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ライフセーバーのための気象予報講座⑫(最終回)
この夏、『ローカル』になる!
2016/07/15

Weather Information for Lifesavers⑫

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九十九里LSCの松永 祐さんによる好評連載「ライフセーバーのための気象予報講座」は今回が最終回となる。

天気のメカニズムを知り、天候の変化を察知することは、ライフセーバーにとって大事なスキルの一つだ。

夏季のパトロールに、日々の練習に、安全で楽しく活動するために、じっくり読んで役立ててほしい。(LSweb編集室)


文・写真=松永 祐(九十九里LSC、サーフ90鎌倉LSC)




パトロールシーズン、到来!

 いよいよ7月。
 2016年は偏西風が蛇行していて梅雨明けが遅れ気味ではあるが、本州でも本格的に海水浴場が開設し始めている。ライフセーバーにとっては一年の集大成を見せる本番の季節だ。

 とはいえ、実際にやらないとわからないことも多く、勉強の日々でもある。今年はそこに天気予報も付け加えてみよう。意識的に2カ月間、毎日同じ海を見ていれば、そんじょそこらの気象予報士よりも細かい海の表情を理解できるはずだ。

あなたの浜の予報士に

LSweb 少しおさらい。

 テレビなどの天気予報で気象予報士が説明しているのは、地球規模から直径数キロメートルという大きなスケールの現象を対象としているため、大雑把にならざるを得ない。
 この予報で使われるのが、先に紹介した気象衛星、天気図、気象庁スーパーコンピューターのシミュレーションなどである。

 一方、海水浴場は大きくても横幅1~2キロメートルであり、遊泳者が遊ぶ範囲はせいぜい横幅数十メートルという、地球規模と比べたら小さなスケールだ。
 ここで使われるのが、みなさんの「目」「体」「毛」そして「アタマ」である。

 既に数回書かせていただいているが、ローカルになるための一番の障害は、大きなスケールと小さなスケールのリンクができていないことだ。

 この夏、このギャップを埋める工夫をして、是非地球規模から毛レベルまでをつなげてほしい。

 ただしそれはすごく手間のかかることではない。日々の取組みをほんの少し発展させるだけで、埋められるのだ。

 アタマではわかったけど……何をすればいいの? と思ったら、次のことを日々ほんの少しでも実践してみよう。

まず、去年のノートを見てみよう

 もちろん、去年よりもより良い監視をするために、夏の準備段階で皆さんよく読みなおしていることだろう。改めて天気の視点でもう一度読み直してみてはどうか。

 毎日の風向風速・波のブレイクの位置・流れ・海中での人の寄り具合・それらが変わる時間帯、潮汐による変化がどの程度書(描)かれているだろうか。

 逆にその他のガードの反省点はどの程度書かれているだろうか。ノートに記載されている項目が多いほど、より良いパトロールのために意識的に改善してきたはずだ。

 過去を振り返ると、よほど思い出に残っている日以外は、いつどのような天気だったかを憶えていることは無いだろう。早速、「記録をする」ということを軸に、天気についても取り組もう。

朝起きたら……

LSweb 起きたらすぐに海に入りたい! と思うかもしれないがちょっと待った!

 海に行く前にスマホで雲画像、天気図、最寄りのアメダス観測情報の3点セットは最低限確認しよう。

 ここで、低気圧が北にあるから南風かな? 等圧線がたくさんあるから風は強そうかな? 晴れるから海風が強まるかな? と、少しでもいいから昼間の風景を寝起きの時点で想像しよう!

 「お気に入り」に設定してすぐに画面が出せるようにしておけば、探す手間も省けてすぐに海に行ける。

 余裕があれば、ここに波情報を加えてみよう。ただ、波情報を見るのなら「腰・腹」等の文字情報だけでは不十分。シミュレーション動画があればそれも一緒に見て、どの方向からうねりが来るのか、そのうねりと天気図の関係性まで見ておきたい。

 毎日一瞬見るだけで、一瞬考えるだけで大きく違う。使う時間は5分でもOKだ。

朝礼で

 ラジオやお天気サイトの解説情報を読み上げて、天気マーク以外の情報を共有しよう。予報だけではなく、「大気の状態が不安定」といった夕立のヒントも拾う事が重要だ。

 読み上げるには3分もあればじゅうぶんだろう。ここまでに、気象予報士が普段見ている大きなスケールの情報を入手しておこう。

“毛”が重要

LSweb 監視時間中、ライフセーバーの皆さんは一日に数回、五水チェック(地形や流れの確認)のために海に入るはずである。もちろん、強い流れ、強い風があれば、その結果は風下を重点化するといったガード体制へ反映される。

 今回のポイントは、いかに風や流れが弱い状況下でも感じ取れるかということだ。

 微妙な変化、微妙な流れの有無が、天気図などと関連することもある。流れや風がないからいいじゃん、とは決して思わないでほしい。
 例えば、キリが晴れる直前や夕立雲が近くにある場合、潮が動く直前等には、風や海水の流れがほとんどないという状態もあり得る。

