ライフセーバーにとって、明日の天気は常に気になるものだ。
夏季のパトロール期間中はもちろんだが、普段の日だって快晴で良い波が立っていると聞けば、授業中だろうが、仕事中だろうが、ソワソワしてしまう。
この状態は明日まで続いてくれるのだろうか?
こっそりスマホのアプリを起動しチェックした経験、アナタにもあるのではないだろうか。
ライフセービングと天気予報は切っても切れない関係なのである。
そこで、ライフセーバーであり気象予報士でもある九十九里LSC所属の松永 祐さんから、ライフセーバーならぜひとも知っておきたい、気象に関する基礎知識を解説してもらおう。
ライフセービング活動に役立つ情報満載!である。(LSweb編集室)
文・写真=松永 祐(九十九里LSC/
サーフ90鎌倉LSC)
君も“ローカル”になろう!
「IRBは空を飛べるかね?」
競技会が近づくと、随所からこのような趣旨のメッセージが私のところに届く。
この暗号のようなメッセージを送ってくるのは、一部の競技会主催者であるが、海を相手にするライフセービング活動に関わっていれば、競技会だけでなく、監視活動、練習等で、当日のコンディションがどうなるか知りたいと思うのは皆同じのはずだ。
天気予報は気象予報士が難しい計算をして天気図を作り、発信していると思うかもしれないが、そのような“難しいところ”を抜きにしても、いくつかのツボを押さえれば、だれでもある程度は予測できるようになるのだ。
今回から数回にわたってみんなで予測できるようにしてみよう。
天気予報の仕組み
そもそも、毎日見る天気予報はどのようにしてできているのだろうか。
コンピューターがない時代は、「観望天気」といって空や生物の動きの変化を見て、明日は晴れるのか、雨が降るのかを予想していた。
「月に暈(かさ)がかかると雨か曇り」といった言い伝えなど、いくつか聞いたことがあるだろう。
コンピューターが発達し始めると、気温や湿度といった空気の状態を数値化し、その動きを計算すること(シミュレーション)により、将来の予測をするようになった。
ただ、最初の頃は今より断然コンピューターの性能が悪かったので、数百km単位の予測しかできなかったようだ。
イメージとしては、東京の気温と大阪の気温の予想はできるけれども、その間の名古屋や静岡や横浜の気温はわからない、といった粗っぽさだ。
近年では「スーパーコンピューター」という、個人のパソコンとは比べ物にならないほど大量の計算をするコンピューターが発達し、沢山の計算をすることによってどんどん細かい情報を出せるようになった。
皆さんがよく気にする「明日の天気」の予報は、気象庁のスーパーコンピューターが5km毎の空気の状態(温度、湿度、風向、風速はどうなっているか)をシミュレーションし、その結果描かれた天気図を基に発表されているのだ。
5km毎の状態がわかると、例えば東京駅と羽田空港のコンディションの違いはしっかりと把握できる(実際に大きく異なる)。
さらに、今年の7月11日からは、気象衛星も新しいものに切り替わり、天気予報でよく見る雲の画像が2km毎の解像度になるなど、より正確な天気予報ができるように、さまざまな取組が進められている。
ただ、「5km」や「2km」と聞いて、ライフセーバーの皆さんは違和感がないだろうか。
天気図と海水浴場のギャップ
多くの気象予報士は、このようにしてできた天気図や気象衛星の画像等を基に、明日や明後日の天気を予想する。もちろん、皆さんが目にする天気図以外にも、空高いところの天気図といった専門的な天気図も参考にしている。
その結果が、テレビの天気予報番組であり、スマホで見る天気予報コンテンツとなるわけだ。
ところで、その天気予報に皆さんが監視や練習をする海水浴場ごと、あるいは競技会会場といったピンポイントの情報はあるだろうか。
実は今の気象庁のスーパーコンピューターでは、そこまで細かいシミュレーションはできないのだ。
一方、ライフセーバーの活動範囲はどうだろうか。
競技会であれば、幅75m程度、沖へ膝の深さから最大316m。海水浴場も横幅1kmもないところが多いのではないだろうか。
ライフセーバーの皆さんはその規模のエリアの中で、毎日の波や風、陽射しや気温の変化に臨機応変に対応していかなければならないのだ。気象庁が発表する天気予報と、ライフセーバーの活動範囲はスケールがまったく違うといっていいのだ。
じゃあ誰が海水浴場の予報をする?
ここまで読めばお気づきかもしれないが、海水浴場に適した予報ができるのは、毎日海を見ているライフセーバーの皆さんしかいないのだ。
いくら気象学の知識がある気象予報士がいたとしても、現場の風景(地理や地形)を知らない人には、ビーチの管理に必要な現場レベルの予報はできない。裏山への風の微妙な当たり具合で風向が変化したり、波打ち際の地形によって波の崩れ方が変わったりするのだから。
むしろ、ライフセーバーの皆さんには「天気予報」ではなく「風景予報」ができるようになってほしい。
晴れ、曇り、波がある、程度ではなく、陽射しで砂浜はまぶしいのか、海面がどの程度ザワついていて、人が入ったらどの程度流されて、エリアフラッグがどの程度風になびいていて……といった具合に。
できれば、数時間後のものではなく、明日・明後日の風景を。そうすれば、さらに状況を先読みして、状況の変化に対応できるはずである。このような現場レベルの予報はオフィスにいる気象予報士ではまずできない。
だから天気においても、広範囲の予報から現場レベルの予報へと、気象予報士からライフセーバーへの「予報のリレー」ができたらいいなと思っている。これを読んだあなたにはぜひ、このリレーに加わってほしい。
みなさんが夏に活動をする海水浴場の近くには、波に詳しい通称“ローカル”という人たちや地元の漁師さんがいるだろう。やたらとイイ波を当てるこの人たちは、このリレーが自分でできているのだ。
では、どのようにして自分の海水浴場の予報をすればよいのだろうか。次回から、そのポイントを順番にご説明しよう。
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[プロフィール]
松永 祐(まつなが・ゆう)
九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC所属のライフセーバー。
大学4年時の2005年に気象予報士資格(第5292号)を取得。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)に勤める海のスペシャリストであり、競技会を支える安全課のメンバーの一人でもある。
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