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ライフセーバーのための気象予報講座⑨
あなたの海と低気圧
2016/02/09

Weather Information for Lifesavers

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前回の記事で、低気圧の構造は理解できただろうか?

それが分かったら、いよいよ本題の低気圧と波の関係を見ていくことにしたい。

今回はライフセーバーであり、気象予報士でもある松永 祐さんが、図解形式で解説してくれる。図を拡大しながらしっかり理解して、海練に活かそう! (LSweb編集室)


文・写真=松永 祐(九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC)





ホームビーチのコンディションを予想するために

 やっぱり波があるときは波乗りしたい、パドルフォームの確認をしたいときはフラットなほうがいい、スキーはダウンウインドが面白い……。
 自分がやりたい練習メニューに、海は対応してくれるだろうか。

 低気圧の性格が分かったところで、「予報のリレー」を試してみよう! 自分のホームビーチのコンディションが、少し予想できるようになるかもしれない。

 今回は関東を例にした内容になってしまうが、全国のライフセーバーの皆さんも、ぜひホームビーチでこのような特徴を見つけてもらいたい。

通り道はある程度決まっている
A_低気圧2ルート
 朝、通勤・通学で同じ時間の電車に乗ると、同じような人が同じような位置にいたりする。おそらく、電車の車両も同じで、出社時間も毎日同じなのだろう。

 空気は、基本的に熱と地形により大きな影響を受ける。地形はそう簡単に変わるわけがないし、大きな異常気象が起きない限り、季節毎にいつも同じような温度になる。

 つまり、人が毎日同じような動きをするかの如く、低気圧ができる場所や通り道も、季節毎にだいたい同じになってしまうわけだ。

 そのルートは、日本付近では主に2つがある。

 1つ目は、日本海で発生し、東に向かうルート。2つ目は、日本の南の海岸線に沿って発達するルートだ。
 この2つ目のルートは、「南岸低気圧(なんがんていきあつ)」とも呼ばれている。

発達するパターンと、しないパターン

 これまで何度か「発達」という言葉を使ってきた。

 この場合の発達とは、簡単に言うと、低気圧の中心気圧が下がり、渦が大きくなることである。それに伴って風が強まり、場合によっては大雨にもなる。
 低気圧が発達する時には、暖かい空気と冷たい空気がぶつかることが重要である。この温度差が大きいほど、ぶつかる勢いが強いほど、低気圧はよく発達する。

 そして、発達する低気圧は真東ではなく、北東へと進む。

 発達しそうな気配は天気図から見つけよう。正確な予報をするためには、いろいろな専門的な天気図も必要になるが、スマホやテレビですぐに見られる「地上天気図」だけでもある程度わかるのだ。

 ここにBとCの2つの天気図がある。発達するのは、低気圧と高気圧が左から右へ縦に並んでいるBだ。右側の高気圧からの暖かい空気と、左側の高気圧からの冷たい空気がよくぶつかるためだ。それに伴い、低気圧は北東に動く。
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 天気の変化は大雨(冬は大雪の可能性もある)の後、すっきり晴れるというメリハリのついたものになりやすい。さらに、発達するということは、大きな波を起こすということでもある。

 反対に低気圧と高気圧が上から下に並んでいるCの場合は、空気のぶつかりかたが弱く、低気圧は発達せずに真東に動くことが多い。先ほどの逆で、大きな波は発生しずらく、天気もしばらくの間ぐずついてしまう。

「冬型の気圧配置」なのに、波がある時とない時がある

「今日は冬型の気圧配置になるでしょう」という天気予報のセリフは、ほとんどの人が聞いたことがあるはずだ。

 日本の東の海上に先ほどの経緯で発達した低気圧があり、西の大陸に高気圧があるという「西高東低」の冬の代表的な気圧配置だ。

 こうなると、日本海側は雪、太平洋側は晴れというわかりやすい天気になる。ただ、波はもう少し細分化できるのだ。関東を例に説明しよう。

 次の図DもEも、西高東低の「冬型の気圧配置」の例である。おおよそ日本付近は北西の季節風が吹くように見えるが、この2枚には違いがある。
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 目が回るかもしれないが、等圧線をよーく見てみると、関東等の本州付近で、Dは縦縞の模様なのに対して、Eは円を描くように曲がっているのに気づくだろう。

 ほんの少しじゃん! と思うかもしれないが、この少しの違いで湘南の海は大きく変わる。Dの時、関東では日本海側に雪を降らせた風が山を越えて真北から吹く。すると、湘南では完全なオフショアになり、波はなく、海は非常に透明度が高くなる。2015全日本本選2