 また、風がほとんどない状態でも、体が濡れていれば、どこから吹いているかわかるはずだ。毛の動きで微々たる海水の流れも感知できるはずだ。「ほとんどない」では終わらせず、「ほとんどないが微妙にこっち!」がわかるくらい観測精度を上げられるようにしたい。

 これにはいつもより少し立ち止まる回数を多くしたりして、一日あたり追加で5分程度かかるかもしれない。

自分の立ち位置を要確認

 せっかく体で風や海水の流れを感知できても、正確にコンディションを把握できる位置に居なければ重要なサインを逃す可能性がある。

 先輩からは360度目を付けて浜も海と同じように監視しなさい、と習っているかと思う。その際に、背後に建物があるなど、風や空を遮っているものがないか、よく確認しておこう。

 背後が壁で、いつの間にかオフショアになっていた、なんて事があったら、ライフセーバーでしか感じ取れない重要なサインを早速逃していることになってしまう。ついでに、縦方向にも360度目を付けて、雲の動き、旗のなびき方、木の揺れ具合等も見えるようになるとより良い。

ノートには“図”が重要

LSweb このように1日で体感したことは、必ず図としてノートに残しておこう。図は文字より描く時間が短縮できるし、微妙な向きまでしっかりと記載できる。

 例えば、海に向かって右から左の風が吹いていた場合。海岸線にぴったり並行に右から左なのか、やや沖に向いて吹いているのか、やや岸に向いて吹いているのか、この微妙な違いで波の形や監視のポイントが大きく異なってくるはずだ。今年はこの微妙な違いまで気を遣って認識してもらいたい。

 もちろん、走り書きでも絵が水でにじんでいてもよい。後で見返した時に気象条件とその日の海水浴場の雰囲気が同時に思い出せればより良いだろう(読めないのは、もちろんダメ)。

 1日数回ノートに記録すると、全部で合計7分くらいはかかるかもしれない。

変わり目を逃さない!

 もちろん、忙しい日やライフセーバーの人数が少ない日は、いちいちノートに書き留めておくことはできない。そんな時は、「変わり目」だけでも確実に記録しておこう。
 代表例としては風向きの変化、海の流れの変化。もちろん、それが発生した時間の記録も不可欠だ。

 何かとドキッとする「変わり目」も、何らかの傾向があるかもしれない。毎日の記録からなら把握できるはずだ。

寝る前に……

 もう一度、スマホで朝見た資料を見てみよう。

 今日の監視時間にノートに書き留めた変化は、天気図や朝の気象情報からも想定できそうか。または、いくらかズレたものだっただろうか。

 もし天気図と実際のズレが毎日続くようであれば、それがその海水浴場固有の特徴である。逆に言うと、天気図が読めれば、そのズレを考慮することにより、監視する海水浴場でのより正確な予測が出来るということでもある。ここで、目指す「ローカル」が見えてきた。

 眠い目をこすりつつ、一日の最後に5分だけでも頑張ってほしい。

「1日20分」でローカルに

LSweb 1日当たり合計約20分だけ天気のことを考えるだけで、ひと夏終わった後にはかなり担当海水浴場のイメージができようになるに違いない。

 過去11回の連載で、いろいろな気象観測機器や予測の方法を説明してきたが、浜に立てば、みなさんの体が気象観測機器、アタマがスーパーコンピューターだ。

 そこで出た結果をその都度毎日記録し、その傾向を知ることが、海水浴場レベルの規模の気象状況を把握する重要な方法である。特に監視を始めたばかりの人たちにとっては、海や風を読めるようになるための非常に有効な手段でもある。

 一方、監視が連続する場合、監視中は絶えずお客さん対応があり、それ以外の時間帯に朝練から夕飯や反省会までをこなすと、なかなか時間に余裕がない。
 監視長の方々は少し気を遣っていただき、チームでぜひこの20分を捻出してほしい。そうすれば、学生のうちから『ローカル』的に呼ばれることができるだろう。

 さて、この夏、みなさんの海はどのような表情を見せてくれるだろうか。今から想像するとワクワクが止まらない☆


☆★ ライフセーバーのための気象予報講座 連載一覧 ☆★

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第1回:ローカルになろう!プロローグ


第2回:雲と雨の話


第3回:天気図の見方


第4回:積乱雲の話


第5回:台風


第6回:全日本直前情報


第7回:暖冬とエルニーニョの関係


第8回:低気圧その1


第9回:低気圧その2


第10回:海風と陸風


第11回:梅雨と夏


第12回:ローカルになろう!エピローグ


    
 
[プロフィール]

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松永 祐(まつなが・ゆう)

九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC所属のライフセーバー。

大学4年時の2005年に気象予報士資格(第5292号)を取得。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)に勤める海のエキスパートであり、競技会を支える安全課のメンバーの一人でもある。


 
    








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