Andmore

-
LSweb
ライフセーバーのための気象予報講座⑪
梅雨と夏
2016/06/15

Weather Information for Lifesavers

アメ012
6月になった途端、次々と梅雨の便りが届くようになった。

しばらくの間はジメジメとした天気が続くことになる。

梅雨が終われば、いよいよライフセーバーの出番となるわけだが、今のところ空梅雨気味で真夏の水不足も気になるところ。

さて、今年はどんな夏になるだろうか?

早速、九十九里LSCの松永 祐さんに解説してもらおう。(LSweb編集室)

文・写真=松永 祐(九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC)





不平等な四季

LSweb 各地で資格講習会やライフガードテストが本格化するとともに、夏の足音が聞こえてきた。しっかりと暑い夏が来るかどうかはライフセーバーにとっては死活問題。というわけで、今回はどのように日本に夏が来るのかを見てみよう。

 ライフセーバーたる者、自らが活躍する季節の気圧配置くらい知ってないと……ね!?

 ところで、ライフセーバーなら必ず一度は思ったことがあるのではないか。“四季”と呼ぶからには、均等に3か月ずつ季節を配分してほしい……と。

 しかし、夏と冬は不平等である。12月から3月まで雪は降る。3月中旬頃から本州で桜が咲き始めると春が来た感じになり、青葉が茂る6月初め頃まで春の代名詞ともいうべき“新緑の季節”が続く。
 
 その次が夏なのだが、その前に問題がある。“梅雨”だ。

 東海地方から東北地方の太平洋側にかけては、しとしととした雨が続き、5月よりも肌寒い日もある。四国や九州地方では大雨が降ったりする。青い空、沸き立つ雲、照りつける太陽……という夏のイメージとは程遠いだろう。

アメ010 梅雨は約1カ月半も続き、夏休み直前の7月下旬まで続くことが多い。その後“本当の夏”が来たと思ったら、8月下旬にもなると台風が近づいてきたり、秋雨前線が出現したりして、涼しい日が現れ始める。

 秋の次は冬になるのだが、“暖冬”といえどもコートを着ない冬はないだろう。ところが、“冷夏”の年は雨ばかりで、短パン、Tシャツでは過ごせないほど寒い日が続く年がある。

 このように本州で“本当の夏”は1カ月程度と短く、さらに夏が来ない年もあるのだ。なぜ日本の夏はこのようなライフセーバーにとってイジメともとれる状況なのだろうか。

 天気図も読めるようになったことだし、少し大きいエリアの話をしてみよう。

梅雨前線の動き

LSweb

図-A

 梅雨には「梅雨前線(ばいうぜんせん)」という前線が登場することを、皆さんご存じだろう。

 5月中旬になると、沖縄付近で雲の帯(図A)として見え始める。その頃から夏の半分を費やしてしまう梅雨が始まる。
 
 そしていつ梅雨明けになるのかは、この前線の挙動にかかっている。

 皆さんは理科の授業で、「オホーツク海高気圧と太平洋高気圧の間にできて、少しずつ北上し、7月になくなる。」と習った記憶がわずかに残っていると思う。おおよそこのような動きをするのだが、そこには何人かの役者が居るのだ。

オホーツク海高気圧

 梅雨前線の行く手を阻む、北海道の東を中心とした高気圧である(図B)。直径は1,000kmと太平洋高気圧に比べると非常に小さい。特に本州が梅雨前線の北側のエリアに入る梅雨前半はこの高気圧の影響を受けることが多い。

LSweb

図-B

 関東から東北では、まったく夏らしくない寒い雨の日が続くことがあるが、原因はこの高気圧である。天気図を見ると、前回お話ししたように関東に「北東の風」が吹く気圧配置になっているのがわかるだろう。

暖かく湿った空気

 一方、東海から九州の方々はそこまで寒い思いをした経験は少ないはずだ。むしろジメジメして大雨が気がかりである。高気圧の中心は風が弱く天気がよいのだが、その周辺は時計回りの風が吹くと以前お話しした。

 この季節の日本の南の海は海水温が高い。

 その上を数千kmにわたり風が旅してくる。すると海から大量の水蒸気を吸収することができる。そのまま等圧線に沿って西日本に突っ込んでくる(図B)。山の南側で雨が多くなるのは、南側からこの空気が山にぶつかり、上昇するためだ。

天気図には見えない影の役者:偏西風

LSweb

図-C

 偏西風は、上空10kmあたりに中心を持つ強い西風である。

 北からの寒気も南からの暖気も、この偏西風の手前までしか南北に進むことができない。それに伴い発生する低気圧や高気圧は、偏西風に運ばれるため西から東へと進む。さらに、偏西風は梅雨の時期になると、中国大陸から水蒸気を運んでくる。この偏西風の吹いている場所の変化が、梅雨明けに大きく影響する。

