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第41回全日本ライフセービング選手権大会レポート・Vol.2
卓越のサーフ競技編
2015/10/17

The 41st Japan National Lifesaving Championships 2015.10.10-11 神奈川県藤沢市・片瀬西浜海岸

LSweb個人種目・チーム種目合わせて7種目が予定されていたサーフ競技。

しかし、強風の影響により、オーシャンマン/オーシャンウーマンリレーが中止となった。

各チームが気合いを入れる最終種目だけに、中止の決定が発表されると落胆の声が聞こえたが、自然相手の競技にはこうしたリスクはつきものだ。

さて、そんな自然を味方につけたのは誰か? 卓越したサーフ種目を見ていこう。

文・写真=LSweb編集室





サーフスキーはベテラン勢強し

LSweb 正確なデータは取っていないが、全日本の実施競技の中で、参加選手の平均年齢が最も高いと思われるのが男女のサーフスキーレースだろう。

 女子決勝には、今大会参加者の女子最年長、篠田敦子(館山SLSC)と同年代の尾田依津子(神戸LSC)が、男子決勝には45歳の大西 明(逗子SLSC)がスタートラインに並んだ。

 女子は、ラインアップ直前まで笑顔で会話をするなど、決勝とは思えない和やかな雰囲気。だが、スタートのフォグフォンが鳴ると一転、力強いパドルさばきで水しぶきが上がった。

 スタートで飛び出したのは、河崎尚子(銚子LC)だ。フランスのエマニュエル・ベシャロンも先頭集団で第1ブイへと向かった。
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 時折うねりの入るコンディションの中、先頭で第3ブイを回航したのは山本裕紀子(若狭和田LSC)だった。その後は後続との差をジリジリと広げ、笑顔で余裕のフィニッシュ。初めての全日本タイトルを手にした。
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 「ついに獲りました! 全日本のタイトルを」と、喜びを爆発させた山本。

 「若狭和田は、ほんまに海がきれいなところなんです。地元では、その海で町おこしをしようとしており、それならば“日本一の海に日本一のライフセーバーがいる”ビーチにしたいと、私が勝手に町を背負って全日本に挑みました。
 ただ、思ったより風とカレントが強く、改善中のスタートがうまく決まらず、インでは8番ぐらい。焦りましたが、パドル力で挽回することができました」とレースを振り返った後、ラグビー日本代表の五郎丸選手の真似をして、後続選手を笑わせた山本だった。

 2位は河崎尚子(銚子LC)、3位は久保美沙代(和田浦LSC)。IMG_6898-2

 表彰台常連の2人だが、「次こそは…と思っていると、いつも誰かがヒョイッと上にいっちゃうんですよ、もう」と言いながら、それでも楽しそうに顔を見合わせた。

 尾田はシード権獲得の7位。篠田は12位でシード権は逃したものの、「一緒に練習してくれる仲間がいるので」と、静かに来年への闘志を蓄えていた。

 女子とは対象的に、ラインナップ前からピリピリした雰囲気が漂っていたのが男子だ。

 スタートと同時に激しいパドル合戦が繰り広げられたが、その中からスッと抜け出たのが出木谷啓太(九十九里LSC)だった。そのままパドルの手を緩めることなく先頭で第1ブイを回ると、混戦の後続を引きはなしフィニッシュを決めてガッツポーズ。
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 種目別に続き優勝を手にした出木谷は、「勝因はインでうまく出られたこと。好調の秘訣は、高いレベルの人たちと一緒に、楽しく練習できていることですね。周りに感謝です」と破顔した。

 2位の西山 俊(湯河原LSC)は「混戦になる前に第1ブイを回った出木谷さんが上手かったです」と、また3位の松沢 斉(下田LSC)も「スタートがすべてでしたね」と出木谷を祝福した。
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 大西は8位入賞。「いやぁ、これ(入賞)本当に嬉しいよ」と話す大西のその横で、学生で唯一決勝に残った牛越 智(波崎SLSC)が、「これまでとは別の世界を見ることができました。あれだけ離されると、逆に清々しいです」と決意を新たにしていた。

三井、西山ら日本代表が実力示す

 女子のサーフレースとオーシャンウーマンレースで実力を見せつけたのが、社会人2年目の三井結里花(九十九里LSC)。
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 サーフレースでは学生チャンピオンの高柴瑠衣(鹿島LGT)を寄せ付けず、またオーシャンウーマンでは最初のスイムからリードを奪い、ボードとスキーで独走態勢を固めてのフィニッシュとなった。

