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ライフセーバーのための気象予報講座⑤ 〝台風〟2015/09/10

Weather Information for Lifesavers

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今年は夏前から日本に台風が接近していたが、9月になれば本格的な台風シーズンの到来だ。

九十九里LSC所属の松永 祐さんによる好評連載「ライフセーバーのための気象予報講座」も5回目。

今回は台風のメカニズムについて改めておさらいしよう。(LSweb編集室)

文・写真=松永 祐(九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC)





台風は低気圧の仲間

LSweb 台風と聞けば、ついイイ波を期待してしまうが、波、風、高潮など命に関わる大きな被害をもたらす自然の脅威でもある。一方、直接的、また間接的に恵の雨をもたらしていることも事実だ。

 ところで、「台風」「ハリケーン」「サイクロン」と聞くと、皆さん大荒れの天気を思い浮かべるだろう。これらはすべて「熱帯低気圧」というものである。

 第3回で紹介した低気圧の一種だが、日本付近で年間を通じて晴れたり雨を降らせたりする「温帯低気圧」とはまったく性質が違う低気圧だ。(「温帯低気圧」もいい波を当てるには重要だが、それはまた後日!)

 熱帯低気圧とは、その名の通り日本のはるか南の熱帯の海上で発生する低気圧だ。ただ、中心の気圧は極端に低い。そのため、反時計回りの風は格段に強い。

台風は、「台風が発生」する前に発生している!

 台風の生みの親は、皆さんが監視している海である。

 東京湾から沖縄にかけての海水浴場では、晴れたに日は水温が30℃近くになることもあるだろう。このぬるま湯状態の海水が、熱帯地域には一面に広がる。そこではたくさんの水蒸気が空気に供給されているのだ。

 熱帯地域で水蒸気をたくさん含んだ湿った空気に、さらに強い日差しも降り注ぐと、大気が不安定(第4回を見てみよう)になる。これは積乱雲が発達する好条件だ。

LSweb しかし、ただ積乱雲が発生しても、そう簡単には台風にならない。まず、熱帯地域特有空気の動きにより、一か所に集中的に発生する。そこでは、上空10kmまでの風が弱いことが重要だ。

 しっかりとした積乱雲の集団ができると、上昇気流が強くなり、周りから空気を集め反時計回りに回り始める。この渦がしっかりすると、熱帯低気圧の完成である。

 熱帯低気圧は引き続き広い海からたくさんの湿った空気を集め、どんどん発達する。そして中心の最大風速が17.2m/s(34ノット、風力8相当)になると「台風」と呼ばれる。

 気圧の低さは台風の基準ではないのだ。この段階になって初めて天気予報では「台風が発生しました」と報道される。
 ただ、先を読みたいライフセーバーは、この報道の前に台風を察知したいものだ。

台風の卵を見つけよう!

 第3回で天気図の話をしたが、実は天気図からはこの発生は読み取れない。台風の卵を見つけるには、気象衛星から撮影された雲の画像を使用するのが効果的だ。

 皆さんにも分かりやすいサイトの一つがこれだ。『高知大学気象情報頁』
 ここには、地球全体や熱帯域の雲の画像が見やすく、比較的リアルタイムで更新されている。

LSweb こうしてみると赤道域には、白く写る雲がたくさんある場所と、雲があまりない場所がある。

 実はこの雲が多いエリアは30~60日周期で地球を回っている。マッデン・ジュリアン振動と呼ばれており、インド洋で雲の集団が発生し、ゆっくりと西に進み太平洋に到達するように見える地球規模の現象だ。

 この雲集団の発生メカニズムは海水温の変化、水蒸気収束帯の南北移動等様々な影響によると言われており、今ホットな研究対象になっている。

 この雲の集団が日本の南や南東にあると怪しい傾向だ。そして、雲集団には白い雲が筆で擦ったように尾を引いているものと、そのような尾がなく輪郭がごつごつしているものがある。尾を引いている部分は、その方向に上空の風が吹いていることを表していて、それがない部分は上空まで風が弱い。

 赤道真上では台風は発生できないので、北緯5°より北で「輪郭がごつごつした雲集団」が見えたら、台風の卵である可能性が高い。

台風の行き先は誰が決める?

