学生ライフセーバーも一斉に海へと向かう8月。
それにしても、今年の夏は先に発表された
「それほど暑くならない」という長期予報とは裏腹に
全国的な猛暑、酷暑に見舞われている。
なんでこんなに暑いの!?
という疑問の答えは、実は天気図の中にある。
ライフセーバーであり気象予報士でもある
九十九里LSC所属の松永 祐さんによる好評連載
「ライフセーバーのための気象予報講座」
3回目は天気図の見方について解説してもらおう。(LSweb編集室)
文・写真=松永 祐(九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC)
雲
久しぶりにこの記事を読んだ皆さん、また空を見てみよう。今日はどんな空の色で、どんな雲が浮いているだろうか。
前回の記事で、
・雲は空気を冷やせばできる
・空気を冷やすには、その空気を寒いところに持っていくか、空高く持ち上げればよい
ということがわかった。
では、いつ、どこでこのような空気の動きが発生し、雲を作るのだろうか。
遠く思いをはせる地の空はどのようになっているだろうか。そこで「天気図」の出番である。
さすがに皆さんどこかで見たことがあるだろう。そう、あのぐるぐるした線がたくさん書かれている地図だ。
今回はそこに描かれる主要な役者たちを紹介しよう。この役者たちが、空気を縦に、横に移動させ、雲を作ったり消したりするのだ。
実はこれ、サーフライフセービング教本にも記述があり、講習会で習っているはず……なのはここだけの話しだ。
気圧って何だ?
また難しいところから……と思うかもしれないが、海水浴場のコンディションを大きく左右する風と切っても切れない関係なのが、この「気圧」である。省略しないで言うと「空気の圧力」となる。
標高が低い低地では、人差し指の爪の上(1㎠あたり)に1kgの重りが乗っているのと同じ「1気圧」という大きさの気圧がかかっている。
しかし、皆さんは普段、この圧力を感じることはないだろう。生物はこの圧力に適応して数億年間にもわたりゆっくりと進化してきたからだ。
水の中に入ると、もっとよくわかる。深く潜れば潜るほど、耳がキーンとして肺が押される。これは体の上に乗っている水が増えることで体が押さえつけられているのだ。これが、水圧である。上にたくさん水があって、押される力が強いほど、「水圧が高い」ということになる。
このイメージのまま、海底を地面、水面を宇宙に置き換えたものが、今私たちが生活している空間である。
天気図に書いてあること
「天気図」といっても、晴れとか雨とか書いてないじゃないか! と思う人が多いかもしれない。確かに天気図には、どこが晴れるか、どこで雨が降るかなんていうことは一切書いていない。
その代わり、「高」とか「低」とか、線とか数字が地図に書き込まれている。天気の図とはいえども、ここには気圧の分布しか書いていないのだ。
そして皆さんがよく見るこの天気図は、地上(標高ゼロメートル)のものである。たったこれだけの情報をもとに、皆さんは晴れとか雨とかの天気を推測していかなければならない。
つまり、天気図とは“天気を推測する図”とするのがより正確な言い方なのだ。
やっぱり難しいよーと思っても、諦めるのはまだ早い! 連載の2回目とこの図を合体させると、天気図の中に晴れマークや雨マークが描けてくる。
天気図の2トップ・高気圧と低気圧
高気圧と低気圧。この言葉を聞いたことのない人はいないと思う。
高気圧とは、周囲に比べて地上で気圧が高い部分である。さきほどの水圧と同じように、周囲よりも上からぎゅっと空気が押し込まれているのだ。さしずめ朝の満員電車のように。
こんなに混んでいるところには居られないよ! と思ったあなたはどうするだろうか。地面を掘って逃げるわけにもいかず、空高く舞うこともせず、ドアが開いたら横方向に動きホームに降りるだろう。
詰め込まれた空気も一緒で、横方向に移動する。電車は人が降りたら空いてしまうが、空気はまだ空高くにたくさんあるため、減った分は上から空気が補充される。そうするとまたギュッと詰め込まれて、あふれた空気が横に広がっていく……この繰り返しが高気圧である。
空気は縦にも横にも動く。連載2回目のおさらいによれば、確か、地上のほうが上空より気温が暖かかったはずだ。空の高いところから降りてきた空気は、地上付近で暖まるため、雲はできない。つまり、高気圧があるところには晴れマークが描けるのだ。