 「オーシャンウーマンは得意なスイムスタートだったので、最初から飛ばしていきました。私はいつも後先考えずに最初からかっ飛ばしていくタイプなので(笑)。ボードとスキーは後ろの気配がなかったので、落ち着いてできましたね。
 勤務先では月〜土曜日まで毎日、担当する授業があるので、学生時代に比べて練習時間を確保するのが難しくなりました。その分、いかに質の高いトレーニングができるか工夫し、最近はウエイトトレーイングも取り入れています」と話す三井だった。

 男子のサーフレースは、大島圭介(湯河原LSC)が逆転で優勝を手にした。

 レース終盤まで先頭を泳いでいたのは、トリコロールカラーの波崎SLSC軍団。榊原 司、松林俊樹、小松海登の3人が表彰台を独占するかに見えたその時、内側から一足早く走り出したのが大島だった。
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  「第1ブイは2位で、調子がいいなと思いましたが、こういうコンディションでは最後まで気が抜けないので、落ち着くように心がけました。アウトで前に波崎の帽子が3つ見えて、これはやばいと。最後のインカレで活躍できなかったのが、逆にバネになったかもしれませんね」と大島。

 一方、波崎SLSCの3人は、「(大島)圭介にやられました。全然見えませんでした」と2位の榊原が言えば、「周りに波崎の帽子しか見えなくて、これはとワンツースリーかと興奮しながら泳いでいたのですが……」と5位の小松。3位の松林も、ウンウンと頷くしかない状態だった。

LSweb オーシャンマンレースは、西山 俊(湯河原LSC)が貫禄の勝利。

 レース直後のコメントでは、「スイムでリードできれば、こういう(ジャンクな)コンディションなら勝てると思っていました。
 ただ、ボードのアウトで何度も沈をしてしまい、軽くパニックになりかけちゃって。でもスキーに自信があったので、気持ちを落ち着かせることに集中しました」と、4年ぶりのタイトルに満足げな笑顔を見せた。

 2位は園田 俊(新島LSC)。3位にはベテランの長竹康介(西浜SLSC)が入った。

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 今年から消防の現場ではなく、事務方に異動したという長竹は、「今までのように、職務の一環としてトレーニングを積むことがなきなくなり、フラストレーションも溜まりました。でも、そういう環境が普通でがんばっている人はたくさんいるので、自分もやれるだけはやってみようと。
 もし今回成績が悪かったら、やっぱり自分には無理なんだと言い訳して、競技をやめていたかもしれないです。でも、表彰台に上ることができました。ある意味、やめられなくなりましたね」と笑った。
 その笑顔は、余裕すら感じさせる穏やかなものだった。

地元西浜、ボードで魅せた実力

 ボードレースで強さを発揮したのが、地元の西浜SLSCだ。
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 女子は、上村真央が波をつかんでトップフィニッシュ。市川恵理(館山SLSC)、原田 香菜(下田LSC)がそれに続いた。

 「落ち着いて波を見ることができたのが勝因です。インでちょっと出遅れましたが、慌てると自分の漕ぎができなくなるので、慌てず、楽しもうと。それに待っている仲間がいるので、早く帰ってこようと思いました」と上村。

 2位の市川は、「慕っていた先輩が出産のため現場からしばらく離れることになり、目標としていたものがなくなって宙ぶらりんの状態でした。そんな私を見守ってくれた先輩たち、声をかけてくれた仲間、そして一緒に練習してくれたマーボーさん(湯河原LSCの青木将展)に感謝です」と大粒の涙をこぼした。
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 最後まで上村とトップ争いをしていた水間菜登(勝浦LSC)は、「波に乗り損なった時に、私の悪い癖が出ちゃいました。焦って漕ぎ続けるのではなく、一呼吸置いて次の波を待てばよかったのですが……」と、痛恨の沈で6位と表彰台を逃した。

LSweb 優勝した上村は、「私や菜登だけじゃなく、今の大学生だって卒業しても続けていけば、このくらいのレベルにはなると思います」と言う。そうなれば、さらに見応えのあるレースが展開されるようになるのだろう。

 男子は西浜SLSCの荒井洋佑、長竹康介、上野 凌という地元勢が、表彰台を独占した。

 1位の荒井は、「こういうコンディションではよく練習していたので、落ち着いてやれば大丈夫だと自分自身に言い聞かせていました。今年はチームの四連覇がかかっていたので、西浜ワンツースリー最高です!」と満面の笑みを見せた。
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西浜4連覇、波崎が初の表彰台

