2017年、ゴールデンウィークの始まりと共にいよいよ本格的なLSシーズンに突入、それに伴い各競技会もスタートする。
新年度最初の大きな大会といえば、きたる5月20-21日に開催される「第30回全日本ライフセービング・プール競技選手権大会」だ。
室内最高峰のこの大会でのみ行われる競技〝SERC〟は、ライフセーバーの資質が試される重要な競技である。
競技である以上、採点され順位付けされるわけで、それなら競技攻略のヒントを探るべく過去のSERCをここに振り返ってみようと思う。
参加する選手はもちろん、観覧するライフセーバーの皆さんもご一読頂き、今後のトレーニングやパトロールに役立てて欲しい。
文・写真=LSweb編集室
昨年のSERCを振り返る
始めに〝SERC〟という競技について簡単に説明しておこう。
正式名称は「Simulated Emergency Response Competition(シミュレーテッド・エマージェンシー・レスポンス競技)」といい、その頭文字を取ってSERCと呼ぶ。
この競技、海水浴場や隣接するエリアで実際に起こりうる溺水事故を想定した状況を設定し、4人一組のチーム競技者が、指定された制限時間内においていかに適切な救助ができるかを競う採点競技となっている。
昨年の第29回大会では〝とある神奈川県内の海水浴場で、離岸流が発生していくつかの事故が起こっている〟という想定の下、競技が行われた。ちなみに制限時間は90秒間だ。
もう少し詳しい状況説明をすると、救急車とAEDはすでに要請済み。現場には以下の救助資機材があり、使用は自由である。
①.レスキューチューブ1本
②.救急箱1個(傷病者記録表、三角巾、ハサミ、感染予防用ゴム手袋、タオル)
詳しくは、次の図1と図2を拡大して見てもらえば、状況設定がより理解できるはずだ。
図1 | 図2 |
キーワードは「基本」と「継続」
上記の競技シチュエーションを踏まえた上で、この状況下でのポイントを探ってみたい。
今回、解説およびアドバイスを頂いたのは、第29回大会でSERC競技運営を統轄したSERCワーキンググループ責任者の来島慎太郎さんだ。
── 今回の設定は、過去の大会に比べるとどこにでもあり得るシンプルな状況設定になっていると感じたが?
現在のライフセービング界の流れで、心肺蘇生のガイドラインが変わったことから、特に〝救命の連鎖〟という点が注目されていますので、そこにフォーカスした内容となりました。
〝救命の連鎖〟を簡単に説明すると、救助をしてきてCPRなどの処置をして、その後、救急隊へしっかりと引き継ぐという一連の流れに着目して作られています。教本にもしっかりと記されている従来からある救命の基本の流れを重視した内容ということです。
── 各審判員は今回のSERCにおいてどの部分をよりシビアに、重点的に見ていたのか?
基本的なところは、これは例年通りのことですが、まず自分の身の安全を確保した上で救助に行くことだったり、CPRではしかるべき方法で継続して行っているかといったSERCにおいて優先的なチェックポイントとなるべき点は全く変わっていません。
その延長線上で、今回は〝救命の連鎖〟という部分での一連の流れがスムーズにできているかというところをしっかりとチェックしていきました。
── 今回、全体を通して各チームがよく出来ていた部分、逆にあまり出来ていないなと感じた部分をあげるとすればどこか?
皆さんしっかりとできていた点は、セルフレスキューの部分にも関わりますが、身近にある浮力体(チューブやビート板等)をしっかりと持ったり使ったりして溺者にアプローチしていました。こうした点は随分浸透してきているなと感じました。
もう少ししっかりと行って欲しいと思った点は、傷病者記録表の記入です。ここは今回のテーマとして大事なポイントのひとつだったので、しっかりと行って欲しかった部分です。
もう一つ、今回の設定として一般遊泳客がCPRを行っている状態を再現していました。
ここでは、これまで救助を行っていた一般遊泳者から状況を聞きながらCPRを引き継いで継続するという措置が一番適切なのですが、声掛けはできてもライフセーバー自身がCPRを引き継いで継続するというところまでできていたチームは少なかったですね。
CPRは技術を持ったライフセーバーでも1人で2分以上続けると精度が落ちてくるといわれています。救助の場面で、一般の人がCPRを行っていたのであれば、即座に代わってより適切な心肺蘇生を行って欲しいところです。
まずは新たな事故が起きないようにケアをすることが一番大事であるとされているのですが、そこの部分は怠らず、なおかつ心肺蘇生の継続という部分でも人命救助の観点からも重要視されているところなのでしっかりとやって欲しいと思います。
さらに付け加えれば、傷病者記録表は書いているけれど、CPRは行っていなかったというチームもありました。
記録表を書くのも大切ですが、一般人がCPRを行っていたらまずは代わってCPRの継続だという意識を持って欲しい。
よくできていたチームは、CPRを行いながら一般客にこれまでの状況などを聞いていました。そして仲間とCPRを交替したら即座にこれまで聞き取ったことを記録表に書き落としていました。
これは素晴らしい対応です。記録表に書くべき事や重要な情報は何かということが、記録表を見ずとも頭に入っているからできることです。実際のパトロール活動でも確実に役立つでしょう。皆さんもぜひ実践して下さい。
── 最後にSERC設置委員会から競技者であるライフセーバーの皆さんへ一言。
繰り返しになりますが、普段から傷病者記録表を使うという意識を練習の時からしっかりと持って欲しいなと思います。
記録表に情報を記してあれば救急隊に引き継ぐときにもスムーズに事が運びますし、自分たちがどんなことに気をつけて救助すればよいか、またどんな情報を伝達すればよいのかといったことが見えてくると思います。
もうひとつは、やはり〝CPRの継続〟という部分です。救命時にはとにかく圧迫を続けることが大事だといわれていますので、そこを大事にして欲しいと思います。
SERCに限っていえば採点競技という特性上、なかなか難しい部分もいろいろとありますが、我々(競技運営側)のスタンスとしては、まずは基本に立ち返りそれをしっかりと押さえた上で、次にこういったところを(競技者に)求めていこうという順序立てで見させてもらっています。これらを踏まえ、まずは基本をしっかりと見据えてやってもらえればよいと思います。
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SERCはあくまでも競技である。
競技として捉えれば、心肺蘇生の継続的なケアが必要な人の優先順位度は、それほど高くないというのが正直なところかもしれない。
ただ、そうはいっても心肺蘇生の継続は人命救助の観点からも重要視されている部分なので、決してなおざりにしてはいけないだろう。
来島さんの解説を通して垣間見えたのは、SERC競技にしても実際の救命にしろ、「二次的事故を出さないように細心の注意を払いながら軽溺者を優先的に助けつつ、重溺者など他の溺者に対しても心肺蘇生の継続といったできる限りのフォローをしていく。そしてスムーズに救急隊に引き継ぐこと」がひとつ重要なポイントになっていること。
こうした認識を持ってSERCに臨めば良い結果に繋がるだろうし、ひいては夏場のパトロール活動においても万が一の時に役立つのではないだろうか。
さて、今年の大会ではどのような状況設定がなされるのだろう?
参加される選手の皆さんはもちろん、見る側も基本をしっかりと思い出しながら、今夏のパトロール活動に向けてシュミレートしてみて欲しい。
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※Competitionsカテゴリに昨年アップした『SERCを攻略せよ! 全日本プール直前プレビュー』記事でもSERCのポイント解説を取り上げています。
また、過去の『全日本ライフセービング・プール選手権大会レポート』もあります。これらの記事も合わせてご覧下さい。
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