低気圧はどうだろうか。高気圧の逆で気圧が低い、つまり空気が少ないところである。少ないから補充しないと! ということで、周囲の空気が低気圧に呼び寄せられる。ただ、少ないのは地上だけではなく、その上空でも不足している。呼び寄せられた空気は、上空の空気の補充にも使われる。その分、また地上に空気を補充して……という繰り返しだ。
地上の空気が空高くに上がっていくのだから、温度が冷えて雲ができる。つまり、天気が悪いのだ。正確には、低気圧は単なる空気が吸い込まれていくものではなく、場所によって気象状況は大きく異なる。この低気圧の細かな性格は、定期的に低気圧が来る秋に勉強することにしよう。
このようにして発生する高気圧から吹き出す空気や、低気圧に向かう空気のことを、皆さんは「風」として認識している。
では、いつどのようにして空気が足りなくなるのか? と思う人もいるかもしれない。実際は、地球レベルの熱収支から地形分布までいろいろな原因があり、それに誘発されるさまざまな空気の循環が存在する。それはまた機会があったら説明しよう。
風はまっすぐに進まない
さて、地上で高気圧から吹き出した風は、そのまま低気圧に向かうのだろうか。実は違う。
皆さんは湯船の栓を抜いたときに、排水口に渦ができるのを見たことがあるはずだ。まっすぐ進んで落ちればいいのに、と思うかもしれないが、ぐるぐると渦を巻いて排水口へ向かう。
これは地球が自転しているため、進路を右へ曲げる力が働いているように見え、渦になるといわれている(湯船の問題は、実際は様々な細かい現象が重なり、奥深い現象のようである)。
これと似たように、高気圧から吹き出された風はどんどん右に曲がり、結果的に高気圧の周りでは時計回りの回転をする。
低気圧に吹き込む風に対しても、まっすぐ吹き込みたいのに右に曲げられた結果、風は反時計回りの回転をする。高気圧も低気圧も、大きな渦巻きなのだ。
よくどっち回りだっけ? とあやふやになる人がいる。オーシャン競技のレースのブイを右に曲がるのと同じで、風も右に曲がると覚えておこう!
高気圧から吹き出して右に曲がれば時計回り、低気圧に吹き込もうとして右に回れば反時計回りになる。
ここで、天気図のもう1つの役者であるぐにゃぐにゃした線を見てみよう。
これは「等圧線」と呼ばれ、同じ気圧の部分を線で結んだものである。右に曲げられた風は、この線に沿って吹くと思ってよい。この線は風の向きも表しているのだ。そして、この線の間隔が近いほど、気圧の差、つまり空気の量の差が大きく、強い風が吹く。
日本付近では西から東へ
高気圧や低気圧は、どこから来てどこに向かうのだろうか。そのカギは「ジェット気流」と呼ばれる、飛行機が飛ぶ上空10kmくらいの高さに吹く強い西風だ。低気圧や高気圧はジェット気流に乗って日本上空にやって来る。
「夕焼けは(翌日)晴れ」というのは、日が沈む西側に高気圧により雲がないエリアが広がっていて、翌日はその高気圧が頭上に来ることを表している。
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今年も夏が来た。
皆さんライフセーバーの出番である。連日の猛暑で体力的に厳しい日々だが、今週末の天気はどうだろう? と心配になったら、天気図を見てみよう。
天気図が読めるようになれば、しばらく晴れが続くのか、雲が出て少しは過ごしやすくなるのかわかるはずだ。
次回はライフセーバーなら絶対に知っておきたい「雷」について解説しよう。
*一部、現象を簡略化して説明しています。
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[プロフィール]
松永 祐(まつなが・ゆう)
九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC所属のライフセーバー。
大学4年時の2005年に気象予報士資格(第5292号)を取得。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)に勤める海のエキスパートであり、競技会を支える安全課のメンバーの一人でもある。
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