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ライフセーバーのための気象予報講座⑥〝いざ、全日本本戦〟2015/10/09

Weather Information for Lifesavers

全日本直前!
当日の気象状況はどうなるだろうか?
波はあるのか? 風は強いのか? 暑いのか? 雨は降るのか?

選手たちはもちろん、大会関係者にとっても大いに感心のある当日の天気を、我らが気象予報士・松永 祐さんと一緒に予報していこう。(LSweb編集室)

文・写真=松永 祐(九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC)




全日本本戦の天気は!?

39th全日本本選2日目_016 さぁ、明日から始まる第41回全日本ライフセービング選手権大会本選。ライフセーバーの一年の区切りともいうべき大会を前に、SNS等からは選手たちの余念のない最終調整の状況と気持ちの高揚が聞こえてくる。

 それと同時に運営の最終確認、準備片付けやブイ張りの綿密な段取り(時々バタバタ感)も感じられる。あとは、当日、全力で安全に終わるのみだ!

 先週末からはすっかり秋が深まり、朝晩は海に入らなくてもひんやりとしてきた。ここまで毎日すっきりとした秋晴れなのに、大会一日目のお天気マークはなんと「くもり時々雨」。しかも関東だけ……。ガッカリだが仕方がない。

37th全日本安全課_016 では、どんな「くもり時々雨」なのだろうか。空にはどんな雲が広がる? 海面の波立ち具合は? じっとしていると寒い? スプリントは追い風? 向かい風?
 そんなことを頭に入れながら、できるだけ具体的な風景を思い描けるように事前にイメトレしたい。

 今まで5回にわたって天気予報のイントロを話してきた。細かい予想を立てるためには、まだ解説しないといけないことは多いが、これだけでも皆さんである程度の予報はできるようになったと思う。早速、「予報のリレー」を試し、お天気マークの裏側を見破ってみよう!

 そして当日残念ながら会場に行けない方々、同じように予想してみて遠くからでも臨場感を味わってみよう!


「予想天気図」を手に入れよう

2012全日本2日目_027-2
 この時間(原稿を書いているのは大会2日前)になると、いろいろなお天気サイトで大会当日までの「予想天気図」が出る。気象庁のスーパーコンピューターが気圧配置のシミュレーションをしてくれて、その結果を分かりやすく図にしてくれたものだ。

 ただ、ここで少し注意が必要。お天気サイトでは1週間分程度の天気図を並べて「週間天気図」として掲載しているものがある。これは少し先のことを知るためのシミュレーション方法が採用されていて、更新時間も異なり、これから皆さんと進める「予報のリレー」には不向きだ。

 そのため、「24時間予想図」や「48時間予想図」といった24・48時間後(一部72時間後まで掲載しているものもある)と“時間”レベルで指定された予想天気図を見つけよう。検索サイトで「24時間予想天気図」と検索すれば、間違えることはほとんどない。


「予想天気図」を解読しよう

気象庁発表の10月10日午前9時 予想天気図

気象庁発表の10月10日午前9時 予想天気図

 10月10日と11日の予想天気図を手に入れられただろうか。ついでに、昨日~今日の天気図も手に入れてみよう。すると、この4つが目立つはずだ。

①日本の東(右)の太平洋上の高気圧
②日本の西(左)に高気圧
③10日から11日にかけて、ロシアから北海道付近に進んでくる低気圧
④11日に日本の南にある前線
 日本付近は、その2つに挟まれているが特に目立ったマークはない。





気象協会発表の10月10日午前9時 予想天気図

気象協会発表の10月10日午前9時 予想天気図

気象協会発表10月11日午前9時の予想天気図

気象協会発表10月11日午前9時の予想天気図




 まず、お天気マークを検証してみよう。
 
 高気圧の間ということは、低気圧っぽいところだ。しかし、等圧線でぐるぐると囲まれた低気圧は描かれていない。そして、日本の南海上から日本付近にかけて等圧線が少ないが、その等圧線を注意深く風が吹く向きになぞると、①の高気圧と③の低気圧を周る風が関東付近で集まるようにも見える。風が集まると、たしか上昇気流により雲ができるのだった。とはいえ、風の集まり具合が弱いと、雨雲は大きく・強くは発達できない。
 