LSweb さて、頻繁に台風が接近・上陸する季節になったが、進路予報を見ると綺麗な右カーブを描いているもの、ころころと左(西)へ向かうもの、あるいはさまよっているものと、十人十色だ。この進み方は誰が決めているのか。

 黒幕は太平洋高気圧と、偏西風である。太平洋高気圧は日本の南東にあり、夏になると大きく膨らみ、晩秋にはなくなる。そして台風を寄せ付けない。

 偏西風は、日本の上空10kmくらいの飛行機が飛ぶ高度に吹く強い西風で、ぐにゃぐにゃ蛇行している。台風がこの風に乗ると一気に東に進み始める。

 この黒幕たち、夏の後半以降はかなりの気分屋になる。秋に残暑が厳しい時は、太平洋高気圧が大きく日本の上空まで膨らみ、偏西風は北海道よりも北を吹いている。

 しかし、8月も後半になると時々雨の日が現れ、さみしい気持ちになったことがあるだろう。この時、太平洋高気圧がしぼみ、偏西風が蛇行し一時的に南の方に移動している。

 太平洋高気圧が膨らんでいると、台風は発生しても赤道付近を西に進み続けるが、しぼんでいる時に台風が発生してしまうと、高気圧の縁を周るように北上し、日本付近に来てしまう。

LSweb そして偏西風が北寄りにあると、身を任せる風がないので台風は右へ左へとさまよい続け、偏西風が南下していると、台風は偏西風に身を委ね、東へと加速する。

 この組み合わせで台風の進路は決まる。これらの影響により、台風が沖縄方面に向かうと、太平洋側では西からのうねりが入り、西向きの海岸で特に波が上がる。そして、台風の風が反時計回りであることから、台風より東側の地域で、湿った風が南から入り続けることで、山沿いを中心に大雨になることがある。

 一方、日本に上陸せず、太平洋上を北上し東にそれた場合、東~南東からのうねりとなり、東向きの海岸で波が高くなる傾向になる。この場合、大雨にはなりにくいが、関東から東北地方太平洋側では、北~北東の風が吹き、季節外れの涼しさになることがある(南向きのビーチが波を楽しめる)。

なぜ詰め所が流される!?

LSweb 台風の接近に合わせ、詰所の前に土のうを積んだことがあるライフセーバーもいるだろう。もちろん、高波にさらわれないようにするためだが、干潮時刻にも水面がやたらと近かったのを見たことがないだろうか。実はこれ、風や雨に加えて、「高潮(たかしお)」が発生しているのだ。

 普段の監視活動の際、必ず朝イチで潮汐を確認するはずであるが、その潮汐は月や地球の位置関係から計算されたものだ。実際は、そう単純ではない。

 天気図には高気圧や低気圧の中心気圧が数字で記されている。だいたい1,000hPa(ヘクトパスカル)に近い数字が書かれている。気圧が低いのは空気が足りない証であった。もちろん、その時は周りから空気を補充するのだが、実はそれと同時に海水面も引っ張り上げている。

 1hPa下がると、約1cm海水面が上昇する。例えば950hPaの台風が直撃した場合、単純計算すると1000hPaの場合と比べて50cmも水位が上昇することになる。

 さらに風が強くなると、水は風に吹かれて風下に運ばれる。もし風下側に陸地があったら、寄せられた水はどんどん溜まってしまう。

 このように、気圧と風で大きく海面が上昇することで、普段は乾いているところでも波への対策が必要となるのだ。

 なお、高潮の発生が見込まれるとき、気象庁は高潮に関する情報を出す。高潮には、注意報、警報、特別警報の3段階があることも覚えておこう。

 また台風に関する情報は、気象庁のホームページでも公開されているので、興味がある人はぜひ一度は読んでみてほしい。

LSweb ただし、ここには「体験談」は一切書かれていない。そして、台風が来ると必ずといっていいほど、波にさらわれる人がいる。

 波の見た目の大きさが普段と同じでも、そのパワーは格段に違うことをライフセーバーは感じているはずだ。

台風が遠くにある段階から自分のビーチでのコンディションの変化をよく観察し、たまにしか海で遊ばない人たちにも海の変化を理解してもらえるよう努めたい。

 さてと……、今日は南の海の上に白い塊が育っていないだろうか。

※一部、現象を簡略化して説明しています。


    
 
[プロフィール]

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松永 祐(まつなが・ゆう)

九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC所属のライフセーバー。

大学4年時の2005年に気象予報士資格(第5292号)を取得。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)に勤める海のエキスパートであり、競技会を支える安全課のメンバーの一人でもある。


 
    








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