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第26回 全日本ライフセービング種目別選手権大会 競技会レポート Vol.12013/06/04

The 26th Japan National Lifesaving Individual Championships Report Vol.1

LSweb

パトロールシーズン直前
遠州灘の洗礼を受けたライフセーバーたち


6月最初の週末、静岡県浜松市の舞阪海岸で「第26回全日本ライフセービング種目別選手権大会」が開催された。

各種目の予選が行われた大会初日は、波も大きく、さらに強い風と潮流というハードコンディション。実力が試される、今シーズン最初の海での全日本となった。

2013.6.1-2 静岡県浜松市・舞阪海岸


文・写真=LSweb編集室




実力の差がハッキリした
タフなコンディションでの予選


 LSweb大会会場となった舞阪海岸は、浜名湖と遠州灘をつなぐ今切口の東側に位置している。夕陽スポットとしても知られ、また広々とした砂浜からの投げ釣りや、コンスタントに吹く風を目当てに、ウインドサーファー、カイトサーファーが集まる場所でもある。
 
 一方、遠州灘(静岡県の御前崎から愛知県の伊良湖岬までの約110km)は昔から、海の難所として恐れられている海域だ。年間を通して波が荒く、特に冬は西からの強風で海が時化ることが多い。さらに強い離岸流が随所で発生するため、遠州灘に面した静岡県側の海岸は、夏でも全域、遊泳禁止となっている。
 
 つまり、風光明媚な舞阪海岸であっても、海水浴場は開設されないということなのだ。少しもったいない気もするが、清水海上保安部の発表によれば、平成13年から23年までの10年間、遠州灘を望む海岸での、マリンレジャーにともなう事故者数は130人、そのうち離岸流による事故者数は30人(死者6人)におよんでいる。

 LSwebそんな遠州灘の洗礼を受けることになったのが、26回目にして浜松市で初開催となった種目別選手権大会だ。大会初日は、10m/sオーバーの東〜北東の風と、東から西へ流れる強い潮流、そしてサンドバンクと割れる波というタフな状況の中、オーシャン種目の予選が次々とスタートした。

 第一の関門はインでの沖出し。クラフト種目の場合、ここで沈してしまうとカレントにつかまり、あっという間に西(沖に向かって右)へと流されてしまう。何度も沈した揚げ句、ブイまで到達できずにDNF(Did Not Finish=競技終了)となる選手も出るコンディションだった。
 沖出しに成功しても、スイムブイ手間で水深が浅くなり、潮の流れが再び速くなっている。右へ、右へと流される状況を修正しながらレースを進めていかなければならない第二の関門だ。
 
 そして最後の難関がアウトからビーチへのエントリー。ここでいかにクラフトをコントロールし、波に乗れるか、沈せずに戻ってこられるか。技量の差が出るポイントだろう。

 青木克浩HPTコーチによれば「上手い選手が勝つコンディション」ということになる。
 7月に日本代表としてワールドゲームスに出場予定の長竹康介(西浜SLSC)は、「久々に波にあるコンディションを楽しんでいます」と落ち着いた表情。消防学校で勉強中の西山 俊(湯河原LSC)は、「テクでごまかせるコンディションです」となんだか楽しそうだった。
 そうはいっても、ベテラン勢でも巻き添えを食らって沈をする場合があり、クラフトにダメージを受けた選手も複数いたようだ。
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 ただ、幸いにも大きなケガに繋がるクラッシュはなく、無事、2日間の日程を終えることができたのは、サーフスキーレースでドライフィニッシュ(陸上に設定されたゴールラインを切るフィニッシュ)を採用するなど、臨機応変に対応した競技運営スタッフ、ずぶ濡れになりさらに風に吹かれながらもジャッジをしたオフィシャル、そしてチューブ、ボード、IRB、PWCを総動員して海上を縦横無尽にカバーした安全課のスタッフのおかげだろう。
 こうした裏方の皆さんの堅実な働きに、改めて敬意を表したい。
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オフィシャルの皆さん

