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第26回 全日本ライフセービング種目別選手権大会 競技会レポートVol.2
2013/06/05
The 26th Japan National Lifesaving Individual Championships Report Vol.2
どんな状況にも対応できる
頼もしいライフセーバーを目指して
波のサイズも落ち、カレントも弱まり、昼ごろからは風もオンショアとなった大会2日目。
ラフなコンディションでの予選を勝ち抜いたライフセーバーたちは、静かな闘志を内に秘め、決勝レースにのぞんだ。
2013.6.1-2 静岡県浜松市・舞阪海岸
文・写真=LSweb編集室
混戦の男子オーシャン種目
そして、唯一の団体競技を制したのは?
大会初日は波と風、そして横に流れる強いカレントに苦戦した選手が多かったが、決勝に進出した選手たちはさすがに力があり、見応えあるレースが展開された。
男子のオーシャン種目で、最初に決勝が行われたのがサーフレース。スタートから飛ばしたのが、長身の中本直也(拓殖大学LSC)だ。今年、大学4年生になった中本は、スイムの実力者。終盤までトップを守っていたが、最後の最後で波に乗ってきた益子進一、菊地 光の九十九里LSC勢に追いつかれ、逆転されてしまった。
優勝は益子。
「全日本クラスでの優勝は初めてなので、素直に嬉しいです」
という益子は、社会人3年目。学生時代より少し丸顔になったが、上手く練習できる環境を築けたようだ。2位は社会人1年目の菊地、中本は惜しくも3位だった。
前日よりはサイズダウンしたが、大会2日目も波のあるコンディション。うねりや波を上手にとらえるテクニック、波に乗り続けるハンドリング力、そして同じ波に乗った選手たちの中から、いかに前に出るかの判断力と経験値が、勝敗の分かれ道になった。
1次予選、2次予選、そして準決勝を経て決勝レースが行われたのが、男子ボードレースだ。参加233人の頂点に立ったのは、楽々と波に乗り続けた長竹康介(西浜SLSC)だ。クラフトに乗る姿は、円熟味すら感じさせる安定感だった。レースを終えた長竹は、
「あーよかった、という感じです。ほかのレースは運がなかったので(笑)」
とホッとした表情を見せた。
2位は大学4年生の高岡洋介(国士舘大学LSC)が入った。
「前半は速い人についていき、後半はうねりを捕まえていくと考えていました。康介さんは全然見えませんでしたが、最後、3人が同じ波に乗った時に絶対に乗り続けよう、そして波から下りる場所もココ! と決めてやりました」
と興奮した口調でレースを振り返ってくれた。
3位は昨年も同順位だった小出大祐(東京消防庁LSC)、4位は全日本チャンプで、今年から大阪での大学生生活を送っている小林 海(大阪体育大学LSC)だった。
女子同様、ドライフィニッシュが採用されたサーフスキーレースでは、スタートから飛び出した篠田智哉(勝浦LSC)が終始レースをリードし、種目別のタイトルを手にした。国際武道大学出身、千葉県勝浦市で消防士として働く篠田は、
「スタートが上手くいったので、落ち着いて漕ぐことができました。最後はいかにうねりをつかむかだと思っていたので、良いうねりが来た時に、ここで出し切るぐらいの気持ちで漕ぎました。それで抜けることができたのです」
と日に焼けた顔を、実に嬉しそうにほころばせた。
篠田の後は波に巻かれて沈艇が続出し、大混戦に。次にゴールラインを切ったのは後関裕輔(東京消防庁LSC)、続いて荒井洋佑(西浜SLSC)、草柳尚志(和田浦LSC)、そして長竹だった。
後関はラダーが海底に刺さり、スタートで大きく出遅れたが、ベテランらしくきっちりリカバリーして表彰台に上った。ちなみに、2位の後関から5位の長竹までは日本体育大学OBという顔ぶれだった。
今大会のようなコンディションで、スキーが接触するような場面の対処方法を、海外でのレース経験も豊富な飯沼誠司HPTコーチに聞いたところ、
「あの状況では、巻き添えを食うのは仕方がないですね。僕がそうなったら、ドライフィニッシュの利点をつかって、当てられた瞬間にスキーを捨て、その波に乗ってボディーサーフィンします」
