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第27回全日本ライフセービング・プール競技選手権大会 競技会レポート 総集編
2014/05/26
The 27th Japan National Pool Lifesaving Championships
日本新8、大会新5
記録ラッシュの影にルール改正あり!?
27回目を迎えた全日本ライフセービング・プール競技選手権大会では、男女合わせて13個の日本新記録、大会新記録が打ち立てられた。
これまでの記録を一気に数秒縮める種目もあり、会場が大きなどよめきと歓声に包まれたことは記憶に新しい。
記録をもとに、大会を振り返ってみよう。
文・写真=LSweb編集室
水没マネキンの定義変更
記録ラッシュとなった今大会だが、その背景には国際ライフセービング連盟(ILS)のルール改正に伴い、JLA主催の大会でもマネキントウおよびマネキンキャリーのルールが大きく変更された、という事実がある。
すでに競技規則2014版が発表されているので、選手や関係者は周知のことと思うが、これまで適用されていた「マネキンの口や鼻が常に水面上に保持されていなければならない」という規則が今大会から適用されなくなり、代わりに「水面を運ばなければならない」という文章に置き換えられた。
簡単に言うと、マネキンの顔に水がかかってもよくなった、ということだ。
「失格を減らし、競技者のパフォーマンスを向上させ、競技者や審判員に対して規則を明確にするため」に変更されたルールだが、根本には水没したマネキンは「意識なし・呼吸なし」の状態であり、一刻も早く陸上に運び手当てをすべきであるという考えがあることを忘れてはいけない。
だからマネキンを運ぶ時、引っ張る時に、マネキンの顔面が必ずしも水面と水平でなくてもよくなったが、マネキンの顔が下を向いたり、マネキンの顔が水平から90度以上傾いた場合は失格の対象となる。また、口や鼻をふさいだり、首を押したりといった手技も認められていない。
プール競技はマネキン使用率が高いが、それでも今大会で更新された13個の記録のうち、11個がマネキン種目だったことは、ルール改正と無関係ではないだろう。
例えば、4人が25mずつマネキンキャリーを引き継ぐ、4×25mマネキンリレーでは、男女ともに1〜3位までがこれまでの大会記録を上回る好タイムを記録した。
この種目でアベック優勝したのが、東海大学湘南校舎LSCだ。女子は2月に開催された全日本学生ライフセービング・プール競技選手権大会(プールインカレ)に続いての勝利。メンバーの入れ替わりがあっても、2位に2秒近い差をつける強さを見せた。
一方、男子は九十九里LSCや湯河原LSCという強豪を抑えての1位。リレーメンバーを引っ張った古泉俊二郎選手は、「主将の(井上)祐介さんが故障のため出場できなかったのでプレッシャーはありましたが、皆でがんばりました!」と、先に優勝を決めた女子と喜びを分かち合った。
男子100mレスキューメドレーで日本記録を樹立したのが、湯河原LSCの安藤 秀選手。ライフセービング界ではニューフェースだが、順天堂大学の水泳部で活躍した実力者だ。ルール改正により、泳力が存分に活かせた結果の優勝だった。
フィンスイムの習得がカギ
記録ラッシュの背景には、もう一つのキーワードがある。それが「フィンスイム」だ。
100mマネキンキャリー・ウィズフィンと、100mマネキントウ・ウィズフィンの2種目で日本新を記録したのが、女子の水間菜登選手と男子の西山 俊選手だ。もともとこの種目に強かった2人だが、それぞれが自身の持つ記録を大幅に塗り替えて優勝した。
JLAのハイパフォーマンスチーム(HPT)に所属する2人は、HPTでフィンスイムの講習を受け、泳ぎのコツを掴んだと異口同音に話す。
「これまでは足だけでキックしていましたが、上半身も使ってフィンに推進力を伝えていくという泳ぎ方を教えてもらい、ようやくフィンスイムのコツが分かってきました」
と水間選手。
社会人としてのリズムも掴め、練習環境も整ったことで、体力的にも技術的にも一段上のレベルに達したようだ。大会初日に、
「今朝、起きた時に、ああ調子が良いなと感じました」
と口にした彼女は翌日も絶好調で、100mマネキンキャリー・ウィズフィンで1分を切る記録を打ち立てた。
女子100mマネキンキャリー・ウィズフィンでは、最終組のひとつ前で泳いだ若狭和田LSCの山本裕紀子選手が、その時点で大会記録を更新する力泳を見せた。その後、水間選手が日本記録を更新したわけだが、練習プールからその様子を見つめていた山本選手は、
「すごい!」
と拍手を送った後、
「(社会人になってからライフセービングを始め、日本代表として活躍した)館山SLSCの毛利 邦選手を目指していますが、まだまだがんばらなあかんということですね。いやぁ〜シンドイ人生が続きますわぁ」
と朗らかに笑った。
練習環境や最新情報の入手など、関東勢に有利な状況が多い中、山本選手をはじめ、地方でコツコツとがんばるライフセーバーにエールを贈りたい。
