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海外で出会った水辺の番人たち2012/12/25

The rescuer who met overseas.

Vol.1 スペインのライフガードLSweb

“水のあるところに水辺の番人あり”ということで、
海外の取材先で出会ったライフガードたちをピックアップ。

第1回目は、スペイン・バレンシアのウォーターフロントで見かけたライフガードを紹介しよう。




文・写真=LSweb編集室




レッドクロスと水難救助

 タイトル写真に写っているレッドクロスを背負ったライフガードたちは、スペイン赤十字のライフガードたちだ。
 
 LSweb災害時の寄付や献血運動などでお馴染みの赤十字(レッドクロス)をスペインでは、“CRUZ ROJA(クルス ロハ)”といい、CRUZ(クルス)が十字、ROJA(ロハ)が赤色という意味で、日本語に訳すと赤十字となる(スペイン語を履修している現役大学生ライフセーバーの皆さん、これで合ってる?)。
 
 赤十字のルーツは、スイス人のアンリー・デュナンが1859年のイタリア統一戦争時の悲惨な光景を目にし、戦場に放置されていた負傷者の救護を中立的に行ったことに端を発する。
 その後もデュナンは、国際的な救護団体の必要性を訴え続けた結果、1864年には国際人道法ともいわれるジュネーブ条約が締結され、赤十字国際組織が誕生したのである。
 
 現在、赤十字の主な役割や活動として、世界中の戦争犠牲者の救援をはじめ、災害被災者の救援、医療・保険・社会福祉などを行っている。
 
 そのひとつに、「救急法等の講習」という指導活動がある。これは、「苦しんでいる人を救いたいという思いを結集し、いかなる状況下でも、人間のいのちと健康、尊厳を守る」という使命にもとづいて、「救急法」「水上安全法」「雪上安全法」「幼児安全法」および「健康生活支援講習」の5種類の講習を広く一般に向けて主催しているもの。
 
 その中のひとつである「水上安全法」に基づき、世界中で水難事故から人命を守るため事故防止と救助活動に携わっているのが、レッドクロス所属のライフガードたちなのである。

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ライフガードの誇りと自信

LSweb 少し前の話になるが、2006年5月にスペインのバレンシアで行われた世界最高峰のヨットレース、第32回アメリカズカップの前哨レース「ACT(アクト)」シリーズを取材に行った時のこと。
 
 取材関係者のベースとなるメディアセンターは、ウォーターフロントの一等地にあり、建物のすぐ裏はマリーナになっていた。
 そこには、カメラマンが乗る撮影艇や各チームのセーラーたちが記者会見にやってくる時などにボートを着けるポンツーン(浮き桟橋)がある。最初に彼らと出会ったのは、そのポンツーンの上だった。
 
 我々カメラマンが重たい機材を持ってポンツーンをよたよたと歩いていると、レスキューチューブを持った彼らが笑顔で、「お疲れ様、気をつけて」と声をかけてくれたのだ。それから彼らを見かける度に挨拶を交わすようになった。

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 ある時、彼らにこんな質問をしてみた。
 
 「いつも我々をサポートしてくれてありがとう。ところで、きょうは何か(トラブルが)あった?」
 
 「いいや、なにもないよ。仮に我々の目が届いている範囲でなにか起こっても心配ないさ。僕らは、レスキューのプロフェッショナルだからね」
 
 そういって、胸に付いているレッドクロスのマークをぽんぽんと叩いてウインクしてみせた。さすがである。だからこそ、彼らがいるだけで妙に安心感を覚えるわけだ。
 気がつけば、いつもの定位置に立って海を見ている彼の姿があった。
 
 海水浴に行かなくても、出張先の海外でこんな形でライフガードにサポートされているんだと、初めて気付かされた瞬間だった。




見守る側と見守られる側の関係

LSweb 余談ではあるが、「アメリカズカップ」について一言。100年以上の歴史を持つヨットレースの最高峰、「アメリカズカップ」は、“海のF1”にも例えられ、世界有数の富豪たちが、「至高の銀杯」と呼ばれるカップを手に入れるために莫大な資金を投入し、ただただ名誉のためだけにしのぎを削る壮大なヨットレースだ。
 
 レース海面には、そんな華やかでエキサイティングな戦いを一目見ようと、大小じつにさまざまなヨットやボートで溢れかえる。その数、ざっと見積もっても数百隻は浮かんでいるだろう。
 
 そんな混み合った観覧エリアを巡回している赤いボートがあった。こちらの撮影ボートに近づいてきたので確認してみると、“MEDIC”と書かれた旗とともにレッドクロスのフラッグが掲げられていた。ボートの横腹には“CRUZ ROJA”と入っている。このボートもスペイン赤十字が所有している船で、乗務員はもちろんライフガードである。
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  海洋国家スペインの人たちは、海が大好きだ。アメリカズカップのようなビッグイベントだけでなく大小さまざまなマリンイベントが数多く開催されるお国柄である。
 
 このようなマリンイベント開催時における海上での万が一のケガや事故に備えて必ずレスキュー艇が出動する。常に監視艇が見回ってくれるお陰で、ヨットやボートは安心してイベントに参加できるのである。
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 そのことをプレジャーボートに乗って遊ぶ側も十分理解しており、レスキュー艇に向かって手を振って声をかけたり、飲み物を手渡して労をねぎらったりと、うまくコミュニケーションとっている。見守る側と見守られる側の立場は違えど理解し合い、お互いが意識してより良い関係を築いているように思える。
 
 見守る側と見守られる側、どちらも成熟していてなんともうらやましいと感じ、いまだに印象に残っているスペインのマリン&レスキュー事情のひとコマであった。









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