 ただ、この低気圧と風が集まるエリアはゆっくりと東に動き、日本から遠ざかっていくようにも見える。

 次に風。昨日~今日は台風の影響もあり東日本に3本の等圧線があった。北風が強かっただろう。3本分であれだけ強い風が吹くのだ。予想天気図では、周囲にほとんど等圧線がない。また、既に秋の冷たい空気があるため、朝晩は冷えそうだ。

 まだ連載では解説していないが、陸が冷えると陸風が吹くとベーシック講習会でも習っただろう。そんな風の動きも気になる。ただ、風についてはその地域の地形の影響を受けやすい所は注意が必要だ。

 肝心の波。波の起源は沖で吹く強い風だ。しかし、予想天気図では沖(特に神奈川の南)でも等圧線はあまり描かれていない。

 1枚の天気図から、このようなことを連想してみよう。少しはどのような「曇時々雨」なのかが見えてきたのではないか。時間があったら第5回の台風の時に紹介した衛星画像で雲があるエリアも見てみよう。


アメダス ~“体感”の観測装置~

アメダス 今までの連載で、天気予報の武器として天気図、気象衛星、雨雲レーダーというものを紹介してきた。これらの特徴は広い範囲の状況を一瞬にして把握できるという特徴がある。

 そこにもう1つ、新しい観測装置を紹介しよう。「アメダス」だ。正式には、Automated Meteorological Data Acquisition System(地域気象観測システム):AMeDASという。全国に約1300か所もあり、単純計算すると17km間隔で観測をしていることになる。
 このアメダスは24時間265日連続して、その場所の気象状況を観測し続けてくれている。現場に一番近い観測システムなのだ。このデータは天気図や気象衛星と皆さんの“体感”をつなぐ大きな武器になる。

 本選の会場から西へ約2.5km、辻堂海浜公園内の海から松林を越えて100mくらい内陸に入ったあたり。ここに会場最寄りのアメダスがある。松林を挟んでいるだけビーチより風が弱く気温が高いかもしれないが、おおよそ本選会場と類似の状況を観測している。



気象庁HP内にあるアメダス(辻堂)のデータ


“この前練習した時”のコンディションはどうだった?

37th全日本安全課_015

 春以降、もちろん皆さんは海で何度も練習をしているだろう。その時の気象条件はどうだっただろうか。

 走ったら意外と暑くて……とか、意外と風が強くて……と感じたことがあるかもしれない。その時の気温は? 湿度は? 風力は? 一度これらを調べてみよう。未来の本選の気象条件を体感した人はまだいない。そのため、アメダスの過去データも基にして、本選の体感を予想してみよう。



スキーゴール 例えば、先週の土曜~日曜日の片瀬西浜。朝晩は涼しいものの、日中は日差しがあり汗ばむほどの暖かさになった。ボードを漕いでいても暑い、ビーチも砂がやや暑くなるようなコンディションだっただろう。さて、その時の気象状況はどうだったか。最寄りの辻堂アメダスのデータを見てみよう。

 例えば土曜日の朝9時に練習をしていたら、辻堂アメダスでは南の風1.8m/s、22.5℃、晴れ。といった具合である。そこに日差しがしっかりと照った結果が、練習時の体感だ。

 ただ、辻堂アメダスには体感に重要な湿度の情報がない。ここは、予想天気図に戻って情報を得るしかない。当日の天気図から読むと、日本の真上から中国大陸にかけて高気圧がある。大陸とつながっている高気圧はカラッとした空気で湿度が低いのだ。そして、南の海上には等圧線がたくさん描かれているエリア(風が強いエリア)がない。そのため、波はほとんどなかった。

 しかし、今回の大会はさきほど天気図を基に想像したとおり。過去に想像に良く似たコンディションで練習したことはなかっただろうか。天気予報で予想気温は出ているので、今回照会したような方法で、さきほどイメージしたような天気の時に練習した記憶があれば、その日のコンディションのデータを見てみよう。その時よりも寒そうか、暖かそうかといったより具体的イメージの手助けになるはずだ。

39th全日本本選1日目_034 2日目の表彰式、果たして夕日は総合優勝チームを照らしてくれるだろうか。選手の皆さんのご検討をお祈りしたい!


    
 
[プロフィール]

LSweb
松永 祐(まつなが・ゆう)

九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC所属のライフセーバー。

大学4年時の2005年に気象予報士資格(第5292号)を取得。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)に勤める海のエキスパートであり、競技会を支える安全課のメンバーの一人でもある。


 
    















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