という答え。オーストラリアのレジェンドライフセーバー、トレバー・ヘンディーも使う技だそうだ。
オーシャンマンレースでは上位3人の順位がはげしく入れ替わった。
まず、スキーでリードしたのが長竹だ。続くスイムでは、内側で先行する長竹を真ん中から落合慶二(東京消防庁LSC)、外側から三木翔平(湯河原LSC)がとらえ、最終のボードへと続けた。
観衆が見守る中、トップで戻ってきたのは三木。長竹、落合を押さえての優勝だったが、本人はあまり実感がないようで、
「康介さんはどこ? と探しながらボードに乗っていたら、なんか勝っちゃいました」
とポカンとした表情。その横で、クラブメイトの西山 俊が感激の涙を流すという、ツッコミどころ満載の感動シーンが展開されたのだった。
波のあるコンディションでのボードの上手さには定評がある三木。
「自分的には、一生懸命練習したボードレースがダメだったことのほうが悔しくて……。あっ、でもオーシャンマンでは思ったとおりのコース取りができました」
と勝因をあげた。
今大会、唯一の団体種目であるオーシャンマンリレー/オーシャンウーマンリレーも白熱した戦いが繰り広げられた。
オーシャンウーマンリレーでは、スキーで下田LSCの小松崎あゆみと西浜SLSCの篠が同じ波に乗ってきたが、最後に篠が沈。その間に日本大学SLSCの三井が2位に上がった。ところが、次のスイムで西浜SLSCの高校2年生、上野真凜が波に乗り一気に逆転。ボードの上村真央、ランの佐々木聡美と繋ぎ、この種目を制した。
一方、オーシャンマンリレーは目まぐるしく順位が変わる展開に。
まずスキーで絶好調の勝浦LSC、篠田が飛び出すと、その後ろに西浜SLSCの石川修平、九十九里LSCの出木谷啓太が続いた。続くスイムで、拓殖大学LSCの中本と流通経済大学LSCの大出 旭が先頭に躍り出たが、ボード前半で湯河原LSCの青木将展、西浜SLSCの荒井洋佑が逆転に成功。最終ブイを回るころには、青木がリードを広げていた。
ところが、そこから一波乱が起こる。ブイを回ってうねりを掴みかけた青木が、沈をしてしまったのだ。あとで聞いたところ、ブイのロープにフィンを引っかけてしまったのが原因だそうだが、荒井がみるみる差をつめ同じ波に乗ってビーチを目指す展開に。勝負はラン走者へ託された。
僅かの差で先に走り出したのは、湯河原LSCの深井俊光。その後ろ姿を追うのが西浜SLSCの小田切伸矢だ。昨年秋の全日本でも同じようなシーンがあった。その時には、ゴール間際で小田切が逆転に成功したが、今回は深井が逃げ切り湯河原LSCに勝利をもたらした。
勝浦LSC、竹澤康輝
ビーチフラッグスでグランドスラム達成
ビーチ種目もオーシャン種目に負けず接戦が繰り広げられた。
舞阪海岸の砂浜は、砂粒がしっかりした重量感のある柔らかさ。大会会場でトレーナーステーションを開設し、選手のケアに当たってくれた国際武道大学の笠原政志トレーナーチームヘッドコーチによると、
「シーズン前ということもあり、砂浜でしっかり練習してきている選手は少ないと思います。舞阪海岸のビーチは案外、柔らかいので、競技を重ねていくと思った以上に筋肉に疲労が溜まってくるでしょう。つったり、肉離れを起こす選手がいるかもしれませんね」
ということだった。
そんな舞台で行われた女子ビーチスプリントの決勝レースでは、思わぬダークホースが優勝を手にした。スイムが得意な栗真千里(銚子LSC)だ。競泳出身の栗真は、これまで個人でビーチ種目に出場したことはなかった。しかし今回、思うところあってビーチスプリント、ビーチフラッグスにエントリー。ビーチフラッグスでも準決勝まで進む健闘を見せた。
「日本代表として世界大会に出場したいのです。そのためには、スイムだけではないということをアピールしなければと思って」
と栗真。ビーチ競技の経験は、学生時代にビーチリレーに出ただけで、社会人となった今は、夜しか練習できる時間がないそうだが、小柄で華奢な体型からは想像できないガッツと、身体能力の高さを持っているのだろう。1位を告げられた瞬間、満面の笑みで両手を高く掲げた。
