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0.1秒を縮める努力が
ライフセーバーの本質を磨く
2017/05/24
The 30th Japan National Pool Lifesaving Championships Day.1
神奈川県横浜市・横浜国際プール 2017.5.20-21
第30回全日本ライフセービング・プール競技選手権大会
30回目の節目を迎えた全日本プール競技選手権が、5月20-21日の2日間、神奈川県横浜市の横浜国際プールで開催された。
47チーム541人の参加者が、男女それぞれ10種目でしのぎを削り、仮想の事故現場でライフセービング技術を競う採点競技のSERCに挑んだ。
見どころの多かった大会の様子を、まずは初日からお伝えしよう。
文・写真=LSweb編集室
タイムを狙うには理由がある
全日本プール競技選手権大会が行われた先週末は、ライフセーバーでなくとも海にでかけたくなる夏のような陽気に見舞われた。
会場となった室内プールは、白熱するレースとあいまって熱気ムンムン。そんな中で最初の決勝種目、200m障害物スイムが行われた。
この種目、女子は成澤侑花(日本大学SLSC)が追い上げる黒岩美緒(日本女子体育大学LSC)をかわし連覇達成。
男子は池端拓海(日大SLSC)が平野修也(辻堂LSC)を逆転し、2分00秒54の大会新記録での初優勝を果たした。
連覇した成澤だが、「目標タイムにまったく届きませんでした」とうつむき気味。「日本新を狙っているのに、周りを気にしているようではダメですね」と言葉を繋いだ。
一方の池端は「自己ベストを4秒近く縮めることができました」と笑顔を見せながら、「でも、踵がネットに3回ぐらい当たったので、それがなければ2分切れた……かな。僕もワールドゲームスに出たいので、その壁を越えたかったです」と続けた。
池端が口にしたワールドゲームスとは、4年に一度開催される“第二のオリンピック”と言われる国際スポーツ大会のことだ。五輪種目以外の競技に打ち込むアスリートたちが出場を夢見るスポーツの祭典は、今年7月にポーランドで開催される。
ライフセービング競技(プール種目のみ)も大会種目のひとつに含まれており、日本は昨年の世界大会でワールドゲームスへの出場権を獲得した。今大会はワールドゲームス代表の選考レースも兼ねている。トップ選手たちがいつも以上にタイムにこだわるのは、そんな理由があるからなのだ。
テクニックを磨いて記録を狙え
100mマネキントゥ・ウィズフィンで予想通りの強さを見せたのが、女子の我妻菜登(勝浦LSC)。
3連覇中の我妻は、自身が持つ日本記録に迫る1分03秒97で優勝し、この種目7勝目を上げた。
好タイムに正直、少しびっくりしたという我妻。
「練習が十分ではなかったし、後半に上げられる体力はなくなってきたと感じているので。でもその分、技術でカバーできるようになりました。
スタートからしばらく潜水するといったテクニックもその一つです。今日は15m、スタートから8フィンを目安に潜水しましたが、実際にはもう少し長く潜っていた気がします。世界標準は50m潜水ですから、それに近づけるように練習していきたいです」と話した。
男子は最終ヒートで、優勝候補筆頭の西山俊(湯河原LSC)が失格する波乱が起こった。
優勝は55秒54の上野凌(西浜SLSC)。2位には56秒60で篠田智哉(勝浦LSC)が入った。
「課題は入りのスピードと後半のスタミナですが、日本記録を狙える余地はあるなと感じました」と落ち着いた口調でレースを分析した上野。
ワールドゲームス行きを狙っているという篠田は、しばらく電光掲示板を見つめた後「う〜ん、日本新を出さないとダメですね」と首をひねった。
西山が失格したのは、マネキンにチューブを巻く動作中に規定エリアを越えてしまったからだ。
「50mの壁にタッチしてチューブを引き寄せた時、チューブ本体だけでなく紐も一緒に掴んでしまい、うまくたぐり寄せられずに冷静さを失ってしまいました。
前半の50mはできるだけ潜水するのが世界標準です。潜水する時にチューブの抵抗を減らすため、紐で体に密着させているのですが、その外しがうまくいかなかったというか、外した後にうまく離れてくれなかったというか……。練習でもごくたまに同じような状況になることがありましたが、まさか本番でなるとは」と西山。
思わぬハプニングに唇を噛んだ。
過去の自分を超えてゆけ
