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サーフトレーニング 初級編
ライフセーバーなら知っておきたい海練の心構え
2017/04/27

Surf Training for Beginners-〝play it safe〟

LSweb気候も良くなり、海での練習が楽しい季節になってきた。

しかし自然相手のトレーニングでは、暖かくなっても気の緩みは禁物だ。

そこで、安全に海で練習するために気をつけるべきことを、日本ライフセービング協会・サーフトレーニングクリニック委員会で活躍する、勝浦ライフセービングクラブの篠田智哉さんにアドバイスしていただいた。

新年度からこの世界に飛び込んできたニューカマーはもちろん、クラブを牽引する立場になった上級生ライフセーバーや、個人で海へ行く機会が増えた社会人ライフセーバーにも、ぜひ読んでほしい。(LSweb編集室)

文=篠田智哉(JLAサーフトレーニングクリニック委員会)・写真=LSweb編集室




はじめに

LSweb 海でスキルアップを図るにはリスク(危険)を伴います。そのため、安全にサーフトレーニングを行うためには、様々なことに注意しなければなりません。

 「サーフトレーニング初級編」では、海で安全に、そして効果的なスキルアップを図るための方法や準備について紹介していきます。

【トレーニング中における事故】

 過去に、ライフセーバーがサーフトレーニング中に死亡してしまった事故、公的救助機関にレスキューされた事故が数件発生しました。

 いずれも、熟練した人であれば回避したコンディションの中で起きた事故でした。

 では、どうすれば事故を防ぐことができたでしょうか。

 私たちライフセーバーは、水辺の安全教育やパトロール活動等を通じて、水辺の事故ゼロを目指して日々活動しています。そんな中、ライフセーバーが事故の当事者になることがあってはならないし、それよりも同じ志を持つ仲間がライフセービング活動中に事故にあってほしくないと強く思います。

【サーフトレーニングで重要なポイント】

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 安全にトレーニングをするために重要なのは「リスク管理」です。

 「リスク管理」とは、「危険」を明らかにし、それによる被害を推定して、リスクの許容を判断し、リスクの最小化を検討してリスクの最適化を図っていくプロセスのことです。

 つまり、状況を確認して危険な箇所を把握し、十分な安全対策を講じたうえで、的確な判断のもとにトレーニングをしていくことです。

「リスク管理」の具体的な方法

 ここでは、私が実際に行っているリスク管理について、1つの例として紹介します。

①気象海象予報を基にトレーニング内容を考える


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 天気予報や波予報は、今やインターネット上で簡単に閲覧することができます。

 例えば、明日の9時に○×海岸でトレーニングしようと計画とき、その時間のその場所の天気・気温・水温・風向・風力・波高・波の周期・うねりの方向…など、ピンポイントで予報を知ることができ、更に潮汐を加えれば、明日9時の○×海岸の状況を頭の中でイメージすることができます。

 海へ行く前にコンディションをイメージして、トレーニング内容を考えます。

 当然、予報を見た段階で風速15m/sなどであれば、海に行くこと自体を回避するべきでしょう。

 海まで何時間も掛けて行く人は、「せっかく来たんだから」といって少し無謀な行動をしてしまいませんか?

 事前に情報収集して明らかな中止条件に該当すれば、海に行く以外の選択ができるはずです。

②実際に海を見てコンディションを把握する


LSweb イメージしていた状況と実際に目で見て肌で感じた状況とを比較し、計画していたトレーニングメニューを実行できるのかを評価します。

 私の場合、普段トレーニングしている場所の特徴を熟知して、毎日このプロセスを繰り返しているので、予報を見てイメージしたコンディションと実際のコンディションに大きな違いはほとんどありません。

③トレーニングメニューの評価


 計画したトレーニングメニューが実行可能かどうか最終評価します。

 自分の技量とコンディションとを比較して安全に実施できるのか、更に必要な安全対策を考えます。ときには中止する判断も必要です。

LSweb 例えば、
・オフショアの強いコンディションであれば、あまり沖に行かないメニューにして浜の近くで行う。
・風も弱くフラットコンディションであればロングパドリング。
・比較的穏やかで波があればインアウト練習。