7位に入賞した水間菜登(勝浦LSC)も、栗真と同じく水陸両用?!を目指す選手。すでに代表入りしている長身の水間と小柄な栗真。そんな2人の日の丸コンビが見られる日も来るのかもしれない。
俊足自慢が集まった男子は、石井雄大(日本体育大学LSC)が昨年秋の全日本に続き優勝。西浜SLSCの小田切が2位。3位にはこの種目で初めての表彰台となった竹澤康輝(勝浦LSC)が入った。
女子2kmビーチランでは、陸上部出身の山田美月(日本体育大学LSC)が力を発揮して優勝。2位は佐々木聡美(西浜SLSC)、3位には廣江史子(大阪体育大学LSC)が入った。
男子は中川慎太郎(流通経済大学LSC)が残り300mでラストスパートをかけた。勝利を確信したのか、ゴール前ですでに泣きそうな顔になった中川。
「がんばっているのになかなか成績がついてこないクラブのために、ここは自分が勝たなければならないとがんばりました」
と震える声で話してくれた。
残すは男女のビーチフラッグスのみ。知名度の高い競技とあって、たくさんのギャラリーに囲まれながらレースが行われた。
女子の注目は、昨年、ユースの世界大会で銀メダルを獲得した利根川莉奈(成城学園LSC)、学生チャンピオンの但野安菜(勝浦LSC)、インカレ2位の川崎汐美(日本女子体育大学LSC)など。大学生3人は最初から好調で、スピード感あるレースを展開していたが、5回戦で利根川が敗退。社会人の高見澤春香(今井浜LSC)が試合巧者ぶりを発揮し、銅メダルを獲得した。
インカレと同じ顔合わせとなったラストレースは、どちらがフラッグを取るか最後まで分からない展開となったが、最後は但野が競い勝った。
「クラブ以外での練習はなかなかできませんが、その分、競技の動画などを見て研究しています」
と言う但野は大学3年生。高校まで剣道部だったという2位の川崎は大学2年生。2人のライバル関係はとうぶん続きそうだ。
元世界選手権銀メダリストの植木将人(西浜SLSC)、昨年の種目別チャンピオン和田賢一(式根島LSC)、インカレと全日本を制した竹澤(勝浦LSC)、さらに小田切(西浜SLSC)や、生きの良い大学生たちが顔を揃えた男子ビーチフラッグス。
ベスト3を決める6回戦で波乱が起こり、会場がざわついた。なんと、優勝候補の一人である和田が、スタートの時に手の甲に顎がついてないと不正スタートを取られ敗退。決勝は、一時代を築いた植木と、大学4年生、竹澤の一騎打ちとなった。
注目の一戦を制したのは、竹澤。ランで植木を押さえての完勝だった。
これで竹澤はインカレ、全日本、種目別のグランドスラムを達成。大学生として初の快挙を成し遂げた。
「植木さんは憧れの人。でも、僕も強化指定選手に選ばれていますから、がんばらないと……。今まではスプリントが苦手でしたが、今回はビーチスプリントでも3位になれました。そこを強化したことが、ビーチフラッグスの勝利につながったと思います」
と竹澤。まぐれで三連勝はできない。竹澤時代、到来か!?
●男子ビーチフラッグス 優勝者コメント
★ ☆ ★
波のあるコンディションで、見応えのあるレースが行われた今回の種目別。確かにラッキー、アンラッキーが起こりやすい状況ではあるが、それ以上に実力差がハッキリした大会だった。
本当に力がある選手は、アクシデントを回避する冷静な判断力を持っているし、アクシデントに巻き込まれてもきちんとリカバリーできるパワーとテクニックを持っている。そんな場面を随所で見ることができた。
パトロールシーズン前に行われる種目別は、今の自分の技量を知り、来るべきシーズンに備える大会でもある。ならば可能なかぎり、こういうタフなコンディションで競技ができる会場を選んでほしいと思う。
来年は千葉県の九十九里本須加海岸での開催が決まっている。本須加海岸はサーフポイントとしても人気で、また横に流れるカレントが強い場所でもある。来年、どんなレースが展開されるのか今から楽しみだ。
=敬称略。
★第26回 全日本ライフセービング種目別選手権大会 成績表
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