50mマネキンキャリーは男女とも、日本記録保持者が面目躍如の優勝を果たした。
女子は山本裕紀子(若狭和田LSC)が37秒43の大会新記録をマーク。2位は栗真千里(銚子LC)、3位には青木邦(湯河原LSC)が入った。
男子は平野修也(辻堂LSC)が31秒21で、2位の幡野圭祐(白浜LSC)、3位の大島圭介(湯河原LSC)を振り切った。
体調不良のため世界大会後に入院を余儀なくされた山本は、病院のベッドの上で「これで競技人生も終わった」と思ったのだそうだ。
「だから再びスタート台に立てた時は、もうほんまにいろいろな人への感謝の気持ちがわき上がってきて」涙が出そうになった……のではなく、「嬉しくてニヤニヤしてしまった」と話すとことが、なんとも山本らしい。
「久しぶりのレースでなるようにしかならんと開き直って泳いでいたら、なんだか調子が良くて。これはいける!と思ったらマネキンを揚げた途端に重さを感じてドタバタに。競技中にいけるなんて思ったらアカンのや、と反省しました」と軽妙な口調でライバルたちからも笑いとっていた。
平野は現在、さらなる高みを目指した肉体改造中だ。
「下半身の強化を重点的にやっています。足は確実に太くなって、キック力は上がっていると思いますが、上半身と下半身のバランスを再調整するのに少し手間取っていますね。
自己ベストを更新するためにいろいろ試行錯誤し、記録が出たら、また次ぎを目指して新しいことに挑戦し、試行錯誤する。その繰り返しです」と話す平野。
「でもワールドゲームスまでの2カ月で調整できる手応えは感じていますよ」と笑みを浮かべながら力強く答えてくれた。
トップ選手が0.1秒を争う一方、背面泳ぎで健闘するベテラン勢の姿も見受けられた。中島章(新島LSC)や本多辰也(東京消防庁LSC)らのマネキンキャリーは安定感抜群。優勝を狙えるタイムではなかったが、着実かつ迅速な泳ぎはライフセーバーとしての安心感を感じさせてくれた。
実力以上の力が出る!? リレー種目
大会初日に行われたリレー競技は、4×50m障害物リレーと、4×25mマネキンリレーの2種目。
予選を経て決勝へと駒を進めた8チームは、いずれも精鋭揃いでデッドヒートが予想された。
好タイムが飛び出したのは女子4×50m障害物リレーで、日本大学SLSCが2分の大台を切る、1分59秒58の大会新記録で優勝した。
2位は1年生が22人も入部したという、日本女子体育大学LSC。3位に入った銚子LSCのアンカー、栗真千里は「皆、すごく気合いが入っていますね。学生がパワフルでレベルが上がっていることに、少し焦っています」と目を見開いた。
男子は全員社会人の湯河原LSCが、西浜SLSC、銚子LCとのデッドヒートを制し1分43秒59で勝利を手にした。
1泳は社会人2年目の大島圭介、23歳。泳力は健在だ。2泳は、いつの間にかメンバー最年長のポジションに成長した、28歳の西山俊。3泳は消防士として勤務する三木翔平、27歳。アンカーは25歳の安藤秀。「今日のテーマは、社会人で学生パワーを封じ込めることです(笑)」と西山が言うと、4人が笑顔で顔を見合わせた。
4×25mマネキンリレーは、男女ともに1位が西浜SLSC、2位が湯河原LSC、3位が銚子LCという顔ぶれに。
女子の西浜SLSCは小林愛菜、坂本佳凪子、上野真凛と繋ぎ内堀夏怜へ。
高校生、17歳の内堀は「予選も含めて今日6本目だったのできつかったですけど、足がもげてもいいからと思って泳いだら逆転優勝できて、ちょー嬉しい!」と、1分33秒41での勝利に歓喜。
1泳の小林愛菜も「24歳の社会人にして、初めて優勝を味わいました!」とメンバーと抱き合い、声を弾ませた。
僅かにとどかなかった湯河原LSCだが、こちらも高校生、16歳の室伏郁花が力泳を見せた。一廻り違いの青木邦は「惜しかったですね。でも皆、がんばりましたよ」とチームメイトをねぎらった。
男子は西浜SLSCと湯河原LSCのライバル対決が見ものだった。西浜SLSCの1泳は坂本陸。湯河原LSCの1泳は大島圭介。同い年の2人は、学生最後のインカレで50mマネキンキャリー同着優勝という歴史を作った永遠のライバルだ。
坂本、園田俊、上野凌、廣田諒と繋いだ西浜SLSCのタイムは1分13秒72。湯河原は1分14秒40で優勝には届かなかった。
初日からハイレベルな戦いが繰り広げられたプール競技選手権。熱戦は2日目へと続く。(文中敬称略)
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