎LSCと一緒にトレーニングを積んだ。その成果は切れの良いスタートに現れ、準決勝まで勝ち上がった。

 ソションも全仏チャンピオンの実力を発揮し、順当に勝ち上がったのだが、決勝進出まであと1本というところ、惜しくも敗退した。

 ビーチフラッグス男子決勝の顔ぶれは、ディフェンディングチャンピンの和田賢一(式根島LSC)、モーガン・フォスター、植木将人(西浜SLSC)、小田切伸矢(西浜SLSC)、堀江星冴(勝浦LSC)、上原修太(白浜LSC)、西山晃祐(日本体育大学LSC)、安達和也(新島LSC)の9人。

LSweb 安達、小田切がダウンしての3回戦、予選から抜群の走力を活かして縦横無尽に走り回っていた和田が、学生チャンピオンの堀江を撃破。続く4回戦は植木に狙いを定め、こちらも見事にダウンさせた。

 日本一を決める戦いは、和田とフォスターの一騎打ち。ここで勝負に出たのがフォスターだ。

 スタート直後の走り出しで和田の前に出ようと右肩を入れた時、2人の体が激しく接触した。そのままよろめくこともなく、フラッグに向かって一直線にダッシュを続ける2人。だが、リードしていたのは和田だった。

LSweb 昨年、ウサイン・ボルトが所属するジャマイカのチームでトレーニングを積んだ和田は、これまでとは一段ギアをアップした走りで、最後のフラッグを手中に収めた。

 今年の冬は、スペイン・カタルーニャ州の州立トレーニングセンターでトレーニングすることが決まっているという和田。「来年の全豪、圧倒的な差をつけて優勝します」と、力強く宣言した。

 「スタートからの5mで彼の前に出られなければ、負けると分かっていた。彼の方が明らかに、今の僕より走力があるからね。でも、ケンほうが速かったね」と言うと、フォスターは駆け寄る愛娘を抱き上げた。

 「う〜ん、実力ではもう勝てないのかな……」と口を開いたのは、表彰台で歓喜するチームメイトの様子を、少し離れたところから見つめていた植木だ。

 植木らと共に一時代を築いた本多辰也(東京消防庁LSC)は、大会終了後こんなことを言っていた。
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 「昔は(北谷)宗志や植木とガチガチやって、口も聞かない時代がありましたよ。でも、今は植木が決勝でがんばっている、宗志がケガから復帰した、何より同い年のモーガンが優勝争いしている、そういう姿を目にすると、よし自分もまたがんばろうと思います。
 それと同時に、慕ってくれる後輩のことも考えますね。具体的に指導するのではなくても、一緒にトレーニングしながら、何かを伝えていくことはできるのかなと。もちろん、僕は自分がやりたいから続けているんですよ。でも、続けているからこそ、いろいろな思いが湧き出てくるんです。来年は正真正銘の40歳。いろいろな思いを消化しながら、またこの場に戻ってきたいと思います」

 ビーチフラッグス女子を制したのは、元世界チャンピオンの藤原 梢(館山SLSC)。
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 「四度目の膝の手術をした後は、さすがにモチベーションが上がらず、続けることが苦痛でたまりませんでした。でも不思議なもので、会社でいやなことがあってもクラブに顔を出して仲間に会うと気分が晴れるし、ケガで代表を辞退した後も、ずっと連絡してくれる代表仲間もいるんです。
 そういう一つ、一つが心の支えになっているのかな。だんだん、皆の気持ちに応えたいと思うようになれたんです」と、藤原。

 それからはお台場で一人、朝4時から黙々と練習を続けてきたのだそうだ。「植木さんにも声をかけてもらい、何回か一緒に練習もしましたよ」と、藤原は付け加えた。

 誰かのために……というライフセービン活動は、巡り巡って自分のエネルギーになっているのだと、うっすらピンク色に染まった西の空を見ながらふと思った。

 後編に続く……。(文中敬称略)

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