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安全課の皆さん


日大SLSC、三井結里花
難しいコンディションで三冠達成


 決勝レースが行われた大会2日目は、風も収まり、波もサイズダウン。東から西へのカレントも少し弱まった。そん中、オーシャン種目の最初の決勝がスタートした。

 49人が参加した女子サーフレース決勝。その中には4人の高校生の姿もあった。そして並みいる強豪を抑え表彰台に上ったのが高校3年生、3位の髙橋志穂(柏崎LSC)だ。
 小柄で幼さの残る髙橋は、昨日のオーシャンウーマン予選でスキーの沖出しに大苦戦。半ベソをかきならがも最後まで諦めなかった姿が印象的だったが、サーフレース決勝では、絶好調の三井結里花(日本大学SLSC)、元全日本チャンプの植松知奈津(湯河原LSC)といった実力者に続き、見事3位に。
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「いつも指導してくれる青木コーチに少し恩返しができました」
 とはにかみながら、健気なコメントを聞かせてくれた。
 髙橋はサーフスキーレースでも4位、オーシャンウーマンでも5位と、エントリーした種目すべてで入賞を果たす健闘ぶり。扱いの難しいサーフスキーを高校生時代から乗りこなす器用さと、最後まで諦めない粘り強さ、そして練習熱心な姿勢と、将来が楽しみな選手である。

 オーシャンウーマン/オーシャンマンレースはスキー→スイム→ボードの順番で行われた。
 オーシャンウーマンレース、最初のスキーでは篠 郁蘭(西浜SLSC)、名須川紗綾(茅ヶ崎SLSC)、久保美沙代(和田浦LSC)、三井の4人が先頭集団を形成。スイムに入るとすぐに三井が逆転に成功し、そのままリードを広げた。最後のボードで篠が猛追をかけるが、三井が危なげなく逃げ切りサーフレースに続き優勝。以下、篠、名須川が続いた。
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「郁蘭さん、ボードが速いのでドキドキしながらレースをしていました」
 と言う三井。
「スイムであそこまで開いちゃうと厳しいですね」
 と篠。就職、結婚でしばらく競技から遠ざかっていた彼女だが、元日本代表の実力は健在だった。

 その篠と名須川がデッドヒートを繰り広げたのが、サーフスキーレースだ。安全面への配慮からドライフィニッシュが採用されこのレース。波打ち際の攻防が勝敗を分けた。LSweb
 
 同じ波に乗り、浜へと向かってくる篠と名須川だったが、残りわずかのところで接触。2艇が沈している間に、すぐ後ろにつけていた三井が抜け出した。沈したスキーに行く手を阻まれ、前へと進めない篠と名須川を尻目に、インサイドから久保、アウトサイドから猪又美佳(茅ヶ崎SLSC)がやってきた。

「ハンドラーの誰かが、走れば表彰台だよ! と叫んでいたので、慌てて走りました」
 と話す3位の猪又は、
「スキーが沈しているのは見えましたけど、人はもうゴールしているものだと思っていましたから」
 と続けた。漁夫の利といえばそうかもしれないが、トップにしっかりとついていなければ上ることのなかった表彰台だ。運も実力のうちである。

 一方、久保は、2艇が波に巻かれていく瞬間を目にし、2位を確信したそうだ。昨年のこの大会、そして秋の全日本といずれも2位だった久保は苦笑しながら、
「う〜ん、だから続けているのかもしれません」
 とポツリ。キツイ練習に耐えられるのも、その悔しさがあるからという意味なのだろう。今のところは万年2位にながら、久保の存在感は確実に増している。継続は力なり。彼女のさらなる奮闘が楽しみだ。
 LSweb昨年、スキーとオーシャンウーマンの二冠を達成した名須川は、
「(アンラッキーも含め)これが今の実力です」
 と潔く負けを認めた。

 ここまで三冠の三井。オーシャン種目全制覇の期待がかかったボードレースでは、アウトでの混戦に巻き込まれ、表彰台を逃した。得意のボードレースで優勝したのは篠。
「なんとか1本とれました」
 と笑顔を見せた。名須川はここでも僅差の2位。3位には今年から西浜SLSCに移籍した上村真央が入った。
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 四冠達成を逃した三井だが、ボードレースは8位。2kmビーチランは7位、オーシャンウーマンリレーでは日大SLSCが3位と、エントリーしたすべての種目で入賞を果たした。
 大会2日目の午後は、次から次へと決勝レースが行われ休む間もない。それでも、
「学生最後なのでいろいろ挑戦してみようと、2kmビーチランも出ることにしました」
 と朗らかに話し、しっかり入賞してしまう三井には脱帽である。教育実習中で練習時間があまりとれないという彼女だが、どのレースが終わっても、
「楽しかったです」
 と疲れを感じさせず、話しを聞いたこちらまでが、なんだか元気な気分になった。楽しむこと、それが三井の強さの原動力なのであった。



=敬称略。競技会レポートVol.2に続く









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