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ライフセーバーのための気象予報講座④2015/08/21

Weather Information for Lifesavers④

LSweb気がつけば8月も後半。

夜が明けるのが遅くなり、日が暮れるのが早くなった。
でも、昼間は相変わらず暑い!

そして、最近なんだか突風やら豪雨のニュースが増えてきたような……?
そうだ、その原因をあの人に聞いてみよう。

九十九里LSC所属の松永 祐さんによる好評連載
「ライフセーバーのための気象予報講座」

4回目は夏の象徴の一つ積乱雲について。(LSweb編集室)

文・写真(イラスト)=松永 祐(九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC)





積乱雲の話

LSweb 青い空に沸き立つような白い雲。これぞまさに夏の象徴である。

 そんな日の海水浴場はまさに大忙し。そして遊泳時間が終わったら、沈みゆく夕日を横目に練習に汗を流す……。こんな気持ちの良い一日の締めくくりを迎えたいものだ。

 ただ、そんな贅沢な真夏の一日を遮る、もう一つの夏の象徴がいることを皆さんは知っているはずだ。夕立ちである。この夕立ち、しばしば雷を伴うため注意が必要だ。

 今回はこの夕立ちの仕組みを一緒に見ていこう。

「大気の状態が不安定」とは何だ!?

LSweb テレビやラジオのキャスターが、天気予報の最後にこんなフレーズをつけ加えることがある。もちろん、ウェブの気象コンテンツにも書いてある(お天気マークだけじゃなくて、注釈もちゃんと見てね!)。

「今日は上空に寒気(かんき)が入り、大気の状態が不安定になるため、山沿いを中心に雷を伴ったにわか雨が降るでしょう」

 毎日猛暑なのに、冷たい空気なんかないじゃないか! と思う人も多いかもしれない。このフレーズでの「上空」は、標高5,000mくらいのこと。地上と上空では、気温の変化が大きく異なるのだ。

 地表は、太陽が照って地面を温め、地面が空気を暖める。その結果、日中は気温が35℃を超えるような猛暑となり、夜はそれなりに気温が下がる。しかし、地面は上空5,000mまでを暖めることはできない。そのため、このような高さの気温は1日を通じてほぼ同じだ。

 しかし、たまに中国の北の方から切り離された冷たい空気が偏西風(日本の上空を吹く西風)に紛れ込むことがある。これが日本の上空に来ると、「上空に寒気が入り」の状況になるのだ。

 夏の本州付近の高度約5,000mの気温はマイナス3℃からマイナス6℃程度であるが、たった3℃低いマイナス9℃くらいの空気が来ると、「寒気」となる。上空で1℃変化することが地表へもたらす影響は大きいのだ。

 次は「不安定」の謎解きだ。LSweb

 空気は縦にも横にも動く。そして、暖かい空気は上に向かい、冷たい空気は下に降りる(連載の第2回を見てみよう!)。

 例えば、空高いところが比較的暖かく、地上付近が涼しい場合。涼しい空気は引き続き下に降りようとするし、暖かい空気は空高くに居続ける。そうすると、縦方向の動きは発生しない。これが「安定」である。

 逆に、先ほどのような寒気が入ってきて、空高いところが冷たく、地表が猛暑日のようにアツアツになったらどうだろうか。

 冷たい空気は下に降りようとして、アツアツの空気は上に向かおうとする。縦方向の空気の動きが発生するのだ。この縦方向の動きが起きやすい状態のことを「不安定」と言っているのだ。

要注意な夏の象徴“積乱雲”

LSweb 空気が縦方向に動き、暖かい空気が空高くに上昇する(上昇気流)と、冷やされて水滴を作り、雲を作る(連載の第2回を見てみよう!)。

 夏の地表の空気はとにかく熱い。そのため、気球が膨らんで離陸していくように、「不安定」な状態になると空気は暖まり次第、一気に上昇する。そうするとモコモコとした、夏のイメージにぴったりの積乱雲ができる。

 積乱雲の中は、上向きの空気のスピードが10m/sを超えることもあると言われている。10m/sといえば、ビーチにセットしたレスキューボードがひらひら舞ってしまい、1人で運ぶのはかなり難しいくらいの風だ。

 このペースで、高度10kmを超える程度の高さまで到達する。超単純計算すると、17分弱で高度10kmに到達できることになる。条件が整えば、積乱雲はこの程度の時間で形成されてしまうのだ。ここが積乱雲の最も怖いところだ。

 このような強い上昇気流により、雲の中では水滴がぐちゃぐちゃにもまれる。上昇気流に支えられているため、なかなか水滴は落ちて来られず、大きな粒に成長する。高度5,000mより上では夏でも氷点下のため、大きな氷の塊だ。

 さらに、冬にセーターをこすると発生する静電気のように、雨粒や氷の塊も擦れて電気をため込む。そして、ある一定の大きさになったところで支えきれなくなり、一気に降下する。これがゲリラ豪雨というあだ名もつくような積乱雲による雷雨である。そして氷の塊が融けないまま落ちてきたのが雹(ひょう)だ。

 空から降りてくるのは、雨や雷だけではない。空気も降りてくる。空気は縦にも横にも動く。雨や氷の通り道の空気が冷えて、一緒に落ちてくる。夕立前にひんやりした風が吹くのはこのためである。LSweb

 ただし、この「ひんやり」は序章にすぎない。積乱雲は、上昇気流で限界まで雨や冷たい空気を支え続け、上昇気流が止まった瞬間、一気に雨や冷たい空気を放出する。しかし、空気は地面に溜まったり、地面を通り抜けて地下に入っていったりはしない。

 そのため、空気は地表まで降りると四方八方に拡散する。「ダウンバースト」と呼ばれる現象である。屋根が吹き飛んだという被害のニュースを見ることがあると思うが、この現象が発生している可能性が高い。

 このようにして、積乱雲は急に極端な状況の変化をもたらすのだ。

行き先はどっちだ!?

