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ライフセーバーのための気象予報講座⑧ 低気圧との付き合い方2016/02/06

Weather Information for Lifesavers

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鬼は〜外、福は〜内! 2月3日は節分の日、そして節分の翌日は、二十四節気の立春。暦の上ではもう春だ。

しかし、寒さの本番はこれから。低気圧もどんどんやってくる。それに伴ってイイ波も立つ。

というわけで、LS気象予報士の松永 祐さんに、低気圧と波の関係を教えてもらおう。

これが分かれば、海練も楽しくなるぞ!(LSweb編集室)

文・写真=松永 祐(九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC)





海から遠ざかっている人、必読!

 ああ寒い。暖冬とはいえ、やはり寒い。冷たい北風が強く吹いたり、雪が降ったりすれば、やはり海から遠ざかる人が多い。

 しかし、そんな真冬の海を楽しくしてくれるのが、低気圧だ。冬こそ低気圧の動きを把握して、イイ波を当てにいこう!

低気圧は八方美人

低気圧a さて、低気圧である。低気圧については、連載の3回目で登場済みだ。

 たしか、風が吹き込むときに右に曲げられて(ブイ周りの向きと同じ)、反時計回りになっているやつだ。しかし、イイ波を当てるにはもう少し細かい特徴を知っておく必要がある。

 ライフセーバー特有の見どころを紹介する前に、一度基本的な構造をしっかり見てみよう。

 低気圧は場所によって大きくコンディションが異なるうえ、その時々に応じて様々な表情を見せる。低気圧と上手く付き合うためには、自分の立ち位置や距離感を上手く把握することが重要である。

 第2~4回の内容も思い出しながら、一緒に付き合い方を考えてみよう。

冷静と情熱のあいだ

低気圧周りの熱輸送4 低気圧の役割は、空気を持ち上げて雲を作っているだけではない。もう1つ、地球規模の大きな役割を担っているのだ。それは暖まりすぎた南の空気を北に運び、冷え過ぎた空気を南に運び、地球全体の気温を一様にするものだ(低気圧は頑張っているが、極地は常に寒い)。

 今回お話しする「温帯低気圧」は、暖かい空気と冷たい空気の境目にできる低気圧だ。このように地球規模の熱を移動させる役割があるため、実は夏に発生する台風よりも大きさはずっと大きい。つまり、波を作る力も非常に大きいのだ。

 低気圧はそんな仕事を仰せつかっていることもあり、熱い空気と冷たい空気の間の「温帯地域」で発生する。日本列島があるのも温帯地域だ。

 だから「冬型の気圧配置」として冷たい空気を日本列島に連れてくるのも、低気圧の仕業だ。特に冬はこの気温の差が大きくなるため、次々と低気圧が発生する。さらに、冬の日本は世界的に見ても低気圧が発生しやすい地域なのだ。

LSweb 次に低気圧の内部を見ていこう。低気圧は反時計回りの空気の動きを使って、右側(東側)では南から暖かい空気を引っ張り込み、左側(西側)では北からの冷たい空気をため込んでいる。

 これらの空気は進みながら徐々に暖まったり、冷えたり、混じったりすることはない。この暖かい空気と冷たい空気の間には、明瞭な境目がある。これが「前線」だ。

 天気図で見てみよう。低気圧の右側で太い赤線に半円がくっついているのが「温暖前線」、左側で太い青線にトゲトゲがくっついているのが「寒冷前線」である。

 この時、活発に動く暖かい空気がある所ではモクモクとした雲が、低いところでじっとしている冷たい空気がある所ではシトシトとした雨が降る。それぞれの場所のコンディションはどうなっているのだろうか。

低気圧が見せるさまざまな表情

 低気圧の南側から反時計回りに、どのような表情があるか見てみよう。

LSweb まずは、「温暖前線」と「寒冷前線」の下側(南側)。ここは、南からの暖かい空気が吹き込んでくるエリアだ。ここに居ると、ジメジメとした空気が肌にまとわりつき、小さなモクモクとした雲が高速で飛んでいく。

