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ライフセーバーのための気象予報講座⑩
海風と陸風
2016/05/16

Weather Information for Lifesavers

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ゴールデンウィークが終わったと思ったら、
急に日差しが急に強くなったようだ。夏はもうすぐそこ……。

というわけで、本格的な夏を迎える前に
ライフセーバー必読の気象予報講座をお届けしよう。

今回も九十九里LSCの松永 祐さんが分かりやすく解説してくれるぞ。(LSweb編集室)




文・写真=松永 祐(九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC)




海風は夏の香り

 5月ともなれば新勧海練、講習会などとイベントが盛りだくさん。そして本州ではようやく暑苦しいウエットスーツからも解放され、風や水を肌で感じられる季節となる。

LSweb 海練を終えた夕方、夏を先取りしたような潮の香りが漂うことがないだろうか。今回は夏先取り気分を手助けしてくれる海風と陸風のお話である。

みんな知っているはず!? 海風と陸風

 ビーチに立ったことのあるライフセーバーであれば、海風と陸風のことは当然、知っているはずだ。基本中の基本である!

 ベーシックサーフライフセーバー講習会で取り上げる天気の話は少ないとはいえ、必ずこれには触れられるはずだ。基本的なことは日本ライフセービング協会発行の『サーフライフセービング教本』47ページで復習しよう。

 海と陸の温度差から発生するこの風の変化は、夏を待たずしてすでに5月から起こっている。

十人十色の海風と陸風

DSC_0227 しかしよく思い出してほしい。夏の晴れた日、午後の海風は毎日真正面から吹いていただろうか。

 日々発生する海風と陸風の規模は小さい。この現象が起こる範囲は、陸側には数十km、海側には10km程度の現象である。

 前回取り上げた低気圧が1,000km以上の大きさであることと比べると、かなり小さいことがわかるだろう。規模が小さく、時間による変化が大きい現象は、地域による特性が大きい。

 全国各地で活動するライフセーバーの皆さんには申し訳ないが、また関東地方の例をもとに、そのバリエーションの多さをみてみよう。そしてこの夏、皆さんのビーチでも海風と陸風の特徴を調べてみよう!

風はビーチの背後を「陸」と認識していない

DSC_1612 関東平野は奥行きが100km以上もある、日本でトップクラスの大きさの平野である。おおまかに見ると6角形をしており、北側から西側にかけては越後山脈、関東山地(丹沢含む)があり、東側から南側にかけては鹿島灘、九十九里、湘南・西湘エリア(相模湾)が広がる。

 そして、特に夏になると内陸の埼玉県や群馬県では気温が上がる。記録的な高温を伝えるニュースを聞いたこともあるだろう。また、このような日は山に登ってもかなり暑い。

 海風はこの内陸部や山を目指して吹きこんでくる。そうすると、ビーチによってさまざまな方向から吹く海風が生まれてくるのだ。さらに、関東平野の周りには3方向に海があり、2方向に山がある。この地形ゆえに、時と場合によって吹き方も変わってしまうのだ。

天気図とも連動する海風

 そんな気まぐれな海風は、どこからどこに吹くのだろうか。実は天気図と照らし合わせるとおおよそ見当がつくことが多い。典型的な3つのパターンを紹介しよう。

 連載の第3回で天気図の見方を解説した。しかし、ライフセーバーはただ天気図が読めるだけではダメで、そこに今回の海風・陸風の吹き方を重ねられるようにならなければいけない。

A陸風と海風(関東)_純粋南型 海風・陸風が予測できないと、実際のコンディションは予想と大きく異なってしまい、波選びで風をかわせるポイントや、遊泳客の流される方向を間違えてしまうことになる。

 風向きを決めるポイントは、高気圧の位置と内陸部の晴天だ。個別に見ていこう。

-純粋南風型-

 夏に最もよく見られるパターンである。相模湾や南房総から南風が入り、まっすぐ北を目指す。

 この時の典型的な天気図がAだ。本州の真上や南側に高気圧があり、関東付近の等圧線を見るとおおよそ南西から北東へと風が吹きそうである。

 ただし、海風は地形の影響もあり、真南から吹く傾向である。一見、真夏の太平洋高気圧が強い時には、天気図だけを見ると等圧線が本州に1本程度しかないため、風が弱そうな気がするが、内陸部が晴れていると、午後にはこの南からの海風がかなり強く吹く。逆に朝は風が弱い。