 といったように、コンディションに合わせたメニューを考え、さらにはよりスキルアップを図れるメニューを選択することが重要です。

 この他にも、視認性の良いウェアの着用、携帯電話の携行、ライフジャケットの着用など、ハード面での安全対策も必要です。

④実際に海に入って再評価する


LSweb 決定したメニュー通り実行できるのかを海に入って再評価します。

 少し沖に出ると思っていたより風が強かった、実際に入ってみたら思っていたより波が高くパワーも強かったなど、コンディションを再評価して続行するか、メニューを変更するか、または中止するかを判断します。

 また、トレーニング中も常に評価を繰り返します。決して自分の技量以上の行動はしないことが大切です。

 経験豊富なライフセーバーは、このようなプロセスを自然に行って海に入っています。いわば、あたりまえのことであり、最低限必要なことです。

 ある程度経験を積んでくると、後輩を連れて海に入ることもあるでしょう。グループ全体が安全にそして効果的にトレーニングするためにはどうすればよいか、責任を持ってトレーニングメニューを計画しましょう。

リスクを見つけよう

LSweb ここに掲載した写真を見て、リスクとなるものを考えてみましょう。

 この状況の中、1人でトレーニングをする場合、複数人でする場合、どのようなプログラムで、どのような安全対策を講じれば安全にトレーニングを実施することができるでしょうか。

 右の写真は見ての通り、写真の真ん中辺りにリップカレントが見分できます。奥には堤防、手前には岩場も見られます。他にも危険と思われる要素がいくつか考えられます。

 これらの危険な要素(リスク)を把握して、自分や実施するグループの力量を見極めてトレーニング内容を考える必要があります。

LSweb 左の写真を見てみましょう。このような状況の中、インアウト練習を集中して効果的かつ安全に実施することは可能でしょうか。

 トレーニングの効果はあまり期待できないと考えられます。
 さらに、周辺のサーファーとの接触や迷惑になることを考慮すれば、インアウト練習は実施すべきではありません。

 海や砂浜を利用する場合は、その土地のルールを守り、周囲の迷惑となる行為をしないように配慮することが大切です。

最後に

LSweb サーフトレーニングは、正確かつ迅速な状況把握、判断、対応が求められます。スキルアップを図るには、十分な知識を備え、豊富な経験を積む必要があり、経験を積むにはリスクを伴うものです。

 またこれらリスク管理の手法は、サーフトレーニングに限らず実際のパトロール活動でも同じです。海水浴場全体のリスクを管理するための知識や経験は、普段のトレーニングの中で培っていきましょう。

 JLAでは、これら「リスク管理」の手法について、また更に効率よく安全にスキルアップを図るトレーニング方法について、経験豊富な指導員たちが指導してくれる「サーフトレーニングクリニック」を実施しています。ぜひ、参加を検討してみてください。

    
 
篠田智哉(しのだともや) 勝浦LSC所属

LSweb2006年に国際武道大学に入学し、ライフセービング部に入部。
2009年にサーフライフセービング・BLSインストラクター資格を取得。現在はJLAアカデミー本部指導委員会サーフライフセービング分科会委員、溺水事故防止プロジェクト本部サーフトレーニングクリニッ委員会委員・パトロール能力向上委員会委員、スポーツ本部アスリート委員会副委員長を兼任。第10期ハイパフォーマンスチームにも選出されている。

競技経歴:
2008年全日本学生選手権 サーフスキーレース優勝
2011年全日本選手権 レスキューチューブレスキュー優勝
2012年全日本プール競技選手権 ラインスロー優勝
2013年全日本種目別選手権 サーフスキーレース優勝
2014年全日本プール競技選手権 100mマネキントウウィズフィン2位 100mマネキンキャリーウィズフィン3位
2016年全日本選手権 サーフスキーレース3位

今後の目標:
「JLAグランドデザイン2061」達成に向けて貢献していくこと。

 
    








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