LSweb 初日に行われたチーム種目のレスキューチューブレスキューでは、波崎SLSCが女子、男子は西浜SLSCが制した。

 溺者役・大山玲奈、救助者・田中 舞の小柄なペアを、大井麻生と丸山みどりの長身2人が力強くドラッグした波崎SLSC。

 「周りと競っていたので、ここは身長が高い私たちの利点を活かして、なるべく沖でピックアップしようと思いました」と言う大井の作戦が大当たりした。

 西浜SLSCは廣田 諒が溺者役、上野 凌が救助者。
 トップで浜まで戻ってくると、石川修平と伊藤光宏が廣田の手首を握り、猛然とフィニッシュラインへダッシュした。その後を、日本体育大学LSCが追う。

LSweb フィニッシュライン間際で、西浜SLSCのドラッガー一人が砂に足を取られ転倒。その間に日体大LSCもラインを切る。両チーム、非常にきわどい争いとなった。

 『ライフセービング競技規則2014年版』によれば、レスキューチューブレスキューの着順は、「フィニッシュラインを越える溺者役に接している最初の競技者の胸の位置で判定される。(後略)」となっている。

 判定確認のため順位の発表が翌日に持ち越されたこの種目だったが、正式な順位はドラッガー一人が先にラインを越えた西浜SLSC、続いて日体大LSCとなった。

 「規則をしっかり頭に入れていなかった自分がいけないのですが、もし自分の転倒で1位を逃すようなことがあったらと考えると、夜も眠れませんでした」と、口にしたのは石川。

 「いやぁ、若手二人のがんばりに応えることができてホッとしました」と、伊藤も笑顔を見せた。

LSweb サーフ競技最後の種目となったのが、ボードレスキューだ。

 女子は「ランが得意なので、インで上手く抜けられました」と言う丹羽久美と、「スイムが3番以内ならいけると落ち着いてレースをすることができました」と言う水間菜登の勝浦LSCが優勝した。

 サーフ種目だけでなく、ビーチ種目でも活躍する2人。

 「ランもスイムもクラフトも、オールマイティーにならないと世界で通用しないので」と話す先輩、水間の言葉をしっかりと受け止めている丹羽だった。

 上野真凛・上村真央の西浜SLSCは、惜しくも2位。

 「最後、波に乗れませんでしたね」と肩を落とす上野に、「でも楽しかったね」と声をかけた上村。その言葉で上野も笑顔を取り戻した。

LSweb デッドヒートの男子は、榊原 司・牛越 智の波崎SLSCが鮮やかな勝利を決めた。

 「もう、最高!」と抱き合った2人。
 「波崎のメンバーの皆で江ノ島周辺に引っ越してきて、チームで練習する環境を整えての勝利です」と声を弾ませた。メンバーはレース前日には鍋で決起集会もやったそうだ。

 総合成績は、そんな波崎SLSCが過去最高の3位で初めて表彰台に立った。

 「今年は表彰台を狙える実力でしたが、まさか本当に表彰台に上ることができるとは」と涙を見せたのは、波崎SLSCの学生代表を務めた大山玲奈だ。

 チームメイトに胴上げされ宙を舞う大山の姿を見ながら、「今年は玲奈さんが学生代表で、女性の代表は初めてではないですけど、でもやっぱり珍しいし、これまで以上に明るい環境になって、とても良い雰囲気で練習することができたんです。ここまでメンバーががんばってこられたのは、玲奈さんの影響が大きくて……」と、レスキューチューブレスキューが終わった後、こっそり話してくれた大井の言葉が思い出された。
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 総合2位は学生パワーでベテラン勢に立ち向かった日本体育大学LSC。江ノ島をバックに「日体大、最高だー!」と雄叫びを上げた。

LSweb そして見事、総合優勝四連覇を成し遂げたのが西浜SLSCだ。

 競技委員長の小田切伸矢は、「ボードレースで西浜勢3人がトップで上がってきた時には、鳥肌がたちました。プレッシャーのかかる中で、戦ってくれたチームメイトたちは本当にすごい。ただただ、皆に感謝です。ありがとうございました」と頭を下げた。

 それぞれの思いを胸に挑んだ第41回全日本選手権大会。

 夕暮れ時のビーチエリアでは、多くの選手や仲間たちが輪を作り、過ぎゆく大会の余韻に浸っていた……。(文中敬称略)
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【第41回全日本ライフセービング選手権大会 成績表】



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