 上空10kmというとものすごく空高い所だと思うが、中国大陸には、8,000m級の山が連なるヒマラヤ山脈や、標高6,000m程度のチベット高原が広がっている。
 偏西風とはいえ、これらの高地を飛び越えることができず、迂回しなければならない。6月初めの梅雨入りの頃(図B)には、偏西風は南北2つに分かれて吹いている。特に南側のルートが水蒸気を本州に運ぶ影の役者だ。

 それが7月頃(図C)になると、チベット高原の気温が上がり、北側のルートのみになる。すると、水蒸気が運ばれなくなり、南からの暖かい空気がより北まで進むことができ、梅雨明けとなる。

新キャラ、続々登場!

LSweb 実は、梅雨前線の挙動はまだ解明されていない部分もある。

 たとえば、西日本で時々発生する大雨は、さきほどお話しした数千km旅してきた水蒸気を含む空気と、中国の田園地帯から水蒸気を得た空気がぶつかる所や、暖かい黒潮のすぐ北の海面水温が大きく変化するエリアで発生することが分かってきた。

 また、九州の北側に広がる黄海の海面水温の変化(水深が浅いため6月末頃から水温が急上昇)とその上にできる局地的な高気圧が、梅雨前線の北上と連動しているという現象も発見されてきた。

 今後、黒潮、黄海高気圧といった新たな役者も参戦してくるだろう。

夏はどこまで?

DSC_2245a 先ほどから登場している「太平洋高気圧」の紹介がまだだった。

 皆さんがよく聞く、夏の主人公というべき「太平洋高気圧」というのは、より正確に言うと「北太平洋高気圧」と呼ばれ、太平洋の北半分を覆う直径5,000km以上もある巨大な高気圧である。

 そして、その中心は日本のはるか東の日付変更線の近く。つまり、日本はこの高気圧の端っこに位置していて、ギリギリ夏になっている、という状態なのだ(図C)。

 これが日本のライフセーバーの活躍期間を短くしてしまう四季の不公平感を出している。夏の端っこに居るということは、この高気圧の力の微妙な変化で、すぐに夏が去ってしまうということだ。
 
 では、北太平洋高気圧の力を決めるものは何か。このような大きいものを動かすカギは、天気の話とはいえ、海の影響が非常に大きい。

エルニーニョとラニーニャ

 エルニーニョ現象。この言葉は異常気象の代表例として有名になった。これは、日本からはるか遠く、南米ペルー沖の海水温が普段より高くなり、それに伴い赤道付近の上昇気流の位置がずれることで、日本に冷夏・暖冬をもたらす現象だ。

 さきほどもお話しした通り、エルニーニョの発生により太平洋高気圧の範囲が少しずれると、そもそも夏の端っこだった日本には暖かい空気が届かず、秋の空気やそれとの境界(前線)が発生し、夏がなくなってしまう。この細かい話はインターネット検索するとすぐに出てくるので、皆さんも調べてみよう!

今年の夏は?

LSweb 気象庁では、毎日の天気予報の他に、1カ月予報を毎週木曜日に、3カ月予報を毎月25日に発表している。これは、晴れ・曇り・雨の予報ではなく、その期間中の「通常からどれだけずれているか」のおおよその傾向を表したものである。

 2016年の夏のものは、5月25日に発表された。それによると、西日本を中心に気温が高くなる傾向が出ている。暑くなると聞けば、安心してガードの準備ができるだろう。

LSweb ただし、今のコンピューターでのシミュレーションでは3カ月分の具体的な天気は予測できない。局地的な寒気の滞留により数日間レベルで天気がぐずつくかもしれない。暑くなる期待をしつつ、さきほどの役者の挙動をみなさんもよく見ておこう!

 さて、今年も夏が間近に迫っている。海水浴場開設に向けた準備や練習は大詰めに違いない。

 この約1年でお天気講座を読んだ皆様は、天気予報の武器をいくつか使えるようになったはずだ。

 次回はいよいよ最終回!「ローカル」になるためにそれらを早速活用してみよう!


※典型的な例を基に、現象を簡略化して解説しています。少しの気圧配置の違いでコンディションが異なる可能性もあるので、海に入る際やメンバーを指導する際は状況の変化等に十分ご注意ください。



    
 
[プロフィール]

LSweb
松永 祐(まつなが・ゆう)

九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC所属のライフセーバー。

大学4年時の2005年に気象予報士資格(第5292号)を取得。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)に勤める海のエキスパートであり、競技会を支える安全課のメンバーの一人でもある。


 
    








And more 記事タイトル 一覧

年別アーカイブ



-