男子の西山選手は、フィンスイム競技会などで主流になりつつある「ロケット」ブランドのフィンを手に入れ大会に臨んだ。
「このフィンの威力は大きいと思います。ただ、じゃじゃ馬というかクセのあるフィンなので使いこなすには練習が必要です。本当はもっともっと泳いで感覚を身につけたかったのですが、なかなか練習時間を確保することができませんでした。練習次第でもっとタイムを上げる自信はあります」
と西山選手。それでも、2日目の100mマネキンキャリー・ウィズフィンでは50秒の壁を破る快挙を成し遂げた。
「時計、途中で止まりませんでしたよね?」
と、レース直後は興奮した様子だった西山選手だが、
「世界だってもっと速くなっているはずです。だからもっと練習しなければ」
と、すぐに気を引き締めたのだった。
「マネキンをピックアップした時には、すでに(西山)俊さんのフィンが目の前にあって、これはマズイと焦りました」
と話すのは、2位に入った新島LSCの園田 俊選手だ。
「でも自分も調子は悪くなかったので、とにかく最後まで諦めないでやるしかないと泳ぎました。その結果が2位に結びついたと思います」
布製のコンペティションキャップを被り、道具だけじゃない、という心意気を見せた園田選手だった。
総合優勝は日本体育大学LSC
今大会では、この他にも男子200m障害物スイムで東京消防庁LSCの平野修也選手が2分02秒17、男子200mスーパーライフセーバーで早稲田大学LSCの榊原 司選手が2分18秒94と、それぞれ日本記録を更新した。大学2年生の榊原選手は、200m障害物スイムでも3位に入賞。今後の活躍が大いに楽しみな若手の登場となった。
また男子4×50mメドレーリレーでは、湯河原LSCが1分33秒23の日本新で優勝した。
女子は、200mスーパーライフセーバーで、九十九里LSCの三井結里花選手が2分37秒70で大会新記録をマーク。4×50mメドレーリレーでは日本体育大学LSCが1分51秒35、ラインスローでは勝浦LSCが14秒56で、それぞれ大会記録を更新した。
世界記録にはまだまだ届かないものの、男女ともに世界との距離を確実に縮めていることが証明された今大会だった。
そしてこの大会にオフィシャルとして参加したのが、韓国ライフセービング協会の6人のメンバーだ。
昨年11月、JLAから泉田昌美さん、青木克浩さん、坂本 陸さんの3人が韓国を訪れ、ルール講習、オフィシャル講習を行ったことがきっかけとなり、今回の来日が実現。泳法ジャッジ、マネキン設営、召集員として大会運営に携わった。
「講習を受けてある程度は理解したつもりでしたが、今回、実際に大会を見て、オフィシャルを経験したことで大きな収穫を得ました。我々は水泳出身なので、プールの大会は運営した実績がありますが、ライフセービング競技会は使用する機材も多いので、そのあたりの段取りが少し難しいと感じましたね。
これからは自分たちでも大会を主催し、実践を積みながら経験値を上げていきたいと思います。これからもどうぞよろしくお願いします」
6人を代表して、パク・ミュン・ウォン(Park Myung Won)さんはこう話し、日本を後にした。
第27回全日本ライフセービング・プール競技選手権大会は、91ポイントで日本体育大学LSCが優勝。昨年に続き、連覇を達成した。
「今年度から指導体制が変わりましたが、新しい監督、コーチのもとで一致団結し、結果を出すことができました。練習環境が変わったことで、改めてライフセービングに集中できることに感謝する気持ちが持てました。
勝因は……、日体は人数が多いのでレースに出られない選手もいるのですが、全員が自己ベストを出す! という気持ちで戦うことができた結果だと思います。そしてただ勝つだけでなく、感謝の気持ちをきちんと態度で表すことも心がけました。ありがとうございました!」
と、吉岡才智主将。
「新1年生27人、全体では100人を越す大所帯ということもあり、『日体、怖い』とほかのクラブから言われてしまうこともあります。でも人数が多いからこそ、もっと自分たちで練習していかなければいけないと感じ、新しい応援歌も作りました。練習の後に、応援練習も毎回行っていたんですよ。
日体の強さは、男女ともにコンスタントに入賞する力を持っていることだと思います。今回の優勝は、レースに出る選手も、応援する仲間も、それぞれが力を発揮した結果なので嬉しいです」
江部愛里菜副将は、優勝カップを抱えながらこう話したくれた。
2位と3位は67ポイントと同点ながら、上位入賞種目の数で2位は団体での活躍が目立った東海大学湘南校舎LSC、3位はSERCで銅メダルを手にした日本大学SLSCとなった。
「仲良く同点でした。次はきっちり勝負をつけたいですね」
と東海大の井上祐介主将が笑顔で言うと、
「合同練習をしてお互いに切磋琢磨しましたからね。次は負けません」
と日大の齋田流星主将が握手を求めた。
次世代の戦いはすでに始まっているようだ。
★第27回全日本ライフセービング・プール競技選手権大会 成績表
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