 一方Eの時は、北西からの風が吹くと思うかもしれないが、南アルプスや丹沢山地を回り込んだ風が吹くため、冬なのに関東だけは南西~西南西の風が吹く。そうすると、風下の鵠沼などではぐちゃぐちゃの風波が立つ。

 イメージとしては、2015年全日本本選2日目の夕方みたいな感じだ。

 この時、普段は穏やかな千葉の内房でも風波が立つし、九十九里では右からの風が強くなり、波があったとしてもきれいなブレイクにならない。

九十九里でも波がない時がある

 千葉の九十九里といえば、いつでも波があるというイメージを持つ人も多いと思うが、実際はそんなことはない。

冬、低気圧の発達経路によっては、ドフラットな日と、パーフェクトなフェイスを持つ爆波が沖でブレイクしている日と、大きく2つに分かれる。

 また天気図が登場するのであるが、図FとGを比べてみよう。また微妙な間違い探しである。
F_九十九里3コマb
 日本の東の海の上をよく見てみよう。

 同じような経路で低気圧が発達しているが、Fは全体的に等圧線が北西(左上)から南東(右下)へ、Gは低気圧の北側で等圧線の方向が北東(右上)から南西(右下)へとなるタイミングがある。

LSweb 波は風の吹く向きに沿って大きくなる。Fの場合は九十九里を含む太平洋側が風上になるため、波が立たず、逆にGの場合は風下になるので、大きな波が届くことになる。

 付け加えると、Gの場合、陸地は完全にオフショアなので、波の形は綺麗だが、北(九十九里に対して左)からの波であるため、ブレイクポイント付近では右への流れが強くなる。個人的には、Gのパターンで、低気圧が少し遠くに離れた程度の時に海に入りたい。

世を騒がせる「南岸低気圧」

H_南岸低気圧 冬、関東などに雪の予報が出る原因は、これである。同時に、知っているサーファーもこの低気圧が近づくと騒がしくなる。

 図Hが南岸低気圧の典型的なパターンだ。また関東を例にしてみよう。低気圧の南側は、前回お話ししたとおり、南からの強い風が吹いている。つまり、南から北へ向かう波が出来ているはずだ。

 一方、純粋に等圧線をみると、東や北東の風が吹くように見える。そうすると、千葉も湘南も海岸線に対して横からの風が吹き、あまり波乗りには適さない波になるような気がしてしまう。しかし、本当はこの天気図の時が狙い目である。

 関東地方には日本では比較的広い平野があり、背後には2000m級の高い山がある。すると日差しがない日や夜には内陸部に冷たい空気が溜まりやすい。この空気は、低気圧の回りの東風よりも冷たいため、この東風の下にもぐりこむ。

 低気圧が来ると、その冷たい空気が低気圧に引き寄せられる。すると、関東では等圧線に沿った東風ではなく、内陸から海へと「陸風」が吹く。しかも、それなりに強い。すると、関東のビーチではオフショアになり、面が整うのだ。

 湘南方面では逆に、この風が強すぎて、波を抑えてしまうこともあるので、低気圧が通過後にサイズアップする傾向もある。ただし、冷たい空気が届かない千葉県の一部(銚子や南房総)は、オフショアにならないこともあるので以前紹介したアメダスをよく見てみるとよい。LSweb

 発達しながら日本に波をもたらした低気圧は、東の海の上でさらに強まる。直径3,000km規模、中心気圧960hPa程度の渦になることも珍しくない。台風より格段に大きく発達した低気圧が次に波を送るのは、ハワイだ。そう、あのビッグウエーブの原因も、同じ低気圧の仕業である。

 低気圧と波の関係はお分かりいただけただろうか? サーフィンをやる人にとっては当たり前のことも含まれているかもしれないが、もう一度天気図とにらめっこして、自分のホームビーチの予想の精度を高めてみよう。


※典型的な例を基に、現象を簡略化して解説しています。少しの気圧配置等の違いでコンディションが異なる可能性もあるので、海に入る際やメンバーを指導する際はご注意ください。


    
 
[プロフィール]

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松永 祐(まつなが・ゆう)

九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC所属のライフセーバー。

大学4年時の2005年に気象予報士資格(第5292号)を取得。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)に勤める海のエキスパートであり、競技会を支える安全課のメンバーの一人でもある。


 
    








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