Andmore

-
LSweb
ライフセーバーのための気象予報講座⑦ “ゴジラ襲来?!?!”2015/12/04

Weather Information for Lifesavers

LSweb12月に入り、冷え込みもきつくなってきた今日この頃。

今年の冬もさぞ寒いのだろうなぁと思いきや、天気予報関連のニュースでは、今年は暖冬傾向との発言を多く耳にする。

その根拠となっているのが“エルニーニョ現象”というものであり、しかも今年はその現象が特に大きくて強いらしい。

一体、エルニーニョというのはどのようなものなのか? 

よい機会なので、LS気象予報士の松永 祐さんにしっかりと解説していただこう。 (LSweb編集室)

文・写真=松永 祐(九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC)





今年の冬は異常気象!?

 遂に今年も本格的な冬が来た。

 先週より各地から遅れていた初雪の便りが聞かれると、そろそろフルウエットの準備、さらにはブーツグローブも必要かも!と海錬の装備が悩ましくなる。

 そんな中、今年は異常気象になる!という情報も。鍛錬の場、冬の海錬。
 はたして練習環境に影響はあるのだろうか。

どこが“ゴジラ”なのか?

LSweb 「今年の“エルニーニョ”はすごいらしい。」「異常気象が起こる!」等とちょこちょこと聞いたことがあるかもしれない。

 早速「ゴジラエルニーニョ」と検索してみると、日本への影響や異常気象についての解説がたくさん出てくる。そもそも、何が“ゴジラ”なのか?

 この「ゴジラエルニーニョ」は専門用語ではなく、アメリカのメディアがつけたあだ名である。どうも大きくて強いものを「ゴジラ」と名付ける傾向があるようだ。
LSweb
 エルニーニョ現象は、太平洋赤道付近の南米沖の海面水温が普段より高くなり、その状態が1年程度続く現象のこと(詳細は、検索して調べてね)。

 海面水温の図を見ると、普段は日本の真南の太平洋の西(左)の海水温が高く、東(右)が低いのだが、エルニーニョの時は太平洋の東側で温度が上がる。

 3段の図は、上から通常の海面水温、今年11月の海面水温図、その差を表しているが、上の2段を比べると、エルニーニョの時は右側まで赤くなっている(海面水温が高い)ことが見えるだろう。

 エルニーニョ現象は数年に一度発生しているが、たいていは発生しても普段より海面水温が1℃程度上昇する程度。それが今回はなんと3℃程度も上昇しているというのだ。
 たった3℃でゴジラになるのか?と思うかもしれないのだが、海の小さい変化は気候に大きな影響を与えるのだ。


1℃の変化が世界を変える

 ベーシックの教科書に出ていた海風と陸風を思い出してほしい。

 たしか、海は暖まりにくく冷えにくい、というのが原因だっただろう。水を暖めるには、空気の約4倍のエネルギーが必要だ。つまり、3℃も海水温を上げるということは、空気にすると12℃分のエネルギーが追加でそこにあることになる。

LSweb 日本で12℃の差といったら、真冬と初夏の違いである(実際はそんなに単純ではない)。
 海水温が上がった海域では、これだけ多くの熱が海から空気に追加で伝えられている。すると、以前お話しした上昇気流が発生し(地表/海面付近が暖かい)環境が整い、背の高い積乱雲のような雲ができやすいことになる。
 しかも、海水温が上がった海域の面積は日本の陸地よりずっと広く、地球一周のうちの1/8にもおよぶ。

 このように、普段は雲が出来にくい場所で数千kmにわたって上昇気流が発生すると、上昇した空気は別の数千km離れた場所で下降したくなる。上昇気流の位置が普段とはズレたぶん、下降気流も普段の場所とはズレたところで強くなる。このズレが世界各地に伝わり、異常気象をもたらすという仕組みだ。

 遠隔地の海の影響が日本に及ぶという現象は、エルニーニョ以外にもいくつか知られている。
 これを「テレコネクション」と呼んでいるが、細かなメカニズムや影響の定量化が出来ていないものがあり、長期予報の精度向上はまだ難しいところなのだ。

複雑なテレコネクション

LSweb 気象庁の発表では、エルニーニョの影響も加味してか、暖冬傾向の予報をしている。

 強いエルニーニョ現象のせいで、エルニーニョの日本への影響ばかり取り立たされているが、最近の研究で他の地域の影響も受けている可能性が示唆されている。

 例えば、北欧バレンツ海の海氷減少に伴い日本付近への寒気が流れ込みやすくなったり、日本周辺の海面水温の変化が本州の気温に影響を与えていたり、黒潮流路の変化が本州太平洋側の天候に影響していたり…。
 普段練習している海もその時に感じる風も、世界中とつながっているのだ。

1日が暑いか寒いかは、別の話

LSweb さて、やはり冬の海錬の日は晴れた方が良い。ただし、「エルニーニョなのに今日の海錬は寒かったねー」は大きな間違いである。
 冬なのだから、もちろん寒い。

 海の変化は日々の天気のように毎日ころころ変わるものではなく、1カ月~数年規模のゆっくりとしたものだ。そのため、エルニーニョ現象の影響はひと冬かけてじわじわと現れてくる。

 エルニーニョ現象が発生すると、日本付近では夏は冷夏、冬は暖冬になる傾向があると言われている。

 特にこれからの冬、日本海側の積雪が少なく、太平洋側で曇り場合によっては雪の降る日が多くなる傾向だ。
 実際、今年と同じ規模のエルニーニョ現象が1997年夏ころに発生し、大冷夏で米が不足で輸入したこともあった(40歳くらいの人が大学生だった時)。また、2003年夏にもお盆が1週間毎日大雨ということもあった(33歳くらいの人が大学生だった時)。

 しかし、太平洋側で毎日曇るわけではないし、暖冬で毎日ぽかぽか、というわけではない。後で振り返った時に、例えば、なんとなく日本海側で積雪が増えない、そういえば毎日晴れるはずの太平洋側で曇っている日が多かったな、といった具合だ。その中で、日によっては暖かい日もあり寒い日もある。この日々の変化の原因を作るのは、以前天気図のコーナーでお話しした高気圧と低気圧だ。

日々の変化の原因は何だ?

LSweb この日々の変化をもたらすのは、「低気圧」である。「西高東低の冬型の気圧配置」、「木枯らし1号」、「日本海側で大雪」のように、冬将軍を日本に連れてくる。

 そして、台風が発生しないこの季節、いい波をもたらすのも、この低気圧。

 冬は日本付近で低気圧が良く発達する。しかし、エルニーニョ現象の影響で通常のコースとはややズレる可能性がある。

 次回はこの低気圧を徹底解剖してみよう!
 オフシーズン、波乗りも重要な練習だ。

LSweb

    
 
[プロフィール]

LSweb
松永 祐(まつなが・ゆう)

九十九里LSC/サーフ90鎌倉LSC所属のライフセーバー。

大学4年時の2005年に気象予報士資格(第5292号)を取得。
海洋研究開発機構(JAMSTEC)に勤める海のエキスパートであり、競技会を支える安全課のメンバーの一人でもある。


 
    








And more 記事タイトル 一覧

年別アーカイブ



-