 そして、もう一つ厄介なのが、その進行方向だ。

LSweb 積乱雲は空気中にある大きな柱だと思っていい。そのため、地表付近の風の影響も受けるし、上空10kmの風の影響も受ける。

 実は、一つの積乱雲の寿命は、数十分しかない。一つの雲の塊に見えても、その中で個々の積乱雲ができたり消えたりを繰り返し、雨を降らせ続けているのだ。こんな世代交代をしていることも、進路を複雑にする一つの要因である。「世代交代」はあまり聞いたことがないと思うが、ぜひ覚えてほしい。

 例えば、「不安定」な状況の中、地表付近が猛暑で南からの海風が吹いているところに、ほんの少し風が集まり空気が上昇を始めたとしよう。短時間で上空10kmまでの積乱雲ができる。

 成長しきったら、上昇気流に支えきれなくなった雨粒や冷たい空気が、一気に地表に向かい降りる。その空気は四方八方に拡散するのだが、一つ目の積乱雲の南側では、もともと吹いていた南風と一つ目の積乱雲から吹き出した冷たい風がぶつかる。

 するとそこに二つ目の積乱雲が発生する。そして、最初の積乱雲のあった場所には暖かい空気がなくなり、上昇気流ができなくなってしまうため、雲はなくなる。

 並行して二つ目の積乱雲が成長し、同じことを繰り返す……。一見、積乱雲は南に進んだようにも見える。しかし、二つ目の積乱雲が真南にできるか、すこし東にずれたところでできるのかは、その時にならないと分からない。さらに、上空の風が西風であれば、だんだんとその発生域は西に移動する。

この動画は、東京湾周辺に積乱雲ができた時の5分毎の雨雲レーダーだ。


 赤いところ(強い雨のエリア)がふらふらと彷徨っていたり、3コマ程度(15分)で何もないところから急に赤いマークが出現しているのが見えるだろう。

 積乱雲の大きさは直径10km程度のものが多く、非常に局地的な現象なので、天気予報で個々の積乱雲がどこに発生するかを予報するのは不可能だ(連載の第1回を見てみよう!)。

 積乱雲を見つけたら、目でしっかり雲を見つつ、最新の気象情報をチェックし対応しよう。

積乱雲を先読みしよう!

LSweb とはいえ、雷が落ちそうな危険な環境でお客さんを遊泳させるわけにはいかない。一方、雷注意報が出ているからといって、朝から一日遊泳禁止にするわけにもいかない。

 積乱雲が発生しそうないくつかの手掛かりをまとめておこう。最初の項目ほど、早い時間(朝のミーティングまで等)に仕入れられる情報だ。

1)天気予報で「寒気がある」「大気の状態が不安定」と言っている。

最初にお話ししたとおり、今日1日が積乱雲が発達しやすい環境であることを示している。

2)「雷注意報」が出ている。

個々の積乱雲が何時何分にどこで発生するかは予報できない。雷注意報は、「落雷等により被害が予想される場合」に気象庁が発表する。大雨注意報等は地域によって発表基準が異なるが、雷は全国ほぼ同じ。「雷警報」というものはない。

3)晴れているのに、もやっとして空が青白い。朝から風が弱く、風向きが安定しない。

雲のもとになる水蒸気が地表付近にたくさんある。このようなときは見通しが悪く、頭の上で雲が発達し始めても分かりづらいため要注意だ。

LSweb4)「雨雲レーダー」を活用する。

短時間で更新されるレーダーをスマホ等で簡単に見ることができる。積乱雲による雨雲は輪郭がごつごつとした丸い形で、何もないところの隣が赤色になっているという大きなコントラストがあるという特徴がある。ちなみに、だいたいのサイトでは強い雨雲ほど赤やオレンジで表示されている。

以下のサイトは5分毎の雨雲レーダーが無料で視聴可能。なお、更新は観測時刻の5分程度後である。積乱雲の発達スピードを考慮して活用しよう。

・気象庁雨雲レーダー
・国土交通省XバンドMPレーダー
・Yahoo天気 雨雲ズームレーダー
 
「ながらスマホ」に対する注意がいたるところでアナウンスされているとおり、スマホを見ると視野が非常に狭くなる。チームの他のメンバーに声をかける等して、海から目を離さないように活用しよう!

5)空を見よう!

個の規模の現象に対応できるのは、現場に居るライフセーバーだ。
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 ここまでに紹介した方法を駆使して、そして自分の目の前にあるもくもくとした積乱雲を良く見て、先取りしたビーチマネジメントをしてみよう!

 そして、積乱雲が近づいたら、雨と雷に加え、突風にも注意して、お客さんを誘導させよう。

※一部、現象を簡略化して説明しています。


    
 
[プロフィール]

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松永 祐(まつなが・ゆう)

九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC所属のライフセーバー。

大学4年時の2005年に気象予報士資格(第5292号)を取得。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)に勤める海のエキスパートであり、競技会を支える安全課のメンバーの一人でもある。


 
    








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