 そのため、南向きのビーチでは教科書通り午後になると正面から風が吹くが、西向きや東向きのビーチでは横から風が吹く。

-南東型-
B陸風と海風(関東)_南東型
 九十九里方面から風が入り、少し左向きにカーブしながら関東平野の西側の山に進むパターンだ。

 南風型よりも気温は上がらない。そして、この風が吹く典型的な天気図がB。高気圧が日本の東側にあって、西に気圧の低い部分(例として台風を描いた)がある。

 この天気図の等圧線をたどっていくと、関東には南東から風が入るように読める。先ほどと同様、等圧線の数が非常に少なく風は弱そうだが、この傾向にしたがって午後になると海風が便乗し、風速は強くなる。

 この場合、東向きの九十九里では正面から風が吹くが、湘南などの南向きのビーチでは左から右への風が吹きやすい。そして問題なのが西向きのビーチ。オフショアになるため、浮き輪で遊ぶ人が浜に帰って来づらくなるので、注意が必要だ。

-北東型-

 鹿島灘から風が入り、関東平野の西側の山に進むパターンだ。場合によっては、そのまま湘南方面に風が抜けることもある。

C陸風と海風(関東)_北東型 この場合、先ほどまでの2つの例とは異なり、晴れたとしてもあまり気温は上がらない。このパターンの典型的な天気図はC。関東の北側に高気圧が偏っている。天気図上からも関東付近では東よりの風が吹くことが読み取れるだろう。

 そしてこのCの気圧配置の時には、まだ特徴がある。鹿島灘と九十九里の間には海水温が大きく異なる海域があり、この北側は海水が冷たい。この北東の風は冷たい海の上を吹いてくるため、冷たく湿っている。そして冷たいため、上昇できず、関東の西側の山にぶつかってしまう。すると、日本全国晴れているのに、関東地方だけ曇ってしまう。

 東北地方に天候不順をもたらす「やませ」という言葉を聞いたことがあるかもしれないが、これと同じような現象である。ちなみに、この風は内陸の気温よりも常に冷たいため、夜になってもなかなか止まらない。特に東側のビーチで朝イチにイイ波を狙おうとしている時には注意が必要だ。

 もちろん、これら3パターンの中間的なものもあるため、必ずここで説明した通りの風が吹くとは限らない。ある程度は予想しつつも、実際のビーチで風をしっかり感じよう。

決め手は皆さんが見ている海のすぐ裏

KATAKAI Evening Session_001 さて、ここまで典型的なパターンをお話ししたが、ビーチによってさらに細かく状況は異なる。諸先輩からは代々「海だけじゃなくて浜も見なさい!」と教えられてきたと思うが、浜側を細かく見たことがあるだろうか。

 どの方角に山があって、どこを風が通りそうか。特に山に囲まれたビーチでは、遊泳エリアの左端と右端で風の強さや微妙な向きが違うことがある。
 天気図、海風が吹く条件、細かい周囲の地形などを頭にインプットして、海を見てみよう。

 潮の香りが漂う夕方の海を前にこの季節に思うことといえば、今年の夏は暑くなるのか……? ということだ。

 次回は、ライフセーバーの死活問題、梅雨と夏の天気の特徴を見てみることにしよう!


※典型的な例を基に、現象を簡略化して解説しています。少しの気圧配置等の違いでコンディションが異なる可能性もあるので、海に入る際やメンバーを指導する際はご注意ください。


    
 
[プロフィール]

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松永 祐(まつなが・ゆう)

九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC所属のライフセーバー。

大学4年時の2005年に気象予報士資格(第5292号)を取得。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)に勤める海のエキスパートであり、競技会を支える安全課のメンバーの一人でもある。


 
    








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