 暖かい空気はフワフワ浮きながら吹くため、地面との抵抗が少なく、風が強くなる。加えて、低気圧の近くとはいえ、晴れ間が出ることが多い。風が強いということは、海面がざわつく。そう、風波ができるのだ。

 南風はこのまま北に進みたいが、行く手には冷たい空気が居座る。それをよけるかのように、暖かい空気は高いところへ上ろうとする(第2回を見てみよう!)。上昇気流だ。暖かい空気が上がり始めるところが温暖前線である。

 このため、温暖前線の右側(東側)では、雨。ここでは低気圧の進行方向に滞留した空気の上を、暖かい空気がゆるやかに上昇するため、地上では風が弱くシトシトとした雨が長時間降る。

 一方、低気圧の左側(西側)では、北から冷たい空気が流れ込んでくる。行く手を阻むのは、先ほど登場した南から来る暖かい空気だ。ただ、冷たい空気は低いところに居たい。そのため、暖かい空気の下にもぐりこんでくる。この先端が寒冷前線だ。

 どかされた暖かい空気は、イッキに冷たい空気の上に移動する。すると、強い上昇気流により積乱雲ができる。夕立同様の注意が必要だ。ただし、この積乱雲、夕立とは異なり移動方向がはっきりしているため動きは読みやすい。冷たい空気のエリアは、上昇気流が起きないため、カラッとした晴れになることが多い(冬の日本海側を除く)。LSweb

渦を巻いているようには見えない!
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 このように、低気圧の右(東)側と左(西)側では大きく状況が異なるのだ。

 それでは、今度は気象衛星からの画像を見てみよう。台風はわかりやすい渦だったのに、温帯低気圧はどうだろうか。

 右の方が丸く膨らんでいて、左の方は細い雲が右下へと続く……オタマジャクシみたいな形をしている。

 オタマジャクシの下側の雲がなエリアは、南風が吹き、晴れてジメジメ、ムシムシしている。このエリアの右端が温暖前線、左端が寒冷前線だ。


波はどこでできる?

 波のでき方は、ライフセービング教本にしっかりと書かれていて、ベーシックライフセーバーの資格を取得する際に習っているはずだ。なので、もう一度教本を読んでみよう。教本の内容と低気圧の構造を合体させると、低気圧の周りでどのような波がどの方向に広がるのかが見えてくる。

 低気圧の周りで風が強い所は、等圧線の間隔が狭いところだ。等圧線の間隔が同じであれば、南寄りの暖かい風が吹くところも比較的波が立つ。さらに、低気圧の大きさ等により、風の吹く距離が長ければ、発生した風波が大きくなり、巨大なまとまったうねりとなる。

DSCF5653a ということは、うねりは低気圧の中心から放射状に出ていくわけではなく、放射状からやや風下側に曲がった方向に出ていくのだ。微妙なズレではあるが、特定のうねりにしか反応しないポイントにとっては、ビーチのコンディションに大きな違いを与えることになる。

 ここまでは理解できただろうか? 今回は教科書みたいで面倒だなぁ、と思ったかもしれないが、ここを把握しなければ自分のビーチのコンディションを予測することは不可能だ。
 低気圧の基本的な構造を理解したうえで、次回は関東を例に低気圧と波との関係を見ることにしよう。


※典型的な例を基に、現象を簡略化して解説しています。少しの気圧配置等の違いでコンディションが異なる可能性もあるので、海に入る際やメンバーを指導する際はご注意ください。


    
 
[プロフィール]

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松永 祐(まつなが・ゆう)

九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC所属のライフセーバー。

大学4年時の2005年に気象予報士資格(第5292号)を取得。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)に勤める海のエキスパートであり、競技会を支える安全課のメンバーの